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星を掴んで惑わない  作者: ゼン
【番外編】きらきら光る(一話完結型)
9/9

王子様の態度

「はじめまして、エンヴェアさん」


 社長の恋人で婚約者の女性、ステラ・リイン。


 物凄いグラマラスでド派手な美女を想像していたエンヴェアは驚いた。

 とってもとっても驚いた。


 ……え、ちょっと待って。ヒューゴ社長と同い年? 嘘でしょ? では……二十八歳!?


 えー!!?


 童顔で丸い瞳の持ち主であるステラの年齢に、エンヴェアは内心とっても動揺した。

 だって、どう見たってエンヴェアよりも年下に見える。



 いつものように愛しのあの()(押しに押しまくって恋人になれた看板娘)が勤める喫茶店にランチ目的で来店したエンヴェアは、そこでステラに出会った。


 世間は狭い。

 エンヴェアの太陽(こいびと)の務める喫茶店の常連がヒューゴの婚約者なのだから、しつこいようだが、本当に世間って狭い。こんなに狭くて大丈夫かと心配になる狭さである。

 ねえ、世間、大丈夫? 狭くない? 広くなれとは言わないけれど、狭過ぎは如何なものか。


 というか、ヒューゴのいないところでステラに会ってしまったのがまずいような気がしてならない。怒られはしないだろうが不機嫌にはなられそうだ。

 でも報告しないでバレたらもっと怖いので、言わなければならない。


 エンヴェアは、ただいま絶賛打ち合わせ中の主を思い浮かべながら「はじめまして!」とにこやかに手を差し出す。

 人見知りをしないことが自慢なエンヴェアの笑顔にステラもほっと息を吐いてから手を差し出し、二人は握手を交わした。



 ステラは、話してみると博識な女性だった。

 そしてちょっぴりオタクだった。


 帝国立大図書館で働いていて、古語に詳しいそうだ。あの難解な古語に明るいことと、ヒューゴの同窓──ということは、かの名門オルトン卒である。

 つまり、ヒューゴ・キングストン好みのタイプは胸の大きなセクシーであざとい女性ではなく、童顔才女だったのだ。


 なるほどなるほど。


 エンヴェアは一人納得し数度頷いてから、あの()の作ったパスタを頬張った。


 今日も今日とて、あの()の作るパスタはとっても美味しい。

 午後も頑張ろう。





「ねえ。エンヴェア、もう一回言ってくれる?」


 絶対に聞こえたくせに、満面の(くろい)笑みでそういうこと言うのやめてほしい。怖い!


「……あの、ヒューゴさんの婚約者様にご挨拶させていただきました!」

「ステラのこと好きになった?」

「はあ!? ちょ、なんでそんな考えになるんですか!? なりませんって! 僕、つい最近恋人ができたんですよ!? 言いましたよね!?」

「そうだったっけ?」

「そうですよー!! も~~~う!!」


 なんでそんな心底不思議そうな顔をするのか。


 頭が良くて、顔が良くて、いつも余裕で、過ぎるほどに優秀なヒューゴなのに、ことステラに関わると少しばかりお馬鹿さんになる。


 ……でも、まあ仕方がないのかも知れない。

 なんてたって、恋は人を変えるので。


「ヒューゴさん。明日のランチ、一緒に行きませんか?」


 ここ一週間ほど、会食や打ち合わせでヒューゴは婚約者に会うことができないことを、秘書であるエンヴェアはもちろん把握している。

 そして、明日もステラは喫茶店でランチだということも把握している。


「…………行く」


 眉を顰めて不機嫌そうに言うヒューゴの口元はほんの少し緩んでいた。


 ああ、本当に、恋は人を変える。


 ()()仕事人間のヒューゴが休みを欲するようになって(エンヴェアのお休みも増える)、こうして感情を顕にする。


 いいことだ。


 今のヒューゴの方が、以前の彼より好ましいと思う。






 ──昼休み後。

 エンヴェアは七行前に思ったことを撤回したくなっていた。


 ヒューゴのステラへの態度ったら……何あれ。王子なの? あ、王子だった……。女子社員が『王子様』って呼んでたし。


 王子なら仕方がない……のか???


 あのキラキラな笑顔を正面から見て無事なステラは凄い。

 普段から向けられているからだろうか? きっとそうだ。

 ごくごく普通の女性だと思っていたけれど、ステラ・リインは只者ではないに違いない。


 ヒューゴ・キングストンをあんな風にするのだから。


「……エンヴェア、さっきから煩いんだけど?」


 煩くなんかしていない、物音一つ立てていなかったエンヴェアにヒューゴが放った言葉だ。


「何? 俺に何か言いたいことでもあるの?」

「いえ……あの……」


 あれ? デジャヴュ?


「言いなよ。怒らないから」

「ヒューゴさんって、もしかして二重人格ですか?」

「……エンヴェアって本当に失礼だよね。言葉に気を付けないと恋人に振られちゃうよ」

「ひいっ、なんて酷いこと言うんですかっ! 怒らないって言ったのに!」


 エンヴェアは涙目になった。

 ステラにかける優しさの内の三パーセントでいいから、自分にも優しくしてほしい。


「怒ってない。それに俺の素はあっちだから」

「え、じゃあ僕への態度は何なんですか?」

「対エンヴェアへの俺の素かな」

「ひ、酷……」

「酷くない」

「酷いですよー!」


 ぎゃんぎゃん吠えるエンヴェアに、ヒューゴは「例の案件の話だけど」といきなり仕事の話を変えたので二人の言い合い(?)は強制的に突然終わった。




 エンヴェアは、ヒューゴが自分のことを秘書として高く評価していることも、()()として好ましいと思っていることも、まだ知らない。


 それらは全て、今後長~~~く親交を深めていくことになるステラからもたらされるであろう情報であるが……まだそのことがエンヴェアの耳に入る時期ではない。



 頑張れ、エンヴェア!

 君の未来は、明るいぞ!!



 …………あれ? デジャヴュ?

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