第79話 レベッカ・バートン5
マルティナに付いてトルクに入って約2週間、ビーツに奪われた土地を奪還したと云う知らせが入った。
「これで一安心できるわね」
「被害があまり無くて、良かったです」
レベッカはマルティナと共に喜んだ。そして、そろそろ引き上げようかと云う時になって、ルーキウス国王がビーツ国に進軍する事を宣言した。
「また、戦争ですか?」
レベッカは恐る恐る聞いた。国境警備にあたっている兵団長は答えた。
「虐げられている国民の保護を優先とする進軍だと、本部は言っている」
それから3日が経過した。トルク城に、各教会から20人程、魔道師団から10人、大公妃や高位貴族の夫人や使用人達、街の食堂を営む料理人や騎士達が集められた。そして、軍務卿の隣にいるのはディアナ。
「亜空間の中に医療施設を作りました。皆さんにはその中で医療作業にあたっていただきます」
ディアナのスキルで作られた亜空間内の医療施設は近代的で、レベッカが知る前世の巨大病院とかわらない位だった。ディアナは、この病院を持ったままビーツ国内に潜入し、国民を保護して回るのだと言う。
「危険過ぎない?」
「結界が張れるので大丈夫です」
マルティナとディアナの会話を背中越しに聞きながら、「死ねばいいのに…」レベッカはそう思った。この時、レベッカにある変化が起こっていた。レベッカのステータスから『聖女候補』の称号が消えた。だが周囲の人間はおろか、レベッカ本人もその事に気付いていなかった。
その夜、10人位の患者が施設内に送り込まれてきた。その姿は頬が痩せこけ、肋骨がくっきりと浮き出ていて、服と云うにはあまりにも粗末な汚れた布を巻いただけと云う有様だった。悪臭も酷く、何がこびりついているのか判らない位のものが手足を覆っていた。
マルティナが浄化魔法をかけ、レベッカ達に引き渡す。レベッカ達回復要因がヒールをかけ、手のあいた者が着替えをさせベッドに運ぶ。ある程度の体力が戻ると患者達の一部は作業を手伝うようになった。そんな日々が数日続いたある日、レベッカにとって見慣れた服装の少年少女が15人送り込まれてきた。
「日本人だ…」
ヒールをかけながら、こっそり鑑定してみた。
高スペックに、レアスキル、中には『聖人・聖女候補』が4人もいた。
「これじゃ、私の立場は…?」
レベッカは呆然とした。「どうかしたの?」隣にいた教会関係者から声をかけられたレベッカは、「魔力切れみたい。ちょっと休んでくる」とその場を離れ、休憩所でお茶を飲んだ。
「ディアナ嬢、凄いなぁ」
「あぁ、何でもグリーンアナコンダの落札代金を全部、この施設につぎ込んだっていうぜ?」
「は?金貨100万枚って言えば、小国のひとつ位は買える金額じゃねえか!」
「おうよ、それを全額人助けに使うってんだから、凄えよな。ディアナ嬢こそ『聖女様』と呼ばれるに相応しいと思うがな」
そんな会話が耳に入ってきて、レベッカは愕然とする。
その立ち位置も、その称賛も私のモノだったハズ。
どうして、ディアナは私から全てを奪うの?
今、私がやっている事は、ディアナの名声をあげる為に仕組まれた事だったの?
数日後、ビーツ国の国王ロドリーゴ・イルマとその家族が捕縛され、完全制圧が完了したと告げられた。
「ん〜久々の外の空気〜。でも、この景色を見るとちょっとね?」
「施設内が快適だったからね〜」
ディアナの亜空間収納から出された医療施設は、トルクとビーツの国境近くに設置された。施設からわらわらと人が出てきて、思い思いの行動を取り出す。レベッカは、それに紛れて南側に少しずつ移動し、林の中に身を隠した。
「他の国に行こう…本物の聖女を必要とする所に…」




