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4 魔王様は画策する

後半は友人の視点です。

「と、取り敢えず、勇者は俺だな!」

「えー、でも、」

「俺だな!」


 ちょっと楽しくない力を披露してまで勇者アピールをしたのだから、ここで本来はユウの方に勇者の力が備わっています。なんてことをバレたくはない。

 あからさまに言葉を遮られたユウ本人からは多少怪訝な目で見られたが、言い分けは後でしよう。


「流石は勇者殿じゃの」


 砂を被っても朗らかに笑うアルセウス王。

 朗らか、というか実に寛大な人物だと思う。


「それでは勇者であるマオ殿には武器となる勇者の剣を抜いて頂きたいのだが、宜しいかな?旅立ちの際にはパレードも控えておるでの」

「勇者の剣?」


 どうやら無事、勇者は俺だと信じてもらえたみたいで次のイベントへと話が進む。


 失敗からの現実逃避のようにクレーターに背を向けて皆の元へと戻った俺にアルセウス王が告げたのは、何の捻りもない呼ばれ方をしている剣の存在。

 素手で殴り込みに行く気満々だった俺の耳に、その剣の名前が引っ掛かる。


 そんな勇者アイテムが有るのか。と驚く半面、そりゃ流石に魔王退治に手ぶらで行って来いとは言わないか。と納得もできた。


「左様、過去の勇者殿が当時の魔王を討ち滅ぼした際に使用したとされる剣なのじゃ」

「裏庭に突き刺さって以来ずっとその場にあるのですが、どうやら次代の勇者にしか抜けないようで」


 アルセウス王の説明の後にカリティア王子が嫌なことを言う。


 なんちゃって勇者の俺に対して「勇者にしか抜けない」…だと?


「それならその剣が抜けるか否かでどっちが勇者かを見ればよかったのでは?」


 俺が冷や汗を垂らしていると、ユウがもっともな疑問を述べる。


「それが、不相応の者が剣に触れると天より雷が降り注ぐのだ」


 若い頃その話を聞いた余もこの身を焦がしながら奮闘したが結局抜けなかった。とか呑気に話すアルセウス王の隣では、初耳らしいカリティア王子が目を剥いていた。


 一国の王がそんな体を張るなよ。

 そして良かったよ。初っぱなに「剣を抜いて勇者であることを証明して来い!」とか言われてなくて。


 しかしそのお陰で、国の猛者や王様を以てしても抜けない=勇者にしか抜けない。の結論に至ったらしい。


 それを聞いた俺の表情に嫌な予感が出てしまったらしく、アルセウス王が焦るでもなく言葉を続けた。


「安心しなされ、余が剣の柄を握っている際に頭に声が響いたのだ。"お前は勇者じゃない"とな」


 そうか、それなら安心…て、俺は勇者じゃないからやっぱり雷は決定か。


 王様の言葉は俺の気休めにもならなかった。


 雷に耐えられればイケるなら地面ごとだろうが引っこ抜いてやるのだが、痛いのは好きじゃないから正直気乗りしない。


 この勇者選別イベントをクリアできるのも【神の加護】の内とか言わないよな。

 本来一人しか召喚されないんだし。


 頭の中でぐるぐると攻略法を考えながらチラ、と本当の勇者ことユウの方を見る。


「頑張れ。勇者なんだから雷には打たれないよ、きっと」

「…」


 そしたら不穏な倒置法と共に励まされた。


 「きっと」を付けずにはいられない理由には簡単に察しがつく。

 単純に、王様の言う「頭に響いた声」に対する信頼が薄いのだろう。


 だって死の淵をさ迷ってるであろう時に聞いたんでしょ?それ。


 早い話、幻聴じゃね?とか思われても仕方が無い。

 そして一番怖いのは、だとしたら最悪は本物の勇者でも雷ルートだということ。

 勇者かどうかが関係無いこと自体は願ったり叶ったりなのだが、この場合は雷の不可避が近付くだけだから歓迎できない。


 となるとそんな危ないイベントをユウに任せるわけにはいかないな。


「…えーとさ、その前に町に出ちゃ駄目か?」

「町、ですか?」

「そう、知らない世界だからさ、雰囲気だけでも見ておきたいんだ」


 これが最期になるかもしれないから、なんて雷に打たれるフラグは言わない。


「剣を抜いた後はパレードが有るんだろ?ほら、顔を知られてからじゃ、ゆっくり町を見て回れないじゃん?」


 しどろもどろになりながら王様達に熱弁する、これは俺の本心だ。

 俺の趣味、異世界観光。


 魔王と知られちゃ不味いのは当然ながら、勇者として周知されても落ち着いた観光なんか出来なくなるだろう。


 別に、町ですり替えに丁度良さげな勇者の剣の模造品とか無いかなぁ…なんて思ってないぞ!

 最悪、本物は根本から折れようが粉微塵になろうがしょうがない。とか思ってないぞ!


「そうですね、我々の勝手で喚び出したのです。あまり時間は取れませんが、宜しいですか?」

「話せるねオージ様!適当に歩いて回ったら戻って来るな」

「ハハハ、マオ殿、この町を舐めてもらっては困りますよ。特産に目移りしている内に日が暮れてしまいます」

「そりゃ楽しみだ」


 案外俺のワガママはすんなりと受け入れられ、馬車じゃ楽しくないとか、逆に目立つから護衛は要らないとか、そんな話で盛り上がる俺とカリティア王子。

 やたら町に詳しいと思ったら、王子様はお忍びでちょくちょく城下町に出掛けているらしい。

 今度は王様が目を剥く番だった。


「ユウも行くか?」

「ゲーセン有る?」

「無いだろ」


 今からテンションを上げつつある俺がユウを町の観光に誘えば、地元の隣町とでも勘違いしていそうなつまらないテンションで「じゃあ行かない」とあっさり断られた。


 異世界に来てまでこの勇者様は平常運転か。


「僕は本が有ったら読みたいんですけど良いですか?特に魔法について」

「それならば書庫が良かろう。好きに見て回って構わぬぞ」

「助かります」


 ゲーセンジャンキーでも一応魔法の世界に来た自覚は有ったらしい。

 ユウの方も目的地が決まったようだ。


 それにしても魔法の本か。

 この世界なら俺にも使える魔法ってないかな…じゃなかった、今は剣の問題をどうにかしないと。


「それでは少し待っていてください、仕度して来ますから」

「え?なんの」

「マオ殿を一人で知らぬ街に出すわけにも行かないでしょう?案内は私が」


 知らない町や異世界を一人で彷徨き馴れているせいで失念していたが、どうやら俺一人での行動が出来るわけではないらしい。

 そりゃそうか。異世界の客人だし。忘れがちだけど今の俺の肩書きは勇者様だもんな。


 流石に王子様を振り切るとか、そんな露骨に怪しい行動はとれないからすり替え用の剣の入手は難しくなるが、ここは観光案内が充実すると納得しよう。



…………

………………………



(said:ユウ)



 いつも通りの学校生活を終え、これまたいつも通りのゲーセンへの寄り道、を画策していた僕とマオ。

 その「いつも通り」が覆るにはあまりにも一瞬の出来事だった。


 ついでに常識すら覆るハメになったのだから、本当に笑うしかないよね。


 僕達が辿り着いたのは剣と魔法のファンタジーな世界。


 しかも僕の専門はバイオハザードが起きた世界でのゾンビ退治なのに、魔王を倒してくれと来た。

 まぁ専門と言ったところでゲームの中の話なんだけど。


 そして問題はそこからの話だった。


 本来召喚された勇者は一人。

 神様からの【加護】という名の勇者の力を得たのはどちらか?って。


 全く自覚症状はなかったが、どうやら僕はその力を授かったらしい。

 彼等がいう程強くはなかったけれど、このまま日本に帰ったら世界記録を更新しまくれるような投球が、何の気なしに投げられてしまった。


 これなら確かにRPGらしく経験値を稼げば、最終目標の魔王討伐に行き着けるかもしれない。


 で、マオ。

 彼は更に強い力を獲ていた。


 確かに圧倒的な力は魔王討伐には必要だろうが、それだけだ。

 僕が無欲だとかそんな問題とは別に、間近で見たからといって羨ましいとは思えなかった。


 無意識に発動しているこの感じ。

 にも拘らずこんなチュートリアルみたいな場面で貰う力が、ちょっと油断しただけで暴走するよ。とかハードモード過ぎない?


 そりゃ、同情もするでしょ。


 勇者が町を破壊とか笑えないから今のところ制御も無意識にできてるみたいだけど、町中でさっきのマオみたいな失敗をしていたら大惨事だ。

 魔王の前に僕達が討伐されてしまう。


 マオと別れて移動している最中に遭遇した噂好きのメイドさんが話していたところによると、お披露目パレードを行う理由。政治的な諸々の思惑は置いておいて。

 国民に向けた重要なメッセージとして「勇者が来たからもう安心だよ!」とは別に「この凄い強い力を持った人は勇者だよ!」と認識してもらうことも目的らしい。


 流石はファンタジーの世界。

 人知を超えた力を持つ人型は、人間じゃない可能性が高いそうで。

 突然人間離れした力を持つ人間みたいな存在が現れたら、正体は魔物じゃないかと警戒して当然らしい。


 だからこそ先んじて王族のお墨付きの人物として「勇者の存在」を印象づけておく必要があるそうだ。


「ここが書庫?見てもいいですか?」

「はいごゆるりと、閲覧スペースはあちらになります」


 王様が付けてくれたメイドさんのプライスレスな笑顔付き道案内で辿り着いた目的地。


 書庫に入る両開きの扉には特に鍵が掛かっている様子はなくて、中は円柱状に上に広い図書館て感じだった。

 ちょっと残念だけど、流石に魔法使いが箒で飛んだり魔法で本を出し入れしたりなんてファンタジーさはなかった。

 代わりに物理的に階段とはしごを駆使するから、僕でも自力でどうにかできそうだ。


「ユウ様がお求めの魔法関連の書籍はあちらに」

「そっか、良かった」


 幸い魔法の本は需要が有るのか閲覧スペースの近くに有った。

 これならエスカレーターが恋しくなることも無さそうだ。


 メイドさんにお礼を言って本棚に近付き、適当に背表紙を眺めていく。

 その合間にちら、とメイドさんの姿も伺い見た。


 僕の場合はゲームの得意ジャンル上、二次元でも見る機会がほぼ無いんだけど、そうじゃなくても本物のメイドさんにお目にかかるなんてことは早々ないだろう。

 獣耳じゃないし、ロングスカートだから露出もほぼ無し。

 黒いワンピースにそこまでフリルの多くない白のエプロン。

 全く萌えを鑑みない仕事のための衣装だけど…有り、だよね。


 僕的には丸眼鏡が彼女に良い感じにマッチしていると思う。


 改めて異文化を実感しながら、僕はどの装丁も立派すぎて難易度が高そうな本に視線を戻した。


 やっぱり折角魔法が有るなら使ってみたいって思うよね?

 だから魔法の指南本があるなら見てみたいと思ったんだけど。


「初心者向けが良いなぁ」

「それではこちらがオススメですよ」

「あ、ありがとうございます」


 違いが分からずお手上げだった僕の傍らから突如表れる希望に叶った本。

 呟きを拾ったメイドさんが、適当な本を見繕って差し出してきてくれたのだ。

 凄い。魔法みたいだ。


 本をパラパラとめくり、魔法陣の図解程度にしか挿絵が使われていない文字だらけの本に「参考書みたいだ」なんて感想を持つ。

 お城の備品だし、お堅いのも当然か。


 読む前から気が滅入りそうだ。


 取り敢えず簡単に試せそうな、緻密な図形や生け贄なんて面倒臭そうなものを必要としない魔法を探す。

 順当に前の方のページかな。


「…」


 目では目的に合った魔法を探しつつも、文字の羅列ばかり見ている内に僕の思考は別の方向へ向けて動き出していた。


 さっきのマオの行動には気になることがあった。

 気になると言うより不満なところかな。


 高校に入学してすぐ、僕等の席は近かった。

 ある日授業中に見えたマオの手元。

 チャラい見た目に反して意外にも真面目に板書をしているなと思ったら、ノートには不格好な日本語が暫く並んだ後、自作したらしき記号(多分本人は文字のつもり)の羅列に切り替わっていたのだ。


 そこで「あれ?」と思った。


 またある日には、たまたま学校の窓から見える山が火事になって、それに最初に気付いたマオが指差して教えてくれたんだけど、ぶつぶつと「自分のせいだ」と呟いて次の日には「力を抑える」と言いながらアクセサリーを増やしていた。


 そこで僕の疑問は確信に変わった。


 マオはチャラ男ではない。中二病だと。


 だから勇者なんていかにもな設定に自分が選ばれたいのまでは分かる。

 でもその後だ。


 あの不自然な遮り方。


 僕にも多少なりとも勇者の力が備わっているのが明白な上で、「自分だけ」が勇者みたいに振る舞っていた。


 勇者が一人の方がカッコイイ?

 自分だけが目立ちたい?


 否、違うね。


 一年以上付き合った友人の勘からして、どうせ僕の身の安全のために自分だけが戦いに行く気なのだろう。


 妹弟の多いお兄ちゃん気質のせいか、たまに同年代の僕達クラスメイトまで年下扱いするんだよな、マオって。

 確かに僕の方が【加護】の力は弱いみたいだけど、友人一人を死地に送り出すほど薄情じゃないつもりなんだけどな。


 それに僕は素直じゃないので、それだけ露骨に庇われると寧ろ魔王退治に乗り気になってしまう。


「"我が手に集いし紅蓮の炎よ、我が前の敵を焼き払え"…。うーん…ダメかな」


 しかしヤル気を起こしたところで実力が伴わないとただ犬死にするだけだ。

 それはいただけない。


 僕はメイドさんに見付けてもらった本の詠唱だけで済みそうな魔法を手始めに唱えてみた。

 それらしい呪文を音読してみたが、残念ながら扱える様子は全くない。


 よく考えたら書庫で"紅蓮の炎"なるものが出たら大惨事だったから良かったような気もする。


 けど、やっぱり魔法を扱うにも何かコツがあるのかな。

 かっこよく決めポーズが必要だ!とか言われたら「中二病要素は詠唱だけで充分です」と丁重にお断りしたくなりそうだけど。

 だからといって当然のように「魔力の流れが…」て書かれても分からないよ。


「んー…」


 パラパラと他のページを見ても属性が変わろうとも威力が低かろうとも、まず魔法を使うならば魔力を感じることがスタート地点らしい。

 説明的には魔力も空気中の成分のひとつみたいなんだけど…だめだ。地球の空気とどこが違うんだか。


 背後に控えるメイドさんに聞いてみたものの彼女も魔法は苦手らしく、感覚的なものなだけにこの世界出身者でもセンスの差が物を言うらしい。

 この世界では電力の代わりに魔力が生活道具に使われているから、魔法使いと呼ばれるほど精通はしていなくとも大多数の人間が初級魔法なら使えるくらいには魔力に親しみが有るらしいんだけど。


 困ったなぁ。今の僕には何かしらの「武器」が必要なのに。

 しかも剣とか槍の類いじゃなくて、ド素人でもある程度即戦力にできるやつ。

 そういう意味では魔法って良いかなと思ったんだけど、そう上手くはいかないか。


 マオが旅立つ前に「一緒に来るな」って言えない力が欲しいんだけどな。


「ん?そういえば何で"読める"んだ?」


 ふと、さっきまで読んでいた本の文字の羅列に目を戻して違和感を覚える。


 日本語で話していたから読めても気にしていなかったけど、改めて見るとこんな文字は知らない。


 …でもなんか見覚えが…?



(said end)

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