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急襲

警鐘を聞いてただ事ではないと思い、俺はクルミ先生の元へと戻る。

単独行動は控えるべきだと判断したのか、サヤカもついてきた。


「クルミ先生!一体何が……って機械兵!?」


演習場には溢れんばかりの機械兵で埋め尽くされていた。

クラスメイト達は神徒と共に応戦している。


「こんな大量の機械兵……一体どこから!?」


「……上よ」


サヤカが上空を指差す。

上を見上げると、巨大な飛空挺が上空を遊泳していた。

ポツリポツリと飛空挺から弾き出されるように黒い点が出てくる。

徐々に近づいてくる影に俺は青ざめた。

その点……()()()()()()は演習場へと着地すると、地上の群れに迎合する。

上空には数多の黒点が散乱していた。


「……タクトくん戻ってきたのね!探しに行く手間が省けたわ!」


「クルミ先生!俺達も参戦します!」


俺は()()()()()()クルミ先生に一方的に宣言する。

何故クルミ先生が最前線に立っているのか?

その答えは、クルミ先生は人間ではなく神徒であるからだ。

こういった非常事態を想定して、諸事情で引退した神徒が講師として配属されているのである。


「感謝するような事態には遭遇したくなかったけどな!」


その采配はズバリ的中しており、頼もしい事この上ない。

しかし現状そんなクルミ先生の奮戦もあり持ち堪えられてはいるが、いつか綻びが生まれて決壊するかもしれない。

機械兵の物量的に、逃げたくても逃げられない生徒が殆どだろう。

幸いなのは敵が小型の機械兵ばかりであること。

ならば俺達……いや、サヤカの力があればこの状況を打開できる。


「……サヤカ」


「……わかってるわよ」


サヤカに頼らない決意をしたにも関わらず、こんな状況では頼らざるを得ない。

その事実が情けないが背に腹は変えられない。


金色の軌跡が機械兵の群れへと突っ込む。

すぐに埋れてサヤカの姿が見えなくなるが、多くの機械兵がその双剣に斬り刻まれて吹き飛ばされるためサヤカの位置は容易に分かる。


取り敢えずサヤカは大丈夫そうだ。

あの様子なら万が一にも不覚をとる事はないだろう。

俺はサヤカから視線を切ると、クラスメイトの姿を探す。

そして一箇所に固まるクラスメイト達を見つけた。


「……スグル!」


「ッ!……タクトか!無事だったんだな!」


「ああ!って今はそんな事どうでも良い!武器はあるか!?」


「おお!これを使え!今は少しでも人手が欲しいから助かるぜ!」


そういって投げ渡されたのは、黒光りする俺の半身程の長さの銃だ。

連射力に長け、小型程度の機械兵相手なら撃破も可能な優れ物である。


……流石は【召喚の儀】に成功した指揮官の卵達だ。

こんな異常事態にも関わらず、冷静に物事を処理している。

俺達指揮官が自身の身を守れているため、神徒達はアグレッシブに動くことができており、サヤカの活躍もあり徐々に機械兵はその数を減らしていた。

しかし、


「行ける……勝てる!」


スグルの言葉を聞いた瞬間、悪寒が走った。

勝てる?

こんな国のど真ん中にある場所に奇襲を仕掛けておいて?

小型の機械兵を幾ら嗾けたって、神徒を擁した俺たちが負ける事はなかっただろう。

そう、そんな事は簡単に予想がつく。

だとすれば────


ドシンッッ!!!


轟音が連続で五回鼓膜を揺さぶった。


「……あ、あ」


忘れもしない。

そのシルエットは例えるならば蜘蛛と言ったところだろうか。

丸い胴体から突き出た四本の脚。

その先は鋭利に研ぎ澄まされていた。


「…………大型」


先程までの小型機械兵達はあくまで俺達を疲弊させるためのもの。


「本命はこっちか!」


大型の機械兵は一人前の神徒と指揮官なら単独で撃破できる。

しかし、ここにいるのはあくまで学生であり半人前の指揮官達だ。

複数人で協力すれば戦えなくもなさそうだが、未だに小型の機械兵は降り注ぎ続けている。

このままではジリ貧になる事は目に見えていた。

俺が思考を巡らせている間にも機械兵達は動き続ける。

中央に降り立った大型が俺達の方へと歩みを進めようと長い脚を持ち上げ────、


その時、金閃が煌めいた。


「サヤカ!?」


目にも止まらぬ速さで大型を四回斬り付けたサヤカは、羽でも生えているかのような身軽さで跳躍する。

一方で斬り付けられた大型はというと、その自慢の四本の脚が根元から断ち切られ丸い胴体が音を立てて落ちた。


「ハァァァッッ!!」


やがてくるくると落ちてきたサヤカは、己の力と遠心力、ありったけを胴体へと叩き込む。

強烈な一撃を受けて貫かれた大型は、ジジ、と断末魔のようにノイズを上げると光を失う。


「つ、つええ」


そんな状況ではないと分かっているのだが、思わず声が出る。

サヤカでも流石に大型相手には苦戦すると思った。

大型を単独で圧倒するなど想定以上だ。

これなら……いける。


俺は群がる小型を蹴り飛ばすと、クルミ先生の側へと歩み寄った。


「クルミ先生。一つ提案があるんですけど、良いですか?」


「……言ってみて」


「サヤカならば大型を撃破できます。でも、今の攻撃で他四体の大型の注意がサヤカに向いています。きっと同じようにはいかない。だからサヤカと大型を一対一にする必要があります」


「……どうするつもり?」


「俺が囮になります。サヤカの指揮官(パートナー)である俺が」


「ッ!そんな危険な事させられるはずないでしょ!」


「でも俺が行かなきゃサヤカが危ないッ!召喚したのは俺だ!俺の……せいなんだ!」


思わず語気を強めるクルミ先生の横をすり抜け、機械兵達の前に飛び出す。

想像した通り、サヤカは大型の機械兵達に囲まれていた。

一対一なら大型をも圧倒するサヤカであったが、大型はサヤカをかなり警戒しており隙を見せない。

無理に攻撃しようとすれば、他の大型や小型の攻撃が飛んでくるため、思うように動けないらしい。

常に視線を動かし、隙をつかれないように立ち回っているが────劣勢だ。


「こっちを見ろ機械共ォォォ────ッッッ!!!」


突如声を張り上げた俺に対し大型達の目がこちらを向く。

どうにもこの機械達は指揮官(おれたち)を優先して狙う傾向にあるらしい。

何故なら指揮官が居なくなれば、異能の効果がなくなり神徒の力は激減するからだ。

いくらサヤカに警戒が向いていると言っても、流石に何体かはこっちを狙うはず────。


俺の思惑は成功し、3体の大型がこちらへと向き直る。


「いや、逆に多すぎる!キャパオーバーだ!」


先程威勢よく啖呵を吐いた姿は何処へやら、俺は即座に反転して演習場内を逃げ回る。

走りながら後ろを振り返れば、サヤカがまた一体大型を破壊していた。


「後、3体……ッ!」


心なしか数の増えてきた小型を避けながらの逃走劇。

いくら演出場が広大だと言え、いつまでも逃げられるほどではない。

次第に壁側へと追いやられ、額を汗が伝う。


「クソッ!」


やがて壁に背がつくほど追い詰められた俺は、残り一体となった大型と向き合った。


──……間に合わなかったか。


真ん中の大型が勢いよく長い前脚を振り上げる。

既に回避が間に合う距離ではなく、思わず目を伏せそうになった瞬間、前脚が無くなった。


「サヤカ!」


「シィッ!!」


空中で駒のように回転するサヤカが、数え切れないほどの手数で大型の胴体を斬りつける。

大型が絶叫するようにノイズを上げる。



「勝手に……諦めてんじゃないわよッッ!!!」



サヤカの渾身の一撃が大型の目を貫いた。

すると大型から光が失われ、機能が停止する。


「はは……」


思わず俺はその場に座り込み、渇いた笑みが溢れた。

首元まで迫った死から解放され、緊張が緩んだ。緩んで、しまった。


「タクトォ!!」


ドンッと横から突き飛ばされた俺は、受け身も取れず倒れ、転がる。

それはどこか既視感を伴う状況で、頭の芯が冷えた。


「スグルッ!?」


すぐに起き上がった俺が見たのは、()()()()()()()()()()()()()

胸の中央を貫かれている。

例えるならサソリの尻尾。

一匹の小型から鞭のように伸びた鋭利な凶器が、地面に赤い華を咲かせていた。


「す、ぐる」


小型がその凶器をスグルの胸から抜くと、力なくスグルは倒れ伏した。

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