第4話 爆誕!勇者・・・(仮)?
「時々ね、君のような人が現れるんだよ。」
ゼノンは項垂れたレベッカに向かって言う。
「特に聖女候補の子がね。やたら接触して来たり、ディアナを貶めようと画策したり。正直、うんざりなんだ。」
冷めた目で見られてやっとレベッカは、ゼノンを怒らせている事に気づいたらしい。肩をふるわせ、涙ぐみながら「ごめんなさい…」と呟いた。
憧れだった。
特殊な能力を持ち、誰かに必要とされ、皆に愛される。聖女になることは、レベッカの欲する事全てを叶えられる、唯一の希望の光だった。
学園に入学以来、ゼノンをストーキングするがディアナと接触する様子が全く見られず、「きっと、殿下がディアナを避けているのだ」と勘違いをしてしまったのだ。
もしかしたら、王太子妃ってこともあり得るんじゃ?と思い始めると、ほんの僅かなチャンスでも逃したく無かったのである。
「今回の事は、罪には問わない。だが、ディアナには謝罪してくれ。」
「ディアナ様、ごめんなさい。この事を父には…」
「あ、そうか!バートンって、うちの領地の一角を任せてるバートン男爵家のことか!」
グラディウス侯爵家は、ルーキウス王国の南西部に領地を持つ領地貴族で、グラディウス商会を経営する商人貴族でもある。一族から辺境伯や官僚を輩出してきた家系である。
レベッカの父親、ロレンツォは元は平民の役人だった。実直な性格で数字に強かった事から、グラディウス商会の経理部門に引き抜かれた。その後、商業的中継地点のバートンの支店を任される事となり、同時に姻戚関係を結びバートン男爵として封じられた。よって、グラディウス侯爵家の家系図の末端に加わったということになる。
「ディアナ、そのニヤニヤ笑いをやめなさい。レベッカさんを、誤解させているわ」
「いやぁ、残念。もっと緻密な計画を立ててほしかったなぁ…と」
ため息まじりにベアトリーチェがディアナの頭をはたいた。
何のことか解らないレベッカはキョトンとし、途中で気付いたゼノンは驚愕する。
「ディアナ、お前は俺との婚約破棄を狙ってたのか!?」
ベアトリーチェを除く全ての者が目を点にした。給仕は手に持ったトレーを落とし、侍女たちは口を手で抑え悲鳴を飲み込んだ。
「俺が嫌いか?」
「まさか!嫌う要素無いし。だから『真実の愛を見つけた』とか言って、他の人を好きになってくれないかな?って…」
「それも、テンプレと云うやつなのか?」
「うん。テンプレ。」
「自由になったら、何をする気なんだ?」
「私ね、冒険者になりたいの。だって、せっかく魔法と剣の世界に転生したんだもの、冒険したいよ!ドラ●エの世界とかF●の世界とか、憧れだったの。色んな経験したいよ。」
ゼノンは一度天を見上げ、「あぁ…そうだったのか…」とため息をつくと再びディアナを見つめた。
「解った。婚約を破棄したい旨は、陛下に伝えておく」
「ごめん…ゼノン、殿下…」
居た堪れない空気漂う中、転生者であろう生徒の声が聞こえた。
「転生者にしか理解できない感覚かもな…」
「俺だって戦えるスキルや魔法があれば、冒険者になりたかったって思う」
「王太子妃の座を蹴るなんて、勇者だな。」
「いや、そうじゃないんだ」とゼノンが言いかけたその時、「うへっ!?」とディアナが素っ頓狂な声を上げた。
「どうした、ディアナ?」
「今、新しい称号が…」
転生者だけが表示できるステータスボードが現れた。
【名前】ディアナ・グラディウス
【種族】人間
【年齢】16歳
【性別】女性
【職業】学生 ★☆*
【称号】勇者(仮)王太子妃候補 転生者
「は!?」
「勇者!?」
「いやいや、(仮)って何!?」