生徒会長襲来警報
うーんうーんと唸りながら寝ている今日この頃。頭が回らない…。
彩香を探して俺たちのクラスにやってきた生徒会長・財前兼相。
だが勿論今現在このクラスには彩香はいない。
「ああ!ボクのマイハニー彩香はどこにいるんだ!まさか体調を崩しておうちにいるのか!それならボクの権限で彩香の住所を調b…」
「藤波さんなら今日来てますよ。」
クラスの1人が生徒会長のヤバい言動を察してか口を挟む。
「ならどうして!ボクのメッセージに!返信が来ないんだ!」
そりゃブロックしてますからね……。
ぎゃーぎゃーと喚き立てる生徒会長。
いよいよクラスの雰囲気も悪くなってくる。
そしてついに1人がその「事実」を突きつけてしまう。
「藤波さん、彼氏いるんですよ。めっちゃイケてる彼氏が。」
そう言ったのは誰だったか。だが少なくともクラスの殆ど全員が厄介ごとに巻き込まれるのを嫌って口に出すのを躊躇っていたことだ。
しかし、生徒会長の財前には効果が無かったようだ。
「それってボクのことだろう?ボク以上にイケてる男なんてこの世に存在しないんだよ!アンダースタン?」
その自信はどこから来るのか。もうイヤホンでもしようかと思い体の向きを変えると、梨沙がいた。
「ご、ごめん智哉……しばらく背中貸して…私ああいう人はちょっと……」
心なしかプルプル震えているように見える。よっぽど苦手だったのか……。
すっかり梨沙に意識を取られていたが、「ティーちゃん」こと松前茶々さんも避難してきている。
「ごめんね、私まで…。でもちょっとの間ここにいさせて……。」
どうやら財前は女子からの印象がマイナスに振り切っているらしい。
金があれば近づく女子の1人や2人いないのかと思ったが、それを上回るマイナスへの振り切れ方のようだ。
クラスを見渡すと他にも親しい男子の元に避難する女子や、男子達が体でバリケードを作りその後ろで固まって教室の隅に縮こまっている女子たちもいる。
財前の周りにはぽっかりと空間が出来ていた。
よくこんなんで生徒会長になれたな……。
そして今まさに財前による「ボクの魅力発表会」が始まろうとした瞬間。
「あれ、生徒会長?」
聴き慣れた男の声がした。
ということはつまり。幼馴染の彩香もいるわけで。
「ああ!マイスイートハニー彩香!どこへ行っていたんだい?なんでボクのメッセージに返信してくれなかったんだい!そして!そこにいる男は誰だい!彼氏であるボクを差し置いて!」
彩香は困ったように口を開く。
「えっと…ザリガニさん…ですよね。こちらの彼は、私の彼氏の菊池輝樹くんです。ザリガニさんと顔を合わせるのも初めてではないですよ。」
彩香、生徒会長の名前くらい覚えてやれよ……。
「ウソだウソだウソだぁぁぁぁあ!ボクはキミをこんなに心配していたのに!愛しているのに!ボクからのメッセージは読んでくれていないのかい?」
「すみません…あまりにしつこかったのでブロックを…」
「ボクのどこが不満なんだ!言ってみろ!言え!」
今にも彩香に掴みかかりそうな財前の前に、輝樹が立ちはだかった。
「これ以上ボクの彼女に迷惑かけないでくれませんか。カネスキさん。」
お前もかよ。名前覚えてやれよ。
でもまあ、輝樹も彼氏してんだなあ。
「ぐぬぬぬ……」と悔しそうにしていた生徒会長だったが、「いいだろう!今日は彩香を囚う悪魔に勝ちを譲るよ。だが絶対に最後には彩香からボクを求めるようになる!絶対にだ!」と捨て台詞を吐いて去っていった。
「もう大丈夫」と言おうとして梨沙の方を見ると、梨沙がこちらをじーっと見ていた。
「ねえ、もし私が変な人に絡まれたら、その時は智哉が助けてくれる?」
「なんだいきなり。まあ、梨沙のことは大切だと思ってるし、普通に助けるよ。」
「大切……!智哉!期待してるよ!」
頬を赤らめ、嬉しそうにする梨沙。
「良かったね!梨沙!」
「うん!」
放課後になり、帰ろうとすると梨沙から声をかけられた。
「とーもーや、いっしょに帰ろ?」
「お、梨沙か。俺はいいけど、松前さんとかはいいのか?」
「いーのいーの!今日は智哉と一緒に帰るって言ったから!頼んだよ〜?私の騎士様!」
今日「も」ではあるのだが松前さんの方を見ると、親指を立てて「グッ」としていた。
これは梨沙姫様を護衛する許可が下りたとみていいだろう。
俺は梨沙と2人、また少し寄り道をしながらのんびりと帰った。
ちょうどその頃。
「彩香、なんで僕に言ってくれなかったんだ。あんな変な男に絡まれてるなんて……。」
「えっと…輝樹くんには心配かけたくなくて……。」
「メッセージアプリで連絡先なんて気軽に渡しちゃ駄目だよ。ブロックしたっていうのはまあいいけど…彩香の判断?」
「いえ。智哉くんの判断です。」
「智哉には頼るんだね…。僕ってそんなに頼りないかな?」
「いえそんなことは!ただ智哉くんとは家も近いですしお兄ちゃんみたいな感じがするのでついつい頼ってしまって…。」
「はあ、そうか。まあいいよ。でも次からは僕を頼ってくれよ。きっと生徒会長の人はまた仕掛けてくるだろう。」
「はい。分かりました。」
彩香は「輝樹くん、智哉くんと喧嘩でもしてるんでしょうか?」と少しの不安を覚え、輝樹は「彩香には智哉の存在が自分よりも大きいのでは」と嫉妬するのだった。
ありがとうございました。