第7話 何も知らない子供だったから
「あの時、俺は7歳。何も知らない子供だったから、まるで自分の事のように誇らしげに話してしまった」
「お兄様だけではないわ。私もディアナもよ。何も知らない子供だったから、持つ能力を自然に使い、受け入れてきたもの…」
「叔父上だけが、ディアナに『人前で使ってはいけない』と注意してくれたと聞いた」
ゼノンは大公を見た。シメオンは、何の話なのだろう?と首を傾げながら様子を見守る事にした。
「目の前でディアナが浄化魔法を使った時は『聖女』なのかと。だが、ディアナは否定しながらステータスを見せてくれたよ」
職業欄にも称号欄にも『聖女』と云う文字は無かった。だが、代わりに非常に高い魔力量と、この世のほぼ全ての魔法が使える事、多種多様なスキル、そして暗号のようなものが3つ程見てとれた。
「規格外であることは、一目瞭然だった。周囲に知られれば、家族と引き離されて教会か国に縛られるのがオチだ。だから、ディアナには注意したのだが…多分、ゼノンの侍従が陛下に密告したのだろうな」
「そして、お兄様から裏付けを取ることで、罪悪感を植え付けたのですね。腹立たしい、あの狸親父!」
「実の父親をそんな風に言うもんじゃありません!」
ソフィアがベアトリーチェを窘める。シメオンは「ん?」と云う表情をした。
「お兄様が面会にいらした翌日、陛下が地下牢に見えられたのですが、開口一番ディアナに『ステータスを見せろ!』と、そして見たら見たで私には目もくれず帰ったのですよ!しかも、数日後にはお兄様とディアナの婚約?私の廃嫡?アレを実の父親だとは思えませんわ!」
おそらく、今までの人生で一番長い文章で喋ったであろうベアトリーチェは、貧血を起こしかけソファに深く体を預けた。
「あ、あのぉ…ベアトリーチェ姉様が廃嫡とか?陛下が実の父親とか…いったい、何のことですか?」
「…!?」
「ベアトリーチェ姉様は、大公の実子では無い?」
「シメオン、何も知らされてなかったのか!?」
ゼノンが面会に訪れた数日後、オクタヴィア大公とグラディウス侯爵、ディアナが一緒に地下牢にいるベアトリーチェの元にやってきた。
「ディア、今日は遅かったわね。魔力循環はすませてあるわ。次は何をする?」
ディアナとの訓練の甲斐あって、暴発しがちなベアトリーチェの魔力はかなり落ち着いてきており、苦手だった発動ですらすんなりできるようになった。ディアナは毎日面会に訪れ、ベアトリーチェの成長に合わせて手を変え熟練度を上げてきた。また、ベアトリーチェも新しい事を覚えることが楽しくて「もっと、もっと」と思うようになった。
「ベア、私…ゼノンと結婚する事になったっぽい」
「え?お兄様と?もしかして、私と義理の姉妹になる?」
ディアナは、「うん」と頷きつつ、うつむき唇を噛み締めた。
「ベアトリーチェ、よく聞いてほしい。まず、ディアナが言った様に、ゼノンとディアナの婚約が決定した。そして、ベアトリーチェは養女に出される。」
その日、ユリウス・グラディウス侯爵とディアナは国王に呼び出され登城した。通されたのは王の執務室に併設された応接間。その場には、国王ガイウスと王妃ミレーネ、第一王子ゼノン、宰相のクレイトス・イーノが居た。
「グラディウス侯爵、良い娘を持ったな」
「はっ…ありがたき幸せにございます」
国王の第2王女ベアトリーチェが気難しい性格で、子供らしい遊びを好まないことから「転生者では?」と噂されていた。その遊び相手として、同じく「転生者」とされていたディアナが引き合わされた。その場で意気投合した3歳の時以来、ほぼ毎日二人は遊んだり勉強したりしている。それは、地下牢に幽閉されている今も続いていて、その労いの為に呼ばれたのだろうとグラディウス侯爵は思った。
「グラディウス侯爵家長女、ディアナを第一王子ゼノンの婚約者とする」