第33話 猛獣使いと枯れ専
「グラディウス侯爵家、ディアナ様ご入場!」
王城の大広間に、ディアナの到着を知らせる声が響くと、それまでの喧騒が嘘のようにピタっと止んだ。その中をレオナルドにエスコートされ、国王陛下への挨拶の列に並ぶ。前には順番待ちが10人程、後ろ側にも4人程が並び、最後にオクタヴィア大公とベアトリーチェが入場してきた。
古くからのしきたりで、入場や挨拶は爵位の低い者から始められる。早めに登城して控室で頃合いを待つ者もいれば、ギリギリにやってきて列に割り込む者もいる。元日本人として「割り込みは許せない」性質のディアナにガツン!とやられた貴族も少なく無い。だから、こういった会場でディアナに遭遇すると、ビクビクと怯える者も多くいた。
「国王陛下、王妃殿下、ご機嫌麗しく…」
「レオナルドか?久しいな。今はどこにいるのだ?」
「リベラ共和国の首都で修行中です」
もっと話したそうにしている陛下を「あとがつかえておりますので」と宰相が促し、レオナルドとディアナは第一王子、第二王子に挨拶して、列から外れた。そして、最後のオクタヴィア大公の挨拶が終わると、国王陛下の「成人を祝う言葉」と共に、舞踏会が始まった。
最初のダンスは、エスコートの相手とが通例で、それはあくまで「これまでの集大成を王族に見せる」為のものである。
その後、三々五々に分かれて、気になる相手にアプローチをかける事になるのだが、ディアナとベアトリーチェの二人には誰も近づけないようである。
仕方がないので、お互いのパートナーを入れ替えた。
「ベアトリーチェ様、妹と冒険者になるというのは本当なのですか?」
レオナルドは気になっていた事を聞いた。
「えぇ、本当です。小さい頃からの夢でしたから」
「妹が無理強いしたワケでは無いのですか?」
「ふふっ…ディアナはアレで、他人を困らせたり不快にするような我儘を言ったことは無いのですよ?」
「ですが、ひとつの事に集中すると周りが全く見えなくなる性格が心配で…」
「私が見張ってますわ。たまに、殴る事があるかも知れませんが」
「差詰、ベアトリーチェ様は猛獣使いのような?」
「まぁ、私が猛獣使いだったら猛獣は…?ふふっ、酷いお兄様ですわね?」
二人の会話を背中越しに聞いていたオクタヴィア大公は、笑いを堪え切れず吹き出した。「猛獣」扱いされた事に納得行かないディアナは、顔をしかめた。
「なぜ仏頂面をしておるのだ?」
その声に振り返ると、国王が玉座を降りディアナの前にやって来ていた。
「ディアナよ、私とも踊ってくれまいか?」
異例の事態に周囲はざわついた。舞踏会で王妃と踊る事はあっても、令嬢と踊ったと云う前例はない。しかも、玉座を降り自らの足でディアナの前までやってきたのである。
ディアナは困惑して、オクタヴィア大公とミレーネ王妃を振り返った。二人共、ニッコリした顔で頷いた。
ディアナが差し出した手を取り、肩に手を回す。
「安心感も包容力も半端ないな。そして、すごく甘く優しい」
ディアナはそう感じた。
「このまま、この人の腕の中にいたい」
そう思ってしまった瞬間の事だった。
「お前も、私の大事な娘だと思っている。無事に戻って来い。いいか、必ずだ。」
「はい!」
そして国王はゼノンを呼び付け、二人の婚約を宣言した。
「ここに、第一王子ゼノンとグラディウス候爵令嬢ディアナの婚約を発表する。今日は、時間を忘れるまで寿いで欲しい」
ゼノンと一曲踊ったあと、ディアナは個室に籠もった。
前世、ファザコンの自覚があった。
今世、やはりファザコン気味で、オクタヴィア大公推しだった。
「マジで、ヤバかった。私、枯れ専だったのか…」




