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天才神徒と役立たず指揮官

 

「タクトくんッ!!!君の神徒凄いね!?」


 神徒達の能力測定をすると言ってクルミ先生が出て行ってから約二時間ほど経って、神徒達を引き連れたクルミ先生が教室へと戻ってくると興奮した様子で俺の席まで来た。


 窓の外ではもう日が沈みそうになっている。

 本来ならばすでに皆帰宅している時間だったが、色々あった(主に俺のせい)ので予定が後ろに倒れ込んだのだろう。

 他のクラスメイトには申し訳ない。


「え、えっと……何かあったんですか?」


「見てよこれ!」


 スグルと談笑していた俺は、その剣幕に言葉が詰まる。

 そんな俺に構う事なくクルミ先生は一枚の紙を渡してきた。とりあえず受け取って中身を確認すると、そこには驚くべき事が書かれていた。



 総合評価:Sランク



「は?……な、何の冗談ですか?これ」


 思わず声が震えたのは許してほしい。

 今まで……神徒がこの世に現れてから今に至るまでで観測されたSランクの神徒は4人。

 そう()()()4()()()

 もしこの結果を信用するならば、自分の神徒が()()()5()()()()S()()()()ということになる。そんな簡単には信じられない。

 そのまま下に視線を滑らせていくと攻撃、防御、速度、知力の4項目があり、知力がBで後は全てSという評価だった。

 俺は恐る恐る顔を上げ、クルル先生を見る。

 その表情に揶揄うような色はなかった。


「信じられない……冗談じゃないんですよね?」


「うん……私も目を疑ったけど、測定器は正常に作動していたし、他の子達は大小あるけど平均的な値だったわ。だから間違い無いと思う」


「……言ったでしょ。私は一人でも闘えるって」


 クルミ先生の背後から顔を見せたのはサヤカだった。

 勝ち誇った顔をしながら体の前で腕を組みこちらを見下ろしている。

 その態度に少しカチンときたが、こうして結果で示されては何も言い返せなかった。


「まあまあそう言わずに。基本的に指揮官と神徒は力を合わせた方が何倍も強いんですから、あなたもタクトくんと協力した方が絶対に────」


「そいつの異能が結局どんなものかわかってないのに?」


 険悪なムードになったのを察したのか、クルミ先生が取り成そうとすると、その気遣いを無視するかのようにサヤカが語気を強める。

 サヤカの言葉を聞いて、クルミ先生の眉が八の字に歪んだ。


「うう、ごめんねタクトくん。タクトくんの異能について、前例がないか調べてみたんだけど、やっぱりオリジナルだったみたい。これからじっくり効果を検証していくしかないかも……」


 なんとなくそんな気はしていたから、その発言に対しそこまでの落胆はない。


「何でサヤカがそのこと知ってるんだ?」


「すみません……タクトくんの異能について聞かれたので、ここに来るまでに話しちゃいました」


「ああ、なるほど」


 指揮官(オレ)に興味なんて無いくせに、何でそんなことを聞きたがるのか。

 サヤカに視線を向けると、ふんっと鼻を鳴らして睨み返される。


「どうせいつか分かることなんだからどうでもいいでしょ。何にせよ、アタシが優秀でアンタが役立たずってのははっきりしたわ。アタシ、役立たずの男に従う気なんてさらさら無いから」


 サヤカはそう捲し立てると、くるりと踵を返して教室から出て行った。

 俺はその背中を見て思わず顔を歪める。


 ずっと……俺から離れる理由を探していたのか?

 なんで、お前はそこまで俺を拒絶する?

 俺が何をしたって言うんだよ……くそッ……。


 その後クルミ先生が何か励ましの言葉をかけてくれた気がするが思い出せない。

 その日の夜は、戸惑いや苛々がドロドロに混ざり合って中々寝付けなかった。


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆


「なんっっっであいつは来てないんだよッ!?」


 翌日、演習場で俺は叫んだ。


 今日の授業はクラス全員での合同演習だ。

 神徒と協力した戦い方を知り、自身の持つ異能を実践で理解する。

 俺も自分の異能について知るために嫌々ではあるがサヤカに協力してもらわなければならないため、どのように頼めばいいかなど寝不足の頭で散々悩んだと言うのに、まさか来すらしないとは思わなかった。


 若干涙目になって地団駄を踏む俺を見かねて、友人の神崎スグルが俺の肩をポンポンと叩く。

 しかし、俺の肩を叩く腕とは逆の腕をスグルの神徒がギュッと握っているのを見てなんだか悲しくなった。


「はーい、みんな揃ってるね………タクトくんのところ以外は」


 昨日の今日ということもあり、俺の神徒がSランクであるということは知れ渡っている。

 しかし、話題の神徒はおらず指揮官の俺だけというのが悪い意味で注目を集めていた。


「おいおい、藍羽は自分の神徒一人すらまともに躾けられないのか?とんだお笑い種だな」


 俺を嘲笑する声に視線を動かすと、クラスメイトの如月シュウがこちらを見て口角を吊り上げていた。

 シュウの神徒はAランク。

 俺を除けばこのクラスで一番……いや、歴代で考えてもAランクは少ない。

 サヤカがいなければここのトップはシュウのペアだったはずだ。そのせいで逆恨みされてるらしい。

 だが正直シュウの嫌味についてはどうでもいい。

 実際俺はサヤカを制御できていないわけだし。

 そんな事より今はサヤカだ。あいつ一体どこにいるんだよ!


「もう、シュウくんはそんな事言っちゃダメ!……タクトくん、神徒を探してきてくれる?自分の神徒なら、居場所が分かるはずだから」


 指揮官と神徒の間には不思議なつながりがあるらしいというのは有名な話だ。

 と言っても離れていても居場所が分かるくらいの効能しかないが。


「……はい」


 俺は演習場を出て意識を集中させる。

 すると、ぼんやりと光る何かを感じた。

 辿っていくとある場所へ行きつく。


「………中庭?」


 学校の敷地内では珍しく植物が多い緑豊かな場所だ。

 昼休みなどよく生徒が利用しているが、今は授業中であるため人影はない。



 ただ一人、授業をサボっている不良神徒以外には。



 疎らに頭上を覆う木々の隙間から差し込む木漏れ日によって、その辺一帯が金色に輝いてるような気がした。


 双の刃を纏う金の少女は回る。


 よく滑らかに剣を振るう様子を踊っているようだと表現することがあるが、目の前のモノは似て非なるモノだ。

 息を吸うように、ただ歩くように、そうあることが自然であるかのようにそれはあった。


 俺がもし目の前に立っていたら何度斬られたか分からない。

 洗練という言葉が陳腐に感じる程に、その剣技の冴えは言葉で言い表せるモノではない。

 そして、そんな感情を抱かせる彼女に嫌われているという事実がちくりと胸を刺した。


「……何泣いてんのよ」


「………え?」


 いつの間にかサヤカは剣舞をやめており、怪訝な目でこちらを窺っていた。

 泣いている、そう言われて初めて水滴がほおを伝っているのを自覚する。

 慌てて目をゴシゴシと擦り、気恥ずかしくなってサヤカの顔から目を背けた。


「凄いなって思ってさ。今の」


「こそこそ盗み見るなんて、やっぱり男って最低ね」


「……あのさ、今からクラスで合同演習があるんだけど────」


「アタシが行くと思う?」


「そう言うと思った」


 俺がそう口にすると、サヤカの眉が下がりむすっとした表情になる。

 その分かりやすい態度に俺は思わず苦笑した。


「じゃあ、来なくていい」


「……え?」


「悪かったな、さっきの隠れて見てて。……召喚したのが俺で」


 そう言って俺はくるりと回れ右をする。

 多分、サヤカに俺は必要ない。むしろ邪魔なのだ。

 幼馴染みの行方を知りたくて俺は力を欲したが、その結果召喚されたサヤカにとっては良い迷惑だっただろう。サヤカは一人でも十分すぎるほどに強い。並の神徒では指揮官と力を合わせても敵わないはずだ。ペアの解消なんて出来るかわからないがクルミ先生に相談してみよう。幼馴染みの事は一人で調べれば良い。それにサヤカを付き合わせるのは世界にとっての損失だ。もっともサヤカが素直に協力してくれるとはとても思えないが。


「まっ……」


 一瞬何か聞こえた気がして、俺は振り返る。

 しかしサヤカは俯いており、俺は気のせいかと歩みを再開する。


 ビィィィィィィィィィィィイッッ!!!


 その時、けたたましいサイレンが鳴り響いた。


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