第64話 レベッカ・バートン3
レベッカが学園を辞め、教会にやって来て約1ヶ月が経った。
その間、何人の怪我人を治療しただろうか。
当初は、『聖女候補の称号を持った転生者』として期待されていた。
だが実際に怪我人の治療をさせても、使えるのは初級ヒールで、しかも魔術レベルが低くかすり傷を治療できる程度。即戦力となるには程遠かった。
そのくせ、「私は聖女になる女なのよ」と高飛車な態度を取り続け、学園にいた時同様に周囲から浮いていた。
「あの娘は、何のために来ているの?」
怪我人や病人の治療もせず、看護をする事もない。じゃあせめて洗い物や掃除でもやってくれれば、少しは役に立つのに。
もう、誰もレベッカの事を気にもかけなくなった。誰もが彼女を『聖女候補』として見なくなった。
ヒマ潰しに教会にやって来ては与太話をしていくお年寄り連中が急に姿を見せなくなると逆に心配になるが、レベッカはいるだけで皆の神経を逆なでした。
「それでも、彼女は私達と同じ給料を貰えるんだから、やってられない」
数人の治癒師が辞めて行った。
そんな時、ルーキウス王国の教会を拠点とする現聖女が、重い風邪のような症状が蔓延した辺境の地から、治療を終え戻ってきた。
その姿が他の聖人候補達と同じ看護服で、神々しさは無く至って普通の人間だった事に、レベッカはガッカリした。
「辺境はいかがでした?」
「うん、風邪によく似た感染症だったみたい。思いの外感染力が強いから、あっという間に広がって身動きがとれなくなってた。とりあえずは快方に向かってる様だから、衛生面にはくれぐれも気をつけるように伝えてきたわ」
現聖女、名前はマルティナ・アジャンという。以前は他国を拠点とする冒険者だった。パーティの回復と支援を担当していたが、アンデッド系魔獣と戦った時に光魔法を覚え、光魔法のレベルがある一定のレベルに達したときに浄化魔法を覚えた。所謂、派生型で魔法を覚えた支援系魔道士だ。
仲間の結婚と共にパーティは解散。他のパーティからの誘いを断って教会で治癒師として働くようになり、『聖女』と呼ばれるようになった『職業聖女』である。
「皆が忙しく立ち回っているのに、なぜあの娘だけ何もせずに、ボーっとしてるの?」
マルティナがレベッカの事を職員に尋ねた。「それが…」職員は、マルティナが居ない間に学園と政府に押し付けられたのだと説明した。
「そう。国王様に報告に行くから、処遇について話してみることにするわ」
マルティナは国王に謁見し、辺境の地で起こった感染症拡大の経緯と治療完了の報告をした。
そして、レベッカの話をすると、途端に国王が不機嫌になった。だが、レベッカの事を放置することもできず、マルティナは国王にある申し出をした。
「現在係争中のトルク王国に彼女を連れて行きたいと思います。戦争で傷ついた人を見ても心が動かないようなら、諦めて放逐します」
トルク王国とは、ストラトス王国の隣りに位置する小さな王国で、現在、隣国のビーツから攻め込まれている係争中の国である。
「危険だぞ?」
「冒険者稼業が長かったので、大丈夫です」
「わかった。ではストラトス側から入れる様に手配しよう」
そして、国王はマルティナに「使っていない光魔法の熟練度の上げ方」と「魔力量増幅の方法」がある事を明かした。
「後で、空の魔石と共に魔道師団長を向かわせるから、職員達全員でやってみてくれ」
「助かります」
その時だった。謁見していた国王の執務室のドアがバーン!と開けられた。
「アンドレア、会いにきてやったぞ!」
「は?」
「お祖父様、今、聖女様が謁見中だって!」
「義父上、ベアトリーチェ!?なぜ、ここに!?」




