第171話 ネイサン王国の滅亡
「ディアナ、救出は完了したわ!」
地下牢の入り口を護りながら戦っていたディアナに、ベアトリーチェが声を掛けた。
「判った!じゃ、撤退するよ!」
撤退の号令を出すも、敵はそれを許さなかった。
銀の髪に銀色の瞳、褐色の肌の傭兵達が次々にディアナを襲うが、ディアナはスパパパーと流れる様な動きで、一気に10人を斬り倒した。
「ただの聖女では無かったようだな?」
剣を手に立ちはだかる王芳の問いにディアナは答えた。
「私は聖女じゃないよ」
「なぁ、シャーメンに来ないか?一緒に、一緒に…世界を取りに行かないか?」
「断わる。そんな事に興味はない。そんなことのために、レベッカやゼノンを!」
「ち、違う。待ってくれ!一度話がしたかったんだ」
「何を話す事があるの?」
「我が国の王朝を倒したい。そのために、力を貸して欲しい」
「…え?」
王芳の言葉に、ディアナは躊躇した。その真意を確かめようとしたが、王艶が割って入った。
「兄上、転移の魔法具の準備ができました!脱出しましょう!」
ディアナは左の手で闇魔法のブラックホールを発動させた。
ブラックホールがネイサンの宮殿を人ごと吸い込んで行く。中に国王がいる事は判っていた。使用人達がいる事も判っていた。皇太子イスラも叫びながら吸い込まれて行った。
(私は今から、罪の無いネイサンの国民を虐殺する悪魔になってしまうんだな…)
それでも、止められなかった。
こういう国を放っておいたら、また同じ事をする。だから、潰すと決めてきたのだ。
王芳と王艶は転移の魔道具でシャーメン方面に脱出した。
ディアナは、ベアトリーチェ達を亜空間内に放り込み、ネイサン王国に展開中のブラックホールはそのままに、ネイサンにもシャーメンにも国全体を包む結界を張った。
「ディアナ、どうしたのだ!?」
キリル王国側からアーダルベルトが飛んで来た。
「ネイサンを…潰しちゃった」
「とてつもない魔力を感知して、やって来て見れば…凄い光景だな…」
「たくさんの罪の無い人を…」
「ディアナ、しっかりしろ!」
ディアナは、アーダルベルトに支えられてルーキウス王国の王城に戻った。
「ディアナ!無事か?怪我はないか?」
慌てて駆け寄りディアナの身を気遣う侯爵に、ディアナは泣きながら抱きついた。
「お、お父様、私は人殺しになってしまった…」
アーダルベルトに促され、亜空間に保護していたベアトリーチェ達を開放した。中にいる間に、沙織がレベッカの治療や浄化を続けていたようで、人に見せられる程度にはなっていた。
レベッカは直ぐに客室に運ばれ、記憶を抜き去る作業に入った。
メラニアはレベッカの記憶とステータスのすべてを奪った。そして、あらたな記憶として、家族思いの優しい女の子として生まれ変わらせた。
他のバートン男爵家の者からは、娘がかつて聖女候補だった記憶や娘に関する全ての記憶を改竄した。
「必ず守ると約束したのに、ごめんなさい…」
眠るレベッカの頬を撫でながら、ディアナは謝罪した。
そして、バートン男爵との事前打ち合わせ通りに、サント・アンジェのペリエにある宿屋の新主人として引っ越しをさせた。
こうして、グラディウス侯爵家の家系図の末端に名を連ねたバートン男爵家は抹消され平民となった。
メラニアの記憶消去、書き換えなどの作業を見ていたディアナは、宰相クレイトスの「スキル『神の目』を持ってしても見えなかった前世の記憶」の事を思い出した。もしかして、彼の記憶もこのようにして抜かれてしまったのかも?と思った。
それから、ディアナは王都の屋敷で軟禁状態になった。しばらくすると、おそらく司法裁判所に出廷する事になるだろうと思われるからだ。
その間、ディアナは様々なスキルを付与した魔石を大量に作り、インベントリに収めた。自分がいなくなっても、商会が困らないように出来るだけの準備を始めた。




