第10話 一発殴ろうと思いました
「これが現在の日本です」
「いやその前に、こ、このスキルは、な、何ですか?」
宰相がガクガク震えながら問う。もっとも、震えているのは宰相だけではないのだが。
「映像というスキルになります。詳細は、私にもわからないのです」
本当にディアナにも詳細はわからないのである。ただ、何の気なしに「日本の家族は元気にしてるだろうか?」と思った時にスッと現れ、実家の家族の様子を見せてくれた。また、動きがある事や会話が聞こえること、時間経過がはっきりしていることからリアルタイムでの映像を映し出していると確信している。
「で、この鏡の箱は何なのだ?」
「あぁ、それはビルと云う建物ですよ」
「は?この箱がか?」
「この城の百倍位の大きさがあります。ほら、ここに人が歩いているでしょう?」
ビルの根元のあたりを指さし、親指と人差し指でズームさせる。
「うわっ!人だ…歩いて箱に入って行くぞ!」
「蟻かと思った…」
「人がゴミのようだ!」とか言われなくて良かったとディアナは思った。
その時、ビルの上空を飛行機が通るのが映った。
「ガルーダか?いや、あの大きさならドラゴンか?」
「いえ、あの世界に魔物はいません。あれは飛行機と云う空を飛ぶ乗り物です」
「・・・」
「アレに乗れば、この王国の北の端から南の端まで2時間程度で、到着しますよ」
さすがに強烈過ぎたようで、皆が頭を抱えた。
そして、ディアナは敗戦直後の日本の姿を映像に出してみた。
「これが戦争に負けた時の日本、その20年後、50年後…」
順を追って説明しながら見せる。
「たった数十年で、あの焼け野原がここまで発展したのか…」
「はい。あちらの世界には、魔法がありません。これらは全て、国民一人一人が物事を理解しようと努め、あれこれと試行錯誤を繰り返しながら形にし、その技術を皆で共有して作り上げたものです。そして、これこそが教育の賜物なのです。このルーキウス王国でも義務教育が開始されて70年余り、その結果が出始めている頃ではありませんか?」
沈黙が流れる中、うぐっふぐっと嗚咽を漏らし始めた宰相クレイトスは、目からも鼻からも水分ダダ漏れだ。
「国民一人一人が…まさに、理想の国家です。陛下お一人で頑張らなくても、いいんですよ…ね?」
「クレイトス…」
「それぞれの分野にそれを得意とする人を置いて、一緒にやればいいんですよ。餅は餅屋ってね」
「餅が何かはわからんが、初代様が残したこの書物に、指針となるようなものが書き記されているのだろう?」
「はい、あります」
「ディアナ、すまないがまず翻訳をして貰えるだろうか?時間は掛かっても良い。」
「はい」と返事をしかけてやめた。ディアナの頭に、ベアトリーチェの事が浮かんだからだ。
「ベアトリーチェも翻訳できますよ?」
「ん?ベアトリーチェもか?」
「はい。ベアも元日本人です」
「そうか。でもな…国王として、ベアトリーチェの廃嫡を決定したのだ」
「はぁぁっ!?このクソ親父が!」
飛びかかろうとするが手も足も尺が足りず、ソファとテーブルの間にストン!とはまり込み、テーブルの足に頭を強く打ち付けた。
「ぐはっ!」
すぐさまグラディウス侯爵に抱え上げられたものの、額から血が流れていた。「手当を」と近づく宰相を押し止め、回復魔法と浄化魔法で傷を塞ぎ、血だらけになった衣服も整えた。すると国王がディアナの真前まで顔を近づけてきた。
「お前は、何がしたかったのだ?」
「陛下を一発殴ろうと思いました」
「それで『クソ親父』と?」
「はい」
「・・・」
「あははっ!」
気まずい雰囲気を打ち破ったのは、ミレーネ王妃だった。




