うな太郎とトラブロウ
突然の新ニャラクター登場。そして幼馴染の帰宅確認の理由。
あの後、デラックスジャイアントパフェの7割+フルーツ白玉抹茶パフェの3割を私めのあーんにより召し上がられた梨沙姫さま。
ちなみに残りの3割+7割は姫様が私めに食べさせてくださいました。
食べ終わった俺達はすっかり薄暗くなってしまった外を見て、今日は解散することになった。
「智哉、今日は楽しかったよっ!ありがとー!」
と言っていた梨沙とは花見台駅で分かれた。
本当は最寄り駅に着いたらもっと暗くなっているであろう中梨沙を1人で帰らせるのは不安だったが、梨沙が「心配してくれてるんだね。嬉しい…!でも智哉も疲れてるでしょ…?私はだいじょーぶだいじょーぶ!また明日ね!」と言っていたので彼女を信じることにした。
それにしたって今日1日だけで色々あったな……。
疲れたけれど、とても楽しかった。
そして、朝方感じていた憂鬱な気持ちが吹き飛んでいることに気がついた。
気づかないうちに梨沙に心の傷を癒してもらっていたのかもしれない。
家に帰ると、猫のうな太郎が迎えてくれた。
「にゃー」
数年前に河川敷をランニング中に橋の下で出会い、拾った猫で、茶色と黒の毛色でうなぎの蒲焼きみたいだから「うな太郎」。
そういえばうちに迎えるまで一悶着あったよな……。
河川敷の橋の下で数日間は女の子と一緒にお世話していて、台風も近づいているしどちらかが拾おうかという話になったのだが、女の子の家はペットが駄目だったから結局うちで飼うことになったのだ。女の子も「うなちゃん」と呼んでいた。
うちもはじめは反対されたが、「また雨の中に子猫をさらすのか」と必死になって説得したっけ。
あの女の子、元気かなあ。
あの女の子、もしかして梨沙だったりするのかなあ。
でも梨沙は桜川に住んでるわけだし、百本松の河川敷にいたなんてことあるのかなあ。
もし違うとしたら、あの女の子は誰だったのだろう。
もし違うとしたら、梨沙とはどこで出会ったのだろう。
色々と考えてしまう。
「なあうな太郎、あの女の子の名前、覚えてるか?」
「うなー」
うなうな言ってる。なんていう意味なんだ。
うな太郎とじゃれあっていると、インターホンの音が聞こえた。
荷物が届いたなら印鑑を取りに行かないといけないが、とりあえず覗き穴から外の様子を見ると、彩香が立っていた。
印鑑を取りに行かなくて済んだのはいいが、彼氏持ちが幼馴染とはいえ彼氏以外の男の家に1人で来るのはいかがなのだろうと思う。
「はいはい、彩香こんな時間にどうしたんだよ……。」
「智哉くんが帰るのを待っていたんですよ。ちょっと助けていただきたいのです。あとこのことは……輝樹くんには言わないでおいてほしいのですが……。」
話を聞くと、彩香に彼氏がいると分かった上で彩香に言い寄る男がいるとのこと。
彩香はそれをやんわりと拒絶しているのだが、「照れている」とか「脈はある」と勘違いしているようだ。
SNSでもよくおじさんのしつこいメッセージが晒されていたり、勘違いの果てにストーカーになっている事案は皆様ご存知かと思う。
「やんわりと」というのが重要な所で、特に彩香のような女の子は人間関係を出来るだけ崩すまいと「やんわりと」拒絶したりさりげなく「回避」したりする。
相手からの好意の有無、直接的な好意の伝達の有無に関わらず、いつもの会話の中においてはっきり「あなたは対象外」「あなたは好きじゃない」と言葉にせず、言葉の節々に「匂わせる」のだ。
俺が彩香に「フラれた」と感じたのは彩香が「そういえば私彼氏が〜」「何が変わるわけでもない」「これからも仲良く」と言ったからだ。
つまり彩香は俺のことを「私と菊池輝樹が付き合っても関係が悪化しない=お互いに異性として見ていない存在」であると認識していたということだ。
「で、誰なんだその勘違い男は。」
「1人は美化委員会の委員長の3年の先輩です。」
1人じゃないのかよ勘違い男。
「委員会の時に緊急の連絡の為にと連絡先を聞かれまして…。ですが、この通り。緊急の連絡なんて来ないどころか何故か休日の遊びのお誘いや食事のお誘いばかり……。」
見ると、確かにクサい台詞で彩香を誘う履歴が並んでいる。
「ブロックしろよ」
「ですが委員会でお世話になっているのも事実ですし…。」
「じゃプロフ画像輝樹とのキスの写真にすれば?」
「恥ずかしいですぅぅ……。」
だがまあ、投げやりに言ってしまったがSNSのプロフ画像キス写真は確かに周りから見ても中々キツいものがある。
「で、1人目ってことは2人目もいるんだろ?」
「はい……。生徒会長の2年の先輩です…。委員長伝いに渡ってしまったようで。」
あー知ってる。結構自信家なんだよなあ。どこかの御坊ちゃまだったか。
というか委員長ヤバいやつなんじゃないか。
履歴を見ると「いかにボクが優秀か」「いかにボクの両親がすごいか」「いかにボクが彩香を好きか」「ボクと彩香の将来設計」「今度パパとママに挨拶しない?」「今度高級フレンチ行かない?」
やばい早くブロックしてくれ…。輝樹が気の毒になってきた。
彩香は2人に対してご丁寧に「お断り」を「やんわりと」入れているが、その度に「残念。いつなら都合がいいかな?」「照れなくていいんだよマイハニー」と2人から。
って……。
「生徒会長はブロックしろよ」
「最初に『ボクは生徒会長だから生徒で1番偉いんだよ。しかもウチはお金持ちだからなんでも出来るんだ。』と書いてあるのですが……。」
「生徒会長が生徒で1番偉いわけないだろ。全員平等だわ。」
彩香はすぐに生徒会長をブロックした。
そして、もうひとつ気になること。
「なんで輝樹に言わなかったんだ?輝樹に相談すれば良かったじゃないか。きっと俺と同じことを言っただろうよ。」
「それは…。」
「それは?」
「輝樹くんに浮気だと思われたくなくて…。」
この文面では絶対に思わないと思うけど…。
「まあ、委員長に関しては委員会の時に輝樹と思いっきりイチャつきな。その後で連絡が来たら輝樹と付き合ってるって言うんだ。」
彩香は彩香なりに輝樹のことを考えているんだろう。
そう考えるとこのカップルに幸せになってほしいと思えた。
そう思えるくらいには、彩香への気持ちは薄れているのかもしれない。
ありがとうございました。
幼馴染が「もう帰宅したのか」と聞いた理由はこれになります。
登場人物それぞれになんとなくの性格だとか人物像はあるので、あと少し続く1日目を序章としてその最後に登場人物・地名などをまとめたものをつけたいと考えています。