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第177話 約束できない

 「あ〜、私はあの話に感動してたんだけどな〜」

 「あの話?」

 「『私に口づけられるのは、世界に一人だけ』って話」


 ベアトリーチェが言っているのは、ドラゴンオークションの時にネイサン王国の皇太子イスラがディアナの手の甲にキスしようとして、ディアナがすっと手を引いた時の話だ。


 「私の初めての口づけは、陛下だよ」

 「いつ?どこで!?もしかして、媚薬でおかしくなってたから、つい手を出しちゃった?」

 「その手があったか!しくじったなぁ…」

 「「襲い受けする気かよ!!」」


 その後の、宰相が描いたクリムトの『接吻』の絵の話や、ミレーネ王妃から『側妃に差し出せるか?』と云う打診があった事に話が及んだ。


 「実際の所はどうなの?」

 「私は『陛下がそう望んでくださるのなら』と返事してます」

 「ディアナの言い方を聞く限り、『側妃』になることを望んでいるように思うのだけれど?」

 「一日の内のわずか数分だけでいい…あの方の側に居たいのです…」

 「…一途ねぇ」

 「でもお父様の性格上『側妃は持たない』」

 「そう。割り切った上でゼノンと結婚して、ずっと見つめ続けようかとも思ったけど、当て馬にするにはゼノンが良い人過ぎて…」


 三人は目が点になり、「ぷっ!」と吹き出した。


 「だから、お父様とも話し合って、商会に骨を埋める事にしました」

 「ディアナ、またどこか遠くに行ったりしないでね?」

 「ごめん。約束できない」

 「「ディアナ!」」

 「ごめん。ベアトリーチェ、沙織」


 丁度そこにオクタヴィア大公が帰宅したので、話はそこまでで終わった。


 「ディアナ来てたのかい?」

 「お帰りなさい。お邪魔してます」

 「なんのなんの。ディアナだってウチの娘みたいなものだし、気にしないで」

 「それがあなた、この3人の娘達ってばダンジョン攻略の話ばっかりで、色気が無くって!」

 「それはね〜。まあ、元気があっていいじゃないか?」

 「大公様、見事な親馬鹿っぷりを発揮してますね」

 「ふふっ。そうかな?」

 「ええ」


 夕食を一緒にと薦められたが用があるのでと断り、ディアナは屋敷に戻った。



 その頃シャーメンでは、ディアナの結界に封じ込められる原因となった王芳と王艶が、国王から酷い叱責を受けて謹慎中にあった。


 「やられたな…」

 「外に出られないだけではなく、外から中にも入れないとは…なんなの、あの力は?」

 「聖女なんて生易しいものではなかった、と言う事だ」

 「イスラの女好きに騙された感があるわね?」

 「いや、どうかな?俺は、益々手に入れたくなったが?」

 「確かに、あれ程の力が有れば領土拡大や世界統一は容易くなるわ…でも」

 「でも?」

 「あれは、そんな次元を遥かに超えてる気がするのよ。手を出してはいけない人物のような…」


 王艶の勘はよく当たる。

 ディアナ・グラディウスの事はひとまず置いて、別の方面から策を練ろうと考えた王芳は、王艶にあのことを聞いてみた。


 「あれは、もうできそうか?」

 「あれ?」

 「儀式だ」

 「ああ、勇者召喚の儀式ね。もうすぐ、場が整う所よ。ドラゴンの魔石を入手出来た事が大きく影響したわ」

 「それは良かった」

 「あとは、現場を維持出来る魔力持ちが数十人欲しい所だけど、難しいわね」

 「魔力持ちが少ない土地柄だからな」

 「あと数ヶ月位迄には起動出来るようにしたいわ」



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