第56話 ゼノン1
我ながら情けないと思った。自分は確かにあの時、陛下とディアナが踊る姿を見て嫉妬したのだと、断言できる。
あの時の陛下の甘い眼差しや、まるで壊れ物を扱う様に優しい指先を、ディアナを包み込む様な体を思い出すと、心の中がもやもやした。
そして、幸せそうなディアナの笑顔に、なぜ自分はあの笑顔を引き出せなかったのか?と腹が立った。
いっそ、この腹立ちをディアナにぶつけてみようかとも思ったが、いざとなるとその勇気もない。幸いにして、新しい鑑定具の事でディアナが忙しくしていたので、ルーキウス王国を出るその日まで会う事もなかった。
「行ってくる」
やっとの思いで絞り出した言葉があれだ。
余りに情けなさ過ぎて、自分を殴りたくなる。
リベラ共和国の首都プロイスにやってきて約10日、レオナルド・グラディウスに案内され首都周辺をまわった。このあと、グラディウス商会の一員として働く事になっているが、果たしてそれだけでいいのか?と気になっていた。
そんな時、ベアトリーチェが王都近くでダンジョンを発見したと云うニュースが入ってきた。
次いで、ディアナが黒い森でグリーンアナコンダを討伐し、オークションに出品すると云う話だ。
「あはは…あいつら、やってくれるなぁ…追いつけるのか俺?」
護衛について来た騎士団員二人を含め全員が揃った夕食の時間。ゼノンは、姿勢を正し言った。
「俺は、これから冒険者になろうと思う」
シーンとした空気の中、続けた。
「レオナルドについて、経済的な面で学ぶ事は多いと思う。だが、それだけでいいのか?と…もっと、人を知るべきだと思う。だから…」
「解りました」
最初に返事をしたのは、鑑定スキル持ちでグラディウス商会に就職が決まっていたにも関わらず、ついてきてくれたトーマスだった。
「いや〜、いつ言い出すだろう?って待ってましたよ。ね?」
魔道師団に入隊が決まっていたキースが護衛の二人に話を振った。
「えぇ、殿下の元気の無い姿は見たくありませんしね」
「俺は、じっとしてるのが辛くて…」
ロイズの言葉に皆大爆笑だった。
それを見ていたレオナルドが言った。
「それもいいでしょう。やると言うのなら、支援は惜しみません。そして、忘れないで下さい。ここで私が貴方がたの帰りを待っていることを。このグラディウス邸を拠点として下さい」
「やぁ、できるなら可愛い女の子に、待ってて欲しいな」
護衛騎士のロイズがポロっと本音を吐いた。
「そんな〜」
絶対に反対されると思っていたが、皆が自分の意を汲んでくれた事が嬉しかった。それよりも、そんなに心配をかけていたのかと反省した。
「心配かけてごめん。これからは仲間として、よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
冒険者登録はルーキウス王国を出る時に全員済ませてあるが、リベラでカードが使えるのかレオナルドに聞くと、冒険者ギルドはカードが使えるが、商業ギルドとの連携がうまくいってないらしく、報酬は現金払いになるらしい。
「そこで、ジャジャーン!これあげる」
レオナルドが小さい巾着を出した。
「ディアナが3歳の時に作ったマジック巾着」
お金はもちろんの事、荷物も馬車2台分位入るらしい。閉じ紐の先端についた玉は魔石で、触ると中に入っているものがリスト表示されるとの事。
「中にポーション類入れてるから試してみて」
ゼノンが魔石に触れてみた。
ポーション 50本
ハイポーション50本
魔力ポーション50本
「あ、空の魔石ありますか?」
「あれをやる気だね?」
「はい!」
「あるよ。とりあえず、500渡しとく」




