第63話 無理ですね
「久々に可愛い孫に会えたのに、もう行ってしまうのか?」
国王は旅立つベアトリーチェに、寂しそうに訴える。
「護衛任務みたいなもんだから、仕方ないでしょ?また来るから、ね?元気だして」
流石に2〜3泊したいとは言い出せなくて、到着した翌朝の出発となった。そんなやり取りを見ていると、あるものがディアナの目に止まった。それは、相当に疲れた様子の20人位の団体で、騎士団に引き連れられて行く所だった。
「陛下、あの団体は?」
「隣国からの避難民じゃよ。ウチで一時的に保護して、ウチに残るもよし、ルーキウス王国に移住するも良し…」
ディアナは走った。そして一人の男を捕まえた。
「あなた、転移者ね」
「え?」
「あなた、日本人ですよね?」
「えぇ、そうです。あなたは?」
「私は、元日本人の転生者よ」
アイマンに頼んで1時間程時間を貰った。
彼の名前は、中野雄一。年齢は35歳だと言う。職業は観光バスの運転手で、転移したその日は修学旅行中の高校生を旅行先に送る途中だったという。長いトンネルを走行中に落盤事故が起き、おそらくバスが3台程巻き込まれているハズだと言う。せめて子供達だけでも助かって欲しいとあたりを見回すが意識を失い、気がつくと戦争中の隣国にいたのだと。
「もしかして、他の人もこちらの世界に来てるかも?」
「やはり、ここは違う世界なんですね?」
「うん。そして、返してあげることはできないの…」
「そうですか…自分はいいんです。でも、子供達が…」
中野は涙を浮かべた。ディアナは、彼の保護を決断した。
「陛下、グラディウス商会はどこですか?」
「ん?グラディウス商会なら、その前の道を…」
差した指先に見覚えのある人物が一人。
「ルッツ!」
「お嬢、何して…」
「商会に連れて行って!」
ルッツの案内でグラディウス商会ストラトス支部に着いたディアナは、支部長に「道を繋ぐ」と言っただけで、小会議室に案内された。まず、ストラトス支部とイオニア本部を繋ぎ、イオニア本部から中野を連れて王都支部に異動し、支部長室にいた侯爵の前に立った。
「お父様、お願いがあります。彼は転移者です。私が帰宅するまで保護してください。当座の生活費は私が出します」
「え…と、ディアナ、後ろ…」
侯爵に言われて後ろを振り返ったディアナは驚愕する。中野だけではなく、ストラトス国王並びにアイマン皇太子他全員が後からついてきていた。
「あ、やっちゃった?」
「あぁ、やらかしたな…」
「ぷっ。お嬢らしい」
「侯爵、すみません。止めるのが間に合いませんでしたわ」
能力がバレてしまったが、そこは「見なかった事に」と、笑ってごまかしたかった…
「ここまで来たなら、わしはミレーネに会いたいのぉ…」
気を利かせたアイマン皇太子が「出発は、もう1日伸ばしましょうかね」と申し出てくれたので、甘えることにした。
ストラトス国王はベアトリーチェと一緒に王城へ向かった。中野の住まいは、グラディウス商会の単身者寮に決った。ディアナが戻るまでは、商会の仕事を手伝いながらそこに居て欲しいと頼んだ。
「ごめんね、いきなり身の振り方を勝手に決めて」
「いいえ、助かります。働かせて頂けるのなら、何でもします。よろしくお願いします」
「他の人も見つけ次第連れてくるよ」
「ありがとうございます」
ディアナは、ルッツにアイマンを連れてストラトスに帰ってもらう様に頼み、中野を単身者寮に連れて行った。
「ディアナ嬢は、凄いスキルや魔法が使えるのですね」
「殿下、申し訳ありませんが、ウチの娘のしたことを全部忘れてくれませんかね?」
「ふふ…お気持ちはわかりますが、はっきり言って無理ですね」




