1発目
飛んできます。
月曜日、結局俺は彩香と輝樹より早く学校へ行った。
「学級委員があるから」という言い訳は便利なもので、幼馴染・親友カップルから離れるためには十分な威力を有していた。
いつもよりも憂鬱な気持ちになりながら、教室の扉を開けた俺の視界に飛び込んできた『智哉おっはよー!』のは
「茶髪ポニーテールの美少女らしき何か」だった。
何故「らしき『あれっ?』何か」かというと、『うぎゃっ‼︎』その高速で突っ込んできた「何か」に驚いて回避してしまったため、気づいた時にはその「何か」は俺の横を通過していたからである。
「いてて…もう…智哉酷いよ…せっかくおはようのハグをしてあげようと思ったのにぃ…。」
どうやらもう復活したらしい。
「変なのが前から飛んできたら避けるだろ!てかお前とは学級委員としての付き合いだけなのになんでハグするんだよ!」
「変なのじゃないよ!いつもみたいに梨沙って呼んで!」
「はいはい、梨沙が飛んできたから避けたんだよ。」
「なんか名前で言われた方が傷つくね⁉︎」
アホみたいな会話で薄れているが、なぜかこの子、前嶋梨沙は特に俺に対してやたらと距離が近い。
明るく元気な彼女だから誰にでも…とも思ったのだが、ハグをしようと突っ込んできたのは今日が初めてだし、誰にでも突っ込んでいくわけではないことが後ほど分かった。
「で、なんで梨沙はこんな朝早くにいるんだ?」
普段は遅刻ギリギリの日もあるのに。
「えっ⁉︎智哉が言ってたらしいから早く来たんだよ。学級委員の仕事があるって。」
彩香のせいか……。
「あ、それ嘘。彩香と輝樹、付き合いだしたみたいだからさ。邪魔しない方がいいかなって。」
「そんな!せっかく早起きしたのに!」
梨沙はこの世の終わりのような顔をしていたが、ふと気づいたように顔をあげると、
「もしかして智哉、彩ちゃんのこと好きだったの…?」
なんて聞いてくる。
俺は少し動揺したが、
「いや、まさか…そんなわけないだろ。」
と言った。
梨沙はその返事に納得していなかったようだが、もう一度「はっ!」としたような顔をすると、駄々をこねるように騒ぎ始めた。
「そういえば私、まだ聞いてないよ!」
「何を?」
「私挨拶したじゃん!智哉も返してよ!リピートアフターミー!お・は・よ・う!」
リピートじゃ意味ない気もするんだが…まあいいか。
「おはよう、梨沙」
「うん!おはよっ!えへへ…」
文字通り満開の笑顔を見せてくれるのだから、安いものである。
飛んできました。ありがとうございました。