第169話 天使か女神か
宰相に促され、国王の執務室に移動した。
「ディアナか、サント・アンジェからもう戻ったのか?」
「陛下、ゼノンが今ネイサンにいると云う噂を耳にしましたが?」
「そ、それは…」
しどろもどろになる国王にディアナは詰め寄った。
「陛下!」
仕方なく、国王は事の詳細をディアナ達に説明した。
最初に届いた書状の日付はひと月半程前のものだった。
「私達がサント・アンジェに向かう前に判っていたのですね?なぜ、教えてくださらなかったのですか!?」
「あなたを失う訳にはいかないのよ、わかって頂戴」
ミレーネ王妃が懇願するような目で言った。
「体を使って篭絡させ、既成事実を作って皇太子妃に収まろうとでもしたのかしらね?」
ベアトリーチェがポロっと言うと、沙織が反応した。
「ルーキウス王国では、あまり身分の差を気にすること無く過ごせる為気づきませんでしたが、サント・アンジェに行ってみて貴族ではない私の名前を呼ぶ事さえありませんでした。男爵令嬢など本人自身は平民なのに、皇太子妃になんてなれるはずがない…」
「その通りよ…」
「私、今からネイサンに向かいます」
「ディアナ!!」
皆が一斉に立ち上がった。
「陛下や王妃様が私を護ってくださっていることは知っていました。正直に言うと、私はもうレベッカの事はどうでもいいのです。あの娘が自ら選んで取った行動の末に処刑されるのなら、それも致し方無いと…」
「なら、なぜ?」
「このままではゼノンまで拘束されてしまう。もし、シャーメンに移送されてしまうことになれば、捜索するにも奪還するにも難しくなります。今のうちにゼノンを連れ戻さないと…」
「ディアナ、あなたゼノンを助ける為にネイサンに行くと?」
「ええ。ゼノンも死ぬ覚悟を決めて行った筈。必ず連れ戻しますから」
「わかった。ディアナよ、ゼノンの事をよろしく頼む」
「自分達も行く」と云うベアトリーチェと沙織を亜空間の部屋に押し込んだディアナは、王城の中庭から飛翔魔法を使いネイサン方面に飛び去った。
青い空にぽっかりと浮かんだ雲がディアナの姿と重なり、翼を広げた鳥のようにも見えた。
「まるで、天使か女神様のようだ…」
眩しい陽の光を手で遮りながら、宰相が言った。
その後、国王はグラディウス侯爵とオクタヴィア大公を呼び、事の詳細を知ったディアナ一行がネイサンに向かった事を告げ、レベッカが戻った場合の処遇について話し合った。
「通常ならば処刑。軽めに考えて国外追放が当然の処遇かと思われますが」
オクタヴィア大公が、眉間にシワを寄せながら言う。
「それはそれでまた、バートン男爵が騒ぎ立てるのでしょうね」
ミレーネ王妃がため息をついた。
そこに、ドアを開けてメラニアが入って来た。
「わたしに、で、できること…ある」
「メラニア?」
「スキルで、きおくけす…きおく、かきかえる」
「何、そんな事が出来るのか!?」
「できる。でも、あたらしいいえが…いる。ありますか?」
「そうですねぇ、国外になりますがサント・アンジェのペリエで、宿屋の主人を探しておりましたが…」
グラディウス侯爵が思い出した様に言う。
「そこに、みんな…おひっこし、させる」
記憶は消すが、知る者が多いと矛盾が生じかねない。だから、新しい土地でイチからやり直させた方が良いと、メラニアは言う。
「男爵一家を呼び寄せる必要があるな?」
「はい…おねがい、します」
そして、バートンから男爵一家全員を呼び寄せ、記憶を書き換える事の説明をし、男爵の了解を得た。




