第30話 鑑定の魔道具6
ディアナとベアトリーチェは、工作機械の取説の翻訳を急いだ。二人が学園に行っている間にも、エルが工場を稼働できるようにするためだ。鑑定具の外殻作りが始まるとクリエと王都の工房の人達も集まり作業に参加した。
そして、付け足したい機能を含めた回路図が出来上がると、基盤作りに取り掛かった。足りないパーツを補う為に、鍛冶の手伝いもした。アルミニウム追加の為に、ボーキサイトの洗浄作業から精錬作業に移った頃、ディアナの錬金術スキルに変化が起きた。
『3:鉱石採取・抽出・注入・加工
4:金属採取・抽出・注入・加工』
鉱石と金属の加工ができるようになったが、これが実はとんでも無いスキルだった。
かつてディアナは、地下牢でインベントリに入れた材木を使い、イメージしただけで家具を作っている。その時は、全く意識せずに使っていたスキルだったが、今回アルミニウムの生成をイチからやってみて判明したのは、一度でも全工程を経験してスキルを得ると、生成の過程を経ずともボーキサイトを含む鉱石や土から直に生成されたアルミニウムを抽出できるようになった事だ。
「自分で使う分だけなら構わないけど、工房の職人の仕事を奪うことになるから、この事は秘密にしたい」
ベアトリーチェに打ち明けると、賛同してくれた。
そして、一方でディアナは侯爵に頼んでアルミニウム生成に関する特許を宮島達男とエルの名前で登録してもらった。
「ディアナは、それでいいのか?」
「うん。だって、アルミニウム工場を作ったのは宮島さんだし、あの工場を守ってたのはエルだもん。私は、宮島さんが遺した資料を翻訳しただけ。その代わり、鑑定具でガッツリ稼がせて貰うから、よろしく!」
アルミニウムのリサイクルの事も、エルと宮島鉄工所の工場長に丸投げした。あとは『付与』問題だけだった。
「炎の魔石持ってないか?」
クリエ支部から宮島鉄工所に「炎の魔石を分けて欲しい」と副支部長のルッツがやってきた。ルーキウス王国の西部に広がる黒い森に面した辺境の砦から武器の大量注文があったらしく、注文を受けた鍛冶屋の持ち分だけでは足りず、グラディウス商会にまで話が来たのだとか。
宮島鉄工所からは、予備100個の内50個、鉄工所の資料室と繋がっている王都の工房から100個を振替伝票と引き換えに渡した。
「振替伝票?」
「あぁ、後で現金もしくは現物と引き換えてくれるんだよ」
「クリエ支部で?」
「そう云う事。でも、数足りないんだよ。全部で千個必要って、言われてんのに。」
クリエ支部の工房からやって来た男は、「う〜」と唸りだした。
「あ〜、ベアいくつ持ってる?」
「私?300。ディアは?」
「400」
「出そうか、合計700」
二人はインベントリから炎の魔石を取りだした。
「はい、炎の魔石700個」
「は!?個人所有なの?お嬢ちゃん達何者!?」
「あと150個作るか。ベアいくついける?」
「空の魔石50」
「じゃあ、私が100ね」
そして空の魔石に炎の属性魔力を流し込む。次々に作り出される炎の魔石を1つずつ目視で鑑定する男は驚いた。
「魔力を流し込んで魔石を作るなんて、初めて聞いたぞ!しかも、ベアトリーチェ・オブ・オクタヴィアって、大公様の!?こっちは、ディアナ・グラディウスって侯爵様の?」
宮島鉄工所の名前が入ったツナギの作業服姿からは想像すらしなかった相手の名前に、男は更に驚いた。
「ね、これ1個いくらで買い取りしてくれるのかしら?」
「純度によるけど、最低でも1個で金貨10枚」
「金貨8500枚か〜おいしいね〜」
「ねぇ、金貨1枚っていくらなの?」
「…さぁ?」
お金を持ったことがない二人だった。




