第69話 ビーツ
「私がキリルに向かう際、山岳部を避けるコースを取りました。ですが、途中で激しい豪雨に遭遇し、通る予定の道に出られずビーツに停泊する事を余儀なくされたのです」
アイマン皇太子は、ビーツに立ち寄った時の事を話し始めた。
街は荒れ果て、至るところに浮浪者が寝転がっている状態に呆然とした。住居らしき掘っ立て小屋が並び、悪臭を放っていた。
アイマンの付き人が住民にお金を握らせ「宿はないか?」と尋ねたが「無い」と言う。
そればかりか、握らせたお金を突き返してきた。「お金なんか貰ってもしょうがない。食べ物をくれ」と言われたので、移動中の非常食として積んでいた芋や乾燥肉の類を出すと、貪るように食べ始めた。いったいどの位食べていなかったのか?と心配になった。
わらわらと人が集まりだしたことで「この場にいては危険」と判断し馬車を走らせると、警備兵らしき一行に止められた。
「何者か!?」
それはとても高圧的な態度で、まるで尋問の様だった。
「私はメディナ王国の皇太子・アイマンだ。旅の途中、豪雨に見舞われたので宿をとりたく立ち寄ったのだが…」
そう言うと、態度をコロっと変えた。黄金の採掘国であるメディナ王国の名前はよく知られている。しかもそこの皇太子とあれば、見過ごす事も出来なかったのだろう。「王城に案内する」と言い出した。正直なところ、アイマンは居心地の悪さを感じて、一刻も早くこの国から脱出したいと思っていた。
ビーツの王城は、銀鉱山の山間をくり抜かれて作られた天然の要塞だった。城の入り口で案内を待っていると、敷地の外れから一人の兵士が怪我をした鉱夫を引きずってきた。
「ど、どうかお助けを…」
「使い物にならない者はいらないと、国王からのお達しだ。すまんな」
そう言うと、兵士は敷地外の崖に怪我をした鉱夫を放り投げた。
「なんてことを!」
「この国では、普通の事ですよ。働かざる者食うべからずですな。初めまして、ビーツ国王ロドリーゴ・イルマです」
振り返るとそこには、みっともない位にアクセサリーをつけたオーク…もとい、恰幅のいい男が立っていた。
「貴方がメディナ王国のアイマン皇太子…ようこそビーツに。何やらお困りと伺いました。とりあえず、城でお休み下さい」
舐め回すような視線を向けたあと、にこやかに勧められたが、どうしてもその気になれず「通過の許可だけいただきたい」と、王のサインの入った許可証だけをもらい、脱出する事にした。
その道すがら、酷い仕打ちを受ける奴隷の姿や、もうとうに死んでいるだろうと思われる子供を抱いた女性の姿を見た。
また、道端に生えた草を引き抜いて口に入れ、吐き出すを繰り返す子供達の姿に、心が痛んだ。
後ろ髪を引かれる思いだった…と、アイマンは語った。
「ビーツとは、それ程に酷い国なのですか!?」
「昔は、天空の国とも呼ばれた孤高の国だったが…」
銀鉱山は古くから発掘が進められていたが、採掘量を絞り込んでいたのだと云う。採掘された銀は他国に輸出され、得た収入は高山では入手しにくい塩や薬に替えて、国民に配給した。元々、自給自足と牧畜で生活をしていた彼らは、それで満足だった。
そんなある日、ルーキウス王国を追放された貴族・イルマ家がビーツに入国した。「保護」の名目で王城での滞在を許したが、2年程後に国王が逝去。王族は全員行方知れず。代わりにイルマ家が実権を握る事になった。
「国がのっとられた?」
「そう云う事だな。酷い話だろう?放置していてもいずれ自滅するだろうが、それまでにどれだけの民を失うのかと思うと、潰してやった方がいいんじゃないかと私は考えている」
メディナ国王は、そう言った。




