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6 魔王様は魔者です。

「アヒャヒャっ。本気で気付いてナかったんダねー、アー、腹痛いヨー。クフッ」


 俺は肯定こそしなかったが、それでも自分の知らない異世界だと信じて疑っていなかったことはバレた。

 結果、ピーたんにここが自分の元いた世界だと分からなかったことで散々笑い転げられたのは、しょうがないと言えばしょうがない事だ。


 そりゃ、端から見たらさぞ俺は滑稽なのだろう。

 馴染みのある空気感とか、知り合いが居ることとか、気付いても良い要素はあったのだから。


 この段階でもだいぶアレなのに、更に自力で帰って来たのではなく勇者の召喚に巻き込まれたんだってことも言わなきゃ駄目か?駄目だよなぁ。


「そ、そういや最近、魔物が活発ってことはないか?人の町を襲うことが多くなったとか」


 意気地無しなので別の話題から切り込んだ。


 これは魔王として、町の観光者として気になってもおかしくないだろう?


「アー、魔物カー。そーでもないンじゃナいかなー」


 ムムム、と演技がかった動きで思案したピーたんが答える。


「でもデも、獣型の魔物…魔獣の事はあんま把握してないかラなー」

「そうか。てか最近は獣型のことを魔獣なんて呼び分けてるのか」

「そーだヨー。因みに人型は魔者って言われるコともアるんだっテー」

「ん?人型は魔物のままなのか」

「違うよー。似てるけド"マモノ"!そっちは"マモノ"」


 順調に話していたら突然ピーたんが変なことを言い出した。

 似ているどころじゃなくて発音そのものが同じマモノじゃないか。


「むム?何かおかしイぞー」

「お前がおかしいのはいつものことだがな」


 首を捻ってハテナを浮かべるピーたんに突っ込みつつ、しかしピーたんはマイペース野郎ではあるが会話が成り立たない程では無かったな。と俺の方でも首を傾げた。


「んー?」

「な、なんだよ」


 そしてふとこっちを見たかと思えば、喋る俺の口許を凝視するピーたん。


 なんだよ。別に食べかす付けて話しちゃいないぞ。


「マオ。今、何語話しテる?」


 藪から棒に、ピーたんにしては真面目な顔をして問われた。

 しかし俺としては、会話できてんだからお前と同じだよと言いたい。 


「ボクが思うにネ、マオはニホンゴとかいうノを話してイるんだと思うン」


 どっちも本当に同じ音に聞こえてるみたいだし。と仮説を述べるピーたん曰く、口の動きが発声と違っている気がするのだそうだ。

 そんなまさか。と思ったが、そういやここ、俺のいる世界なんだった。


 てことは公用語が日本語な分けはなくて。


 でも、じゃあ何で俺はともかくユウは王様達と普通に話せてたんだって疑問にいたるわけで。


「…つまりはこれも勇者の【加護】ってやつかの力か…?」

「なンのカゴだって?」

「あ。」


 口が滑った。



…………

……………………



 こうして予期しないタイミングで芋づる式に、魔王のクセに勇者として召喚された経緯をかいつまんで話すはめになった俺。


 しかも蓋を開ければ自分の世界。


 そりゃもう笑われましたさ。

 最早手が滑る気力も沸かない。


「翻訳機能…だと?」


 そしてこの結論に至る。


 丁度ユウが本の文字を見て疑問を持った頃、俺ことマオはその疑問の答えに行き着いていた。


 文字や言葉を翻訳するだと?自動で?

 俺なんか日本語すっごい勉強したのに?


 俺にも備わっている新たな勇者への【加護】の力が判明した俺は、真っ昼間の町中だと言うことも忘れて膝から崩れたのだった。

 裏路地にいて良かった。ピーたん以外に俺の落胆は見られていない。


 考えてみたらそうだよな。

 異世界で丸きり同じ発達をした言語なんてどんな天文学的確率だよ。


 勇者を喚び出しました、でも会話ができません。じゃ詰んでるしな。


「魔獣が異種族と意思疏通する時テ、自分の魔力に思念を乗セて相手に伝えるジゃん?」

「あー、」


 つまりはそれの類似技だと。


 魔物が会話する時、俺等みたいに共通して人間の言語を使う者ばかりではない。

 特に獣型の奴等は発声気管からして無理がある場合が殆どだ。


 そこで自然と発達したのが【思念伝達】。


 声自体は「グルル…」でも、発する魔力に思念を乗せることで、「ここは俺のテリトリーだ、勝手に入ってくんな」とか、聞く側に分かる言語に翻訳出来る状態で伝わる方法だ。


 早い話がセルフでバイリンガルしてるんだな。


 ただこの世界の人間社会は言語が共通しているから人間にそんな方法は発達しなかった。

 それにこの方法は放たれた魔力を聞く側が受信することが前提なので、体内にろくに魔力を宿していない人間には難しいのだ。


 因みにこれをもっと広く浅くしたものならば人魔物問わず【索敵】として使われている。

 魔力を言葉として感じ取るほどの精度がなくていい分、人間でもハンターならば殆どが初期に覚えるだろう。


 対人間でも使える、所謂「気配を読む」だな。


 そういえばその昔、魔物と話そうとした奇特な奴が「空気中の魔素を利用して魔物と会話する」方法を編み出していた。

 体内に魔力がないなら体外の魔力を使おうっていう、魔法と同じ考え方だった筈だ。

 その原理で「魔力に思念を乗せる」「その思念を読み説く」作業を【加護】が勝手にやってくれていたから、異世界人のユウでも自動的に翻訳されるし、俺にも自覚が無かったんじゃないか?


 俺は人語も操れるから、人間相手に使うという発想がなかったな。


 しかし残念かな、それならば魔素の無い地球じゃ使えない技だ。


 つまりは俺の日本語の勉強は無駄じゃ無かったてことだな!

 それは残念だ!


「マオ?なんか楽しソーね」

「そ、そんなこと無いぞ!」


 俺の心の内を知らないピーたんが興味深げに覗いてくる。


 別に適当に俺の行いを正当化する言い分けを見付けて喜んでいたわけじゃないからな。

 でもじゃあなんで喜んでるかと問われると凄く困るからな。


 あまり掘り下げないでもらおうか。


「ところでさっきのマモノの違いってなんだよ」

「あーアれねー」


 話題を戻したがピーたんからの突っ込みは特に無く、確かに音は似てるんだけど、と前置きをしながらパーカーのポケットに丸めて入れられていたフリップを引っ張り出して見せてきた。


 お前のポケット底無しだな。

 知ってたけど。


「ざっトこんナ感じ。」

「口の説明じゃないのか」


 準備いいな。とは突っ込まないぞ。


 ピーたんが広げて見せてきたフリップはプラスチックみたいな質感で、どうやって丸めていたんだと問いたくなったが地球の素材じゃないししょうがない。


 そんなフリップには、生物の一通りの呼び分けがこっちの世界の文字で書かれていた。


 確かに日本語訳も同時に頭に入ってくる不思議な感覚が有って、音で聞くよりも翻訳機能が働いている感覚がある。


 その説明によると、


 ・人間…体内の魔力を操る性質の無い人型の生き物。外部の魔素を魔力に変換して扱う者を魔法使いと呼ぶ。

 ・動物…体内の魔力を操る性質の無い人間以外の生き物。

 ・魔者…体内の魔力を操る人型の生き物。

 ・魔獣…体内の魔力を操る人型以外の生き物。動物が後天的に魔獣化することもある。

 因みに人間が後天的に魔者化した場合は魔人と呼ぶ。


 細かいことは置いておき、ざっくりした認識ならこんな感じらしい。


 俺の馴染み有る「魔物」という呼び方は、昔の人間や魔者魔獣間での主流らしく、現代では魔の付くものの総称として扱われているそうだ。


 悪かったな、昔のやつなあげく魔者なもんで。

 だから「時代遅れ」と笑うなピーたん。


 区分が人基準で後天性魔獣に対し人の方には魔人なんて別称が付けられているのは、人が決めた呼び方故になんだろうな。


「ピーたんさん、そろそろマオを返してもらえるかな?」

「おっとカティさんじゃナいか。もウそんな時間なンだね」


 丁度俺がフリップを見ながら頷いていると、背後からひょっこりと現れたカティが声をかけてきた。

 伺いを立てるのは俺じゃないんだね。


 カティの姿を見て初めて彼が来たことに気が付いた風に対応する俺とピーたんだが、前半は完全に聞かれちゃマズイ類いの話だったので、当然俺等は【索敵】で街の人々の位置を把握して話していた。

 

 だからカティが暫く街の人達と世間話をした後、そこそこから物影でこっちの様子を見ていたことも、知っていたのだが。

 まぁ、俺等が魔物だと勘づいて見張っているわけじゃあるまいし、話の内容さえ気を付けておけば大丈夫だろうと踏んだ。


「ありがとう。マオは魔の者の事とか疎かったでしょう?教えてくれて助かったよ。話したいことは話せたかな?」

「もー、バッチしヨ!」


 ピーたんがフリップを取り出した辺りからを知っているカティ。

 後々公表することになるとはいえ、今はまだ俺を勇者として紹介する気はないらしい。


 カティは即興で用意したとは思いがたいクオリティのフリップを興味津々に見てるけど、残念ながら十中八九ピーたんが作った魔物産アイテムなのであげられない。


 でも俺も貸して欲しいな。ユウに説明しやすそう。


「それじゃア魔王様、また会イまシょーねー。カティさンもバイバイまた今度ー」

「うん、またね」

「マオだ。魔王言うな」


 いそいそとフリップをしまったピーたんが怖いことを言いながら立ち去っていく。

 あいつ絶対、カティが王子だって知ってんだろ。しかも割かし強いって。


 よく魔物だ魔王だ言えるよな。


「そっか、ピーたんさんて道化だけじゃなかったんだね」

「え?」

「字も読み書きできるし、意外って言ったら失礼だけど、学も有るみたい。もしかしてあの板書で普段から子供達に色々教えてたりするのかな。孤児院の先生とかさ。道化も子供達を楽しませるために始めたのかも」

「…チ、チガウンジャナイカナー」


 この世界でも障害持ちが道化になるケースは少なくなかったはずだから、多分その線だと思われていたのだろう。

 素であの喋り方だし。


 それが先生って。気が付けば随分と博識人扱いされたものだ。


 うちでも「諜報係」なんて言われちゃいるが、単にあいつの特性上、広域で話を見聞き出来るからなだけだぞ。

 暇潰しに盗み聞きをしてた情報を持ち帰って来るからちょっと格好つけて大層な肩書きを付けただけだぞ。俺が。


「と、それじゃあ私達も帰ろうか」


 帰り際に「街の中をあまり観れなくてごめんね」と言われたから、ポテト菓子の存在でチャラにした。

 充分楽しめたし全然気にすること無いのに。


 帰りは別ルートを通ってそこでも色んな案内をしてもらったし、観るだけとはいえ本当に満喫できたと思う。


 その結果、この後に控えるイベントをすっかり忘れていた俺がうちひしがれるのは、ユウに再会して「勇者」には翻訳機能が備わっていたという見解を共有した時だった。


「なんか見覚えが有るんだけどなぁ、この文字」

「キ、キノセイジャナイカナ」


 ユウにこの世界の文字に既視感が有ると言われて、そんなの十中八九俺が学校で「覚えたての日本語じゃ黒板を消されるまでに書ききれない」って言ってこっちの文字を使っていたのを見たからに決まっている。と血の気が引いたのは別の話。


 読めても書くのって大変だよな。


 ただでさえ魔物には文字の文化が無くて、人間の文字を輸入して使いだしたの自体が最近だし。



…………

……………………



「マオ、陽は傾いていますが、今日中にサクッと剣を抜いてもらえませんか?」

「サクッとて、カティさん…」


 一応街から戻って来たことでまた王子と招待客に戻ったので、敬語に戻すカティ。


 でも出発前よりフランクになってる気がする。

 否、雑…?


 取り敢えず俺からはカティ呼びのままでいいや。


「それって僕も観に行って良いですか?」

「勿論、寧ろユウが抜いても良いのですよ?」


 完全に見物客と化す気しかないユウがカティに了承をとる。


 召喚されたのだから勇者の素質は有ると判断したのか、ユウにも【加護】が備わっているとバレているのか、カティがユウに剣を抜くすすめをしているが「遠慮します」ってなんだよ。

 こっちをチラッと見た真意を教えてくれないかなユウさんや。


「僕は雷には撃たれたくないので」

「そんな真意は聞きたくなかった!」


 取り敢えず本物の勇者が辞退してくれたので魔王こと俺、雷に撃たれてきます。


 違った。勇者の剣を抜いてきます。

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