第8話 …そこまでする?
「王命である!」
国王と宰相の言葉に、グラディウス侯爵は驚愕する。何の打診もない、一方的な決定事項だ。「なぜ…?」と問いたくても、ガクガク震えて声が出ない状態にあった。そんな父親を見たディアナは、ため息をついた。
「今後、ディアナ・グラディウスの王都からの外出を一切禁ずる!勿論、領地に戻る事もまかりならん」
「…そこまでしゅる?」
「ふっ。やはりお前が問うか」
ディアナの問いに国王がニヤリと笑った。ディアナの不遜な物言いに、侯爵が慌てて娘を窘めた。
「よい。ディアナよ、好きに発言せよ」
侯爵以下全ての貴族は、国王の臣下である。『王命』に逆らえるハズもない。もし、逆らえる者がいるとすれば、それはミレーネ王妃ただ一人である。
「事前に打診しようが、しまいが、『王命』は覆せない。だから、打診しゅる必要もない。と、云うことでしゅかね?」
「そうだな。」
「…横暴だなぁ」
「すまんな。それに、どうせ王族に入る為の教育も始まるのだ。王都の外に出る暇などないぞ?」
ふふっと笑いながら陛下は言う。
「な、なぜ、ウチの娘なのですか?」
グラディウス侯爵は、やっとの思いで声を絞り出す。
「なぜ?お前はディアナのステータスを見た事は無いのか?」
「一度も見た事はありません。転生者のようなので、もしかしたらレアスキル持ちかも?と思った事もありますが…」
「ディアナ、ステータスを開示せよ!」
渋々、ディアナはステータスボードを開いた。
陛下はニヤリと笑い、王妃は椅子から立ち上がり、宰相は目を見開いた。
「魔力量二十万超え…そんな数字が存在するのか…」
【名前】ディアナ・グラディウス
【種族】人間
【年齢】5歳
【性別】女性
【職業】−−− ★☆*
【称号】王太子妃候補 転生者
【体力】200
【魔力】253000
【攻撃力】20 /100
【防御力】40/100
【体術】Lv.3/100
【剣術】Lv.1/100
【魔術】Lv.62/100
【魔法】炎Lv.32 水Lv.65 氷Lv.57 雷Lv.45 風Lv.70
緑Lv.70 土Lv.81 光Lv.90 闇Lv.44 浄化Lv.80
回復Lv.76 時Lv.72 空間Lv.89 支援Lv.77
防御Lv.60 ✳+?✕
【スキル】鑑定 収納 錬金術 映像 複写
△◎▼●
「体力系以外は、熟練のS級冒険者以上だな」
「えぇ、とても5歳児のものとは…」
「魔道師団長でさえ、魔力量1000に届くかどうか…」
「ね、ね?ディアナは凄いのです!」
場違いにはしゃぎ気味のゼノンの様子に苛立ちを覚えたディアナは、ゼノンを睨む。
「ゼノンは、何もわかってない。笑ってる場合じゃない」
「ディアナ、何を言ってるんだ?」
首を傾げるゼノンのステータスを見る。その結果に、やはり…と眉を顰めた。
国王が王命で『婚約』と言った瞬間、ディアナの称号に『王太子妃候補』がついた。だが、ゼノンの称号には『王太子』も『王太子候補』もない。第一王子のままだ。
ゼノンと婚約したから『王太子妃候補』になったのではなく、ディアナと結婚する者が『王太子』もしくは『王太子候補』になると云う事になる。考えたくはないが、ディアナ次第でゼノンが廃嫡になることもありうる。
「本当は、婚約なんてどうでもいいんだよ。陛下はね。」
「え?」
「あっはっは!」
国王の大きな笑い声が響いた。
「ディアナ、お前はそこに思い至るか」
ディアナは王の方に向き直り、睨みを効かせる。
「私を囲い込んで何をさせたいの?」