第6話 …俺のせいだ。
ゼノンがオクタヴィア公爵邸に引き篭もって3日が過ぎた。
「さすがに3日目となると、ちょっと…」
ドアを蹴破って、強引に引っ張り出そうかと思案しているところに、城から使者がやって来た。
「叔父上、叔母上、お久しぶりです」
「シメオンか…!立派になったな!」
大公は甥で第二王子のシメオンの頭をぐちゃぐちゃにかき回す。
「もう〜まだ子供扱いしてるじゃないですか〜」
「あはは、ついな」
「この度は、兄上がご迷惑をおかけして申し訳ございません。すぐ、連れ帰りますので」
「バレてたか…」
「他に行くところはありませんしね。しかし、今回の事、父上はかなりお怒りのご様子でして、ほらこの通り…」
シメオンは、ひらりと1枚の紙を見せた。
『出頭命令書
本日正午に、執務室まで出頭せよ。
出頭なき場合は、二度と城門をくぐることは出来ないと思え。
ガイウス・オブ・ルーキウス』
「…陛下の直筆だ…」
呆れた様子の大公に、シメオンは苦笑いするしかなかった。
そこに、ソフィアとベアトリーチェに脇をガッシリ固められたゼノンがやって来た。
「兄上、陛下からの出頭命令です」
「わかった」
「ちなみに、ディアナ嬢も出頭する模様です。」
「…俺のせいだ」
「そりゃ、3日も逃げてれば…」
「違う。そう云うことじゃなく…ディアナから自由を奪ったのは俺なんだ」
ベアトリーチェが地下牢に入れられて1か月程経過した頃、やっと面会許可をもらえたゼノンは記帳所に急いだ。
怖さで震えてないだろうか、寂しさで泣いていないだろうか、食事はちゃんと摂れているだろうか?
手にベアトリーチェが好きな菓子をたくさん詰めた袋を持ち、「殿下、走ってはなりません!」と侍従が止めるのも聞かずに走った。手早く記帳をすませ、階段を降りる。入り口の衛兵への労いもそこそこに、地下牢に足を踏み入れる。
「…?」
侍従ははて?と首を傾げた。以前に来たときは、ゴツゴツした岩肌のような壁や床で、汚水が溜まり悪臭を放っていて、息も出来ない程だった。改修工事をしたとも聞いてはいなかった。なのに、床はマーブル調のタイルが敷かれ、壁は柔らかいクリーム色で明るさと暖かみを感じた。
「今日の魔力操作は、ここまででしゅ」
「ふぅ…ちゃんと出来てた?」
「出来てましゅ。次は、この空の魔石にベアの魔力を注入して下しゃい。やり方は、魔力循環と同じようにゆっくりと…」
いくつか並ぶ鉄格子の中程から、声がした。おそらく、自分達より先に来ていたディアナの声だろうと思われるのだが、そこに姿がない。声がする牢の真前にたどり着く。そこには、なんと!牢の中でテーブルを挟んでディアナとベアトリーチェが向かい合って座る姿が。
「「あっ!?」」
4人の声が重なった。まんじりともしない空気が漂う中、最初に口火を切ったのはディアナだった。
「てへっ!バレちゃった」
その夜、珍しくゼノンの部屋を国王が訪れ、息子を膝に乗せた。そして「ベアトリーチェの様子はどうだったか?」と尋ねられたゼノンは、答えてしまう。
「おとなしいのはいつもの事ですが、元気にしておりました。それも、ディアナのおかげなのです。ディアナは、すごいんですよ!」
浄化魔法や転移魔法が使える事、錬金術でベッドやテーブルを作っていた事。また、ベアトリーチェに魔力循環の方法や調整のし方、魔力増幅のコツを教えていたことなど、ゼノンがその日見た全てを父親に話して聞かせた。
「そうか、そうか。ディアナは凄いな」
話したい事を全部話せて満足気なゼノンとは裏腹に、国王はもう既に父親の顔をしていなかった。