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21 魔王様と大きなネズミ

「うわー。マオ、ありがとう」

「どーいたしまして」


 俺が投げた小石に弾き飛ばされて気絶するイビルラビットを、視線だけで確認したユウが俺にお礼の言葉をかけてきた。

 即座に俺がやったことだと判断する辺り、状況把握は悪くなさそうだ。


 避けられない状況に陥ったのは、単純に戦闘での立ち回りの経験不足ということだな。


「キィ!」

「っ!」


 それたけではなく、戦闘中の緊張感にもユウは慣れていなかった。

 ユウが俺の方に気を向けたその隙を、野性生物が見逃すわけはない。


 空かさずイビルラビットの一匹が、無防備なユウの首に飛びかかって来る。


「ユッ…、」


 素人の警戒の甘さを舐めていた俺も焦って飛び出した。


 しかしそんな俺が目にしたのは、剣を握り直し、イビルラビットを横に打ち払うユウの姿。


「…」

「…レイラン、か?」


 さっきまでとは違う鋭い動きに、俺は言葉を漏らす。


「…うん、今のは良い感じ」


 俺の問いに対する応えではなかったが、ユウ本人の手応えに対する納得の一人言が返された。


 つまり、今の一撃はユウのものってことだな。


『おいユウ。俺は斬るもんであって叩き付けるもんじゃねーぞ』

「あはは、レイさんごめん。次は横向きにするよ」


 呆気に取られる俺の目の前では、ずっと黙っていたレイランがユウに苦言を呈する。


 冷静になってみると、確かに今の攻撃をレイランが行うとは思えなかった。


 今の一撃は剣の角度が九十度違ったのだ。

 つまりは刃を使った斬撃ではなく、面での打撃。


 剣士として上から数えた方が早い実力を持つレイランが、そんな御粗末な間違いを犯す筈はない。


「キィ!」


 実践である以上、悠長に感触を確認する暇など与えてもらえるはずもなく。


 しかし知能が低いからであろう、イビルラビットは相変わらず突進攻撃を繰り出してきた。


 数が減ると同時攻撃ですらなくなるから、単調な攻撃であることが尚更浮き彫りになるな。


「横に、構える…!」

「ギイッ!」


 練習用と呼んでも差し支えなさそうなイビルラビットの攻撃に、今度こそユウの正確な一撃が入った。


 「構える」と言いながら既に斬ってるし、振り抜かずに標的に当たった所でピタリと止まる変な動きだが、明らかに敵を捉えられている。


 テンポが取りやすいなら掛け声はなんだって良い。

 初心者でこれだけちゃんと攻撃が当たれば充分だろう。


「おぉ、人間追い詰められると良いもんだね」


 打撃になっていたあの攻撃で何かを掴んだらしいユウが、改めて一人納得をする。


「キィ!」


 一匹仕留められたことで、残りのイビルラビットは警戒を強めたのか、一旦足を止めた。


 残るは三匹。


 ユウに斬られた一匹は絶命、打撃に遭った一匹はまだ気絶している。


 だが俺が攻撃したやつはふらつきながらも、既に立ち上がっれるまでには回復していた。

 本気で撃つと小石が貫通して体がそのままユウに当たってしまうので、軌道を変えられる程度にしか撃ってないからだ。


 ふらつく一匹以外は、あれだけ跳び回っていたにも関わらず疲労の様子は見られない。

 でもまぁ今のユウの調子ならいけるかな。


──ガサガサガサッ!


「ん?」

「あ、ユウ気を逸らしちゃ…」


 不意に聞こえてきた茂みを掻き分ける音。

 何かがこちらに近付いてくる音だ。


 ユウは反射的にその音のする方へと意識を向けた。


 気になるのは当然だが、今さっきイビルラビットから気を逸らした隙を狙われたばかりじゃないか。


「キィ!」


 その不安は的中したらしく、イビルラビットは音の主よりもユウを片付けることを優先らしい。

 好機とばかりに三匹まとめて襲い掛かるイビルラビット。


『ったく』


 が、またしても俺が恐れるような光景になることはなかった。


 三匹を繋ぐ線上にス、と一閃の光が走ったかと思えば、次の瞬間にはユウの剣先は音のした茂み方へと向いていた。


 六つの固まりになったイビルラビットが、ぼとぼととその場に落ちていく。


「悪ぃ…斬らないで貰いてぇな…」


 そして生き残ったのは、蒼い瞳のユウに剣を向けられホールドアップするガイ一人。


「助かったよ。レイさん」


 剣を構えたままの姿勢とは不釣り合いな穏やかな声でユウが言う。


「今の一撃は今度こそレイランの仕業か」

「…俺はまだ助かってねぇ気がする」

『ふん』


 茂みを抜けた途端、自分が急停止しなきゃ確実にイビルラビットの仲間入りしていたガイの顔色は悪い。

 そんなガイを詰まらなそうに一瞥したレイランは、大人しく剣を引いた。


『ユウ、戦闘中に目の前以外にも反応するなら取り敢えず全部斬っとけ』

「はーい」


 大雑把な指導をするレイランは、剣を鞘に納める頃にはさっさとユウに体の操作権を返していた。


 本当にユウが危なくなったらちゃんと護ってくれるとは思っていなかったから、ちょっと意外に思ったのは秘密だ。


 それにしても、レイランの指導に素直に頷くユウ。


 それで良いのか人間。

 今斬ろうとしたのガイなんだけど?


 でもユウが殺られるよりは良いか?


 一応人間に不信感を与えたくない魔物心としては物騒な指導に突っ込みを入れたいが、保身の意味では間違っちゃい無いから困る。


 取り敢えず俺は斬りかかられても自衛するからいっか。

 斬られたら斬られた側の自己責任だよな。

 うん。


「すみません。新手の敵かと思っちゃって」

「いやぁ、初心者の戦闘の邪魔をするとか俺もタイミングが悪かったな。すまん」


 お互いにぺこぺこ頭を下げる不思議な光景を見つつ、ガイも責める気無さそだし問題なさそだな。と納得。

 相手を見分ける余裕のない初心者じゃなくて、相手を見分ける気のない玄人(しかも勇者)ってことは考えないでおこう。


 俺は彼等から目を逸らしつつ気絶しているイビルラビットにとどめを差し、いそいそと討伐証明用の部位をちぎってポケットに押し込んだ。


 因みに討伐部位は「核」である。


 核は人間でいう心臓みたいなもので、魔物は必ずし持っているし、魔素もたっぷり含まれている。

 人間はこれを加工して魔導具なんかを作っているとかないとか。


 一々核を探さないでウサギを丸ごと詰められたら楽なんだけど、例にもよってポケットの口が小さいんだよな。

 あ、ポケット中にポリ袋発見。

 次からはまとめてこれに入れよう。


 とか考えながら作業に勤しんでいたら、ひとつの魔獣の気配と背後にそれを追うような複数の気配がこっちに近付いて来ているのを察知した。

 この感じ、さっきまであっちにいた「大きい反応の魔物」だな。


 ガイは勿論、その気配は轟音と共にやって来ているのでユウも気が付いたようだ。


「なんだろう?」

「くそ、こっちに来たのかよ…」


 首をかしげるユウとは対照的に、ガイは忌々しげに言葉を吐いた。


「突然超大型の魔獣が現れたんだ。今はベテラン共が足止めしている間に初心者を町に返しているところでな」

「へぇー」


 どうやら緊急事態だったみたいだ。


「へぇー、じゃねぇよ!悠長だな!お前等も初心者だろうが!」

「でもレイさんいますよ?」

『あ゛?んな弱ぇーのテメェ等で片付けろ』


 相手の強さが分からなくても、レイランより強いことは無いだろう。と考えるユウは間違ってない。

 間違ってないけど、ガイが俺等を急かしているのが「強いやつが現れたから」だとは限らない。


 ガイは「超大型」としか言ってないのだ。


 通常の初心者が持っている初期装備と知れている腕で、走り回るデカイ獲物に致命傷を与えられるか?

 まず無理だ。


 厚い表皮に弾かれて、轢き殺されるのがオチである。

 でも逆に、攻撃さえ通れば敵ではないのだとも言える。


 つまり初心者には荷が重くても、レイランが乗り気になって協力してくれるような「強い敵」ではない。


 【身体強化】されているユウの脚なら逃げるのもそんなに焦る必要も無いのだが、俺等に関わった三人の中で唯一試験でのユウの動きを見てないガイだから、焦るのも無理は無いのかな。

 過保護だし。


「あ。あれかな、大きい…カピバラ?」

「クソッ、もう姿が見える距離かよ」


 木々を薙ぎ倒しながら迫ってくる茶色い塊。

 耳みたいな小さな出っぱり、流線型のシルエット。


 …うん、カピバラっぽい。

 流石は最大級のネズミ。

 デカイな。


「凄いね、木よりも高いよ。レイさんが"僕達で倒してみろ"って試練を課してきたわけだけど、どうかな?」


 ユウがレイランの台詞を好意的超訳していた。


 いやあれは面倒臭かっただけだろ。


「取り敢えず試してきて良い?」

「え、ちょ…」


 暫しカピバラ(仮)を眺めていたユウがチラと俺を見た後、徐に剣を握り直し駆け出す。


 いや、俺の静止聞けよ!

 そりゃあの迫力じゃ気も急くだろうけど!


 ユウは正面衝突を避け、回り込むようにカーブを描きカピバラに駆け寄って行く。


「ハッ」


 地上戦じゃ分が悪いと悟ったのだろう。

 途中から木々を蹴り駆け上がる姿は、始めてやってみたとは思えないスムーズな動きだ。


 丁度カピバラが来る頃には、ユウはそのこめかみの辺りに跳んでいた。


「エイッ」


 ただ振り下ろすだけでなく、体を捻り剣撃に勢いも乗せる。

 までは良かった。


 イメージは悪くない。

 しかし腕が伴わない。


「うわっ!」

「ユウっ!」


 力負けしたユウはカピバラに弾かれ、少し離れた辺りまで飛ばされて木の海に沈んでしまった。


 葉っぱがクッションになった筈だが…ここからじゃ状況が見えないな。


「ちょっと見てくる」

「あ、おいっマオ、」


 ガイに一言残し、飛んでいった方向に走る俺。


『おいレイランっ、ユウは無事か?』


 安否確認ならばこの方が早いだろうと、俺は【思念伝達】で叫んだ。


 こっちの方が遠くまで声が届く。


『あ?煩ぇーな。勇者がこの程度で死ぬかよ。ピンピンしてんぞ』


 すると、レイランからの返信は直ぐに帰ってきた。


 凄く煩わしそうである。


『そうか、良かった…』

『着地がお粗末極まりないからな。少し打撲は有るが少し休んだらすぐ戻らせる』

『はぁ!?お前の運動神経なら、んな怪我も無いだろう!?』

『んなフォロー誰がするかよ。つか手助けしねぇのはユウの希望だ。文句があんならそっちに言え過保護野郎』


 向かいながらレイランと会話をした末に、何故か俺が過保護扱いされた。


 それはガイの専門だろ。

 俺は単に友達を心配しているだけだ。


 と言っても、ユウたっての希望ならばしょうがない。

 レイランを責めるわけにもいかないか。


 負傷の度合いをレイランが見誤るとは思えないので、大丈夫なのだろう。


 となれば、俺はまず「あっち」をどうにかしないといけないな。


「おーい、マオ!あんま一人で突っ走るな、危ないだろうが!」


 俺がカピバラに再び視線を戻した頃、ガイが俺の後を追って走って来た。


 そうそう。

 俺が魔物だって分かっているクセに心配してくれる。

 これこそ真の過保護と言うやつだ。


 それにしてもあのデカいネズミ。

 正式名称がカピバラだとは言わないよな。


「…となるとあいつは、ビッグラット?」

「んあ?ああ、まぁな」


 息を上げながらも、俺の唐突な思い付きに律儀に応えてくれるガイ。


 やっぱりそうか。


「クエスト受けたんだけど、ノルマ十五。あれで一匹とか割りに合わなくない?」

「あんなん異常個体に決まってんだろ!ラビットより一回り小せぇくらいがラットの標準だ!」


 俺がクエスト用紙を取り出してガイに見せれば、ガイは目を剥いて反論してくる。


 そんなに怒られても、俺はビッグラットの容姿もサイズも知らないし。


「じゃああれ一匹でクリアにさせてくれないかなぁ」


 まぁデカイだけだから何匹いても良いんだけど。と肩を鳴らしながら一人ごちる。


 デカイ分、本来より幾らか基礎能力は上がっているのだろうが、跳ね上がる程ではあるまい。

 現に感じる気配は面積が広いだけで、強さはその辺の群れと変わらないくらいだ。


 早い話が「膨らんだだけ」。


 ユウの討伐ノルマは半分終わっているし、俺の方も稼がないとな。


「んじゃ、ビッグラット一匹目、な」


 正面衝突の度胸さえあれば行ける行ける。


「いっせーの、」

「ちょ、おま」


 ガイの困惑した声が背後から聞こえたが、ビッグラットに止まる気がないのだから俺だって止められないぜ。


 俺はビッグラットの到着に合わせて高く跳び上がる。

 さっきの屋根は高過ぎたが、今回は丁度良い。


 先の失敗をちゃんと活かせているぞ。


「"伏せ"っ!」

「ヂュ…!?」


 タイミングもばっちりで眼前にやって来たビッグラット目掛けて、俺は掌を振り下ろす。


 ブリーダーとは呼べたものではない物理的な指示と共に、凄くドスの効いたネズミっぽい鳴き声を轟かせて、ビッグラットの額がめり込んだ。


 これ以上森林破壊を拡大させないつもりで殴り飛ばさず伏せを選んだのに、ビッグラットに押し潰された地面まで陥没して、周囲に衝撃波が広がっていく。


 木がめっちゃしなってる。幹がまるでか細い枝みたい。


「ヂュ…」


 ビッグラットに比べれば俺の拳は小さいが、頭を叩いた衝撃は全身に波紋を広げ、遂には致命的なダメージにまでなったようだ。


 ぴくぴくと痙攣していた手足も次第に静かになり、最終的には大きな目玉がぐりんと白眼を剥いて動かなくなった。


「ス、スゲェな…」

「さすが勇者だね」

「ユウもそうだろ」


 ビッグラットが完全に沈黙した頃、てこてこと何事も無かったかのように戻って来たユウが拍手を贈って来たが、剣の扱いに慣れればお前もすぐにできるようになる程度のことだぞ。


 そう考えるとちょっとは本人が無茶しないと戦闘訓練にならないのか、と納得した。


 でも心臓に悪いな、俺の。


 因みに、魔王城の周りには瘴気を取り込んでデカくなったやつがよく沸くので、俺は対重量級に慣れている。

 対してユウはレイランと同じで数を相手にする方が得意だろう。

 さっきのイビルラビットみたいに。


「レイランなら連撃で同じところを削っていくんじゃね?見た目は一撃だろうけど」


 参考までに、簡単に思い付いたビッグラットの対処法を挙げる。


 他にも、剣を避雷針に雷を落としたり、剣圧で真っ二つにもできるだろうけど。

 ユウがやるなら俺と同じ原理で剣で殴るのが早いかも。


 ガイが口を開けたままだがこのネズミ、イビルラビットよりも討伐数が多いんだからイビルラビットよりも弱いんだろ?

 現に猪突猛進なだけで、変なトラップも攻撃も無かったし。

 今回のはちょっと大きいから戦いづらいだけで。


「討伐部位はっと、」

「探すの大変そうだね」


 放心しているガイは置いておいて、俺等はクエスト達成の為の核探しに移った。


 弱かったもんなぁ。

 体格にみあった大きい核が有るとは思えない。


 普通のビッグラットのサイズのことを考えると、核は肥大化していても拳サイズくらいまでだろう。

 この巨体から拳台の核を探すのだとしたら、倒すよりも骨が折れる。


「…いや、俺が討伐の証言をしよう。町に帰ってこいつの回収を要請しないといけないしな」


 復活。と言うには力無いガイが気の効いたことを言う。


 それにしても、クエストには核の回収しか記載されていなかったのに、死骸も回収もするのか。


 魔物は基本的に魔素の塊だ。

 だから放置しておけば骨まで魔素に分解されて跡形も残らない。


 だから素材回収が目的でもなければ、討伐部位以外は放置しておいて問題ないのだが。


 俺の不思議そうな表情を読み取ったガイは何故かちょっと苦笑して、それから丁寧な説明をしてくれた。


「このサイズの牙や爪ならビッグラットの素材でも充分武器になる。それに、異常個体は研究室行きだ」

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