第14話 第一王子
10年前、この部屋で起きた出来事が、それまで安穏としていたゼノンを変えた。
ディアナの、相手が大人であろうと国王であろうと対等に話せる知識と見識、そして度胸に驚いた。
ベアトリーチェを養女に出すことで、国王と王妃やベアトリーチェを守り、オクタヴィア大公に幸せをもたらした。
なのに、自分はどうだ?後先を考えず、ディアナの事をペラペラとしゃべってしまい、結果がこれだ。
自分が「何も知らない子供だったから」ということも「ディアナが転生者で、前世での経験を考慮しなければならない」ということも理解した。
「自分のせいで、ディアナは自由を奪われた」
このことが、最もゼノンを苦しめた。
王命がくだったあの日から数日間、考えた末にゼノンが出した答えは「王太子としての責務を果たし、自分の手でディアナを自由にする」ことだった。
そのために周囲が心配するほど、剣術と勉強に没頭した。
ところがある日、自分がまだ王太子候補ですらないことを知ってしまう。
それは、王立学園に入学した15歳の時の事である。
学園には、ステータスを開示できる魔道具が置かれている。その魔道具は、人の頭くらいの大きさの水晶玉に、なんらかの方法で鑑定のスキルを定着させたものらしい。
70年ほど前に転移者が作った魔道具で、王城に1個、冒険者ギルドに10個献上された。現在は、作れる者がいないためにとても貴重なものとなっている。
学園にあるものは、王城から譲り受けたものである。
通常、転生者以外は自分のステータスを見る事は出来ない。だが、学園では剣術や体術に加え魔法の訓練も行われるため、最低でも週に一度はその魔道具でステータスを確認するよう義務付けられていた。
その水晶玉に手をかざすと、ゼノンのステータスが開示された。
15〜6歳という年齢にしては、剣術も体術もレベルが高かった。だが魔力は少々あるものの、属性を持たないゼノンは、魔法を全く覚えられなかった。そこは仕方がないと諦める。
だが、ひとつ気になることがあった。それは、ゼノンの称号が『第一王子』のままだったこと。
あの時は、どうだった?
確か、陛下が「ディアナを第一王子の婚約者とする」という王命を出した。
その後、開示されたディアナのステータスに『王太子妃候補』の称号がついていた。
王が認めたから『王太子妃候補』なのか?
ならば、自分はまだ「王太子」として認められていないということか?
いや、そもそも『称号』に誰かの意思が反映されるのか?
考えても答えは出ず、もやもやが残ったまま3年が経過しようとしていた。
学園生活も残すところあとひと月。
夏に入る頃には、魔国との緩衝地帯であるリベラ共和国に3年間の遊学に出る。そのために、着々と準備を進めていた。
「護衛の2名を含めて随行者を4名連れて行け」との事で、人選も済ませ打診したところ、全員快く応じてくれた。
場合によっては冒険者に扮することもあるだろうと思われるため近衛兵団からの護衛は選ばず、王都の警備を担当する騎士団から2人、学友から魔道師団に入る予定の者1人、そしてグラディウス商会に就職が決まっている鑑定のスキルを持つ者を選んだ。
そんな矢先に「婚約破棄問題」が浮上した。
今、ディアナは何と言った?
婚約破棄を「どうでもいい」と言ったのか?
それは、婚約破棄をしなくてもいいと受け取ってもいいのか?
もしくは、10年前の「婚約させる事が目的ではなかった」ことの意趣返しか?
ゼノンの頭の中で、色々な事が渦を巻いていた。
突然、10年前の「一発殴ろうと思いました」と言ったディアナを思い出し、吹き出しそうになった。
もう、どうでもいいや…
ゼノンは椅子から立ち上がり、王の前に跪いた。
「陛下、お願い申し上げます。ディアナを自由にしてやって下さい。」




