第32話 今更の話なんだけど
「では、これ程の物が出来上がったのは、失敗を繰り返した挙げ句にスキルが向上したおかげというわけか?」
「恥ずかしながら…」
ハンディスキャナー型と自動改札型のデモンストレーションも同時に行った。ハンディスキャナーには、アイテム鑑定証と入国用の仮カード発行機能をつけた。自動改札型には人物識別機能をつけ、カード登録者と通行者に相違ある場合はゲートが閉まるようにした。いずれにしても、鑑定スキルMAX『神の目』を付与した魔石を使っているので、犯罪者の識別も可能だ。
「ディアナよ、これらを役所や両ギルドにも見せたいのだが、場を設ける事は可能か?」
「もちろんです」
「購入が決定した場合は、どうなる?」
「自動改札型は素材にもう少し改良が必要かと思いますが、量産体制は出来ています。あと、注文受付や購入金額に関してはグラディウス商会に一任致します」
鑑定具の販売権はグラディウス商会に譲った。その代わりに開発にかかった費用の支払いの他に、協力してくれた職人達全員に家2件が新築出来る位のボーナスも支給してくれるらしい。そして、鑑定具の特許権はベアトリーチェとディアナの連名で登録が成された。
2週間後に設定された役所関係へのプレゼンテーション迄の間に、宮島鉄工所のアルミニウム工場の隣の使われていない建物を改造し、ステンレス工場と鑑定具の組立工場を作った。宮島が遺した設計図や資料を元にエルが監修し、工作機械などの製造も順調に進んでいるらしい。これらは既にグラディウス商会出資により進められており、作業員も近隣の街や村から集められた。
プレゼンテーションが終わるや否や注文が殺到し、工場やグラディウス商会はてんやわんやの大騒ぎになっていた。
だが、工場の資料室で魔石にスキルを付与するだけの作業をしていた二人は退屈していた。
「ねぇ、ディア…今更の話なんだけど」
「何?」
「婚約発表の準備はしている…わよね?」
「あっ!?」
「あと3日しかないわよ?何やってんだか…」
ディアナは慌てて作業を終わらせ帰宅したところを、母親のミーシャに呼び止められた。
「ゼノン殿下からドレスが届いてるわよ」
打ち合わせをするヒマもなかったのに何故?と首を傾げるディアナにミーシャが言う。
「あなた、ちっとも家にいないから、ミレーネ王妃様と私とでやっておきました。他の令嬢様方のデビュタントでもあるのだから、しっかりとね?」
そうだった、そうだった。ディアナは、へらへら笑ってごまかした。
年に一度、王国内の16歳になった貴族の令嬢子息を集めて行われる社交界デビューのお祭りみたいなものなんだが、良く言えば集団見合い、悪く言えば令嬢品評会のようで、ディアナは「気持ち悪い」と思っていた。出席を辞退することは出来ないが、ベアトリーチェと二人で個室に籠もろうと考えていた。ところが、国王が「婚約披露をする」と言い出したので、そういうわけにもいかなくなった。
「やぁ、良かった。なんとか間に合ったようだ」
「お兄様?」
リベラ共和国の首都プロイスにあるグラディウス商会で修行中のハズの兄レオナルドが帰宅した。
「父上から、ディアナのエスコートを頼まれたんだよ」
「あら、お父様は?」
「ディアナが発明した鑑定具のおかげで、あちこちから説明会を依頼されて飛び回ってるよ。で、『間に合いそうに無いから代わりに、お前行け!』って。聞けば、正式に婚約披露もするらしいじゃないか。おめでとう、ディアナ」
その晩ゆっくり休んだレオナルドだったが、翌日は朝から資料を手に『鑑定具開発秘話』をディアナに求め、終日談話室にこもった。




