第60話 ゼノン2
「ディアナ様から頂いたこの腕輪、凄いですね」
斥候を務めるトーマスが言った。冒険者としての第一歩「薬草採取」をしていた時に、突然ウォーウルフの群れに囲まれた。地上に魔獣がいないルーキウスと違って、ほんの目と鼻の先に人が住む街があっても、魔獣が生息しているという事だ。
「腕輪に頼り過ぎるなよ!」
キースは、得意の氷魔法で5体程のウォーウルフを氷漬けにしながら、トーマスに警告する。
騎士団出身のジンとロイズは、それぞれ10体ずつの首を刎ねていた。
3匹を倒し4匹目にとりかかろうとしていたゼノンに、ジンが声をかけた。
「ゼノン様、首を刎ねるよう狙ってください」
「わかった」
4匹5匹と、どうにか倒した。総数32体。
「ウルフ系は、毛皮、牙、爪が買取対象となります。できるだけ、傷をつけない様に倒す努力をしましょう」
「了解した」
倒したウォーウルフをマジック巾着に収納し、薬草採取を終え冒険者ギルドに寄った一行は、ギルド前で思わぬ人物に遭遇する。
「そこにおられるのは、ルーキウス王国第一王子のゼノン殿か?」
豪奢な馬車の中から声をかけてきたのは、メディナ王国の皇太子アイマンだった。
メディナ王国は、ルーキウス王国より遥か南に位置する砂漠に覆われた国である。
人が生きる上で必要不可欠な水源を確保するために、あちこちで井戸を掘る作業が進められているが、目下のところ水魔法や氷魔法に頼らざるを得ない状況が続いていた。
そんな時に、いくつかの井戸から黒いどろりとした水が吹き出した。しかも、その黒い水は燃えると云うのだ。
その黒い水の正体を調べるために諸国を旅していると、ゼノンは聞いていた。
「アイマン殿、メディナに戻るところですか?」
「えぇ、キリルの国王様から有力な情報を得られましたゆえに、資料を持って帰るところなのです」
「それは重畳でございましたね」
「今日はプロイスで宿を取っておりますので、後ほど食事でも如何ですか?」
ゼノンは「喜んで」と返事をし、立ち去るアイマンを見送ると、冒険者ギルドに入った。
倒したウォーウルフは毛皮にいくつか傷を残したため、差し引かれて32体で金貨12枚となった。薬草の分と合わせて金貨15枚が即座に支払われた。
「ルーキウス王国での買取よりも、かなり低めですね」
トーマスが言う。
「珍しくないからだろうな」
とキースが答えた。
ゼノンは、改めて自国の先達者たちの素晴らしさを思い知った。
そして、ゼノンは手早く身支度を整え、ジンを連れてアイマンを訪ねた。
「おや、他の方々は?」
「肩苦しいのは苦手だと申しまして」
「あはは、気になさらずともよかったのに…」
高級宿のレストランでの食事は意外に豪華で、王城で食すものとほぼ変わりがなかった。
「先程耳にしたのですが、ゼノン殿の婚約者がグリーンアナコンダを討伐したそうですね?」
「そのようです」
ゼノンは苦笑いした。「はしたない」と言われる覚悟をした。
なぜならば、メディナ王国は厳しい戒律のある宗教国家だと聞いていたからだ。
女性は家庭を守ると云う戒律で、仕事をすることはおろか、外を歩く事もままならないとか。
メディナでは、十数人の女性を寝所に囲い、子を生んだものから順に第1夫人、第2夫人とする習わしなのだと言う。
夫人達は夫の籍には入れず、生まれた子供のみが入籍される仕組みらしい。これは「血筋をハッキリさせる」為のものだと言われている。
「グリーンアナコンダを見てみたいな。私もオークションに参加出来るだろうか」
「開催日まで、あと1週間。ギリギリですね」
「よし、決めた!明日出発だ!」




