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2 魔王様は勇者様?

 この場の全員が明らかに天然物な金髪蒼眼なのに、流暢に日本語を使っている。と言う違和感の正体に行き当たった俺は、ここが自分のいた世界ではないことに更に確信を持った。


 考えてもみて欲しい。

 俺は地球でコミュニケーションを取るために頑張って日本語を覚えたのだ。

 その日本語が通用すると言うことは同じ言語を使っていることになる。


 しかし俺のいた世界では日本語は掠りもしなかった。

 だから覚えるのが超大変だったのだ。


「お見苦しいところを、私、司教のアーゼンと申します。この度は遠いところからよくお越しくださりました」


 突然の事態で状況把握に勤めていると、徐にやって来た聖職者らしき格好の中でも一番派手な格好をしたおっちゃん──司教のアーゼンが俺等の前で深々と頭を下げた。

 周りの人達も一斉にお辞儀しているからこっちからもし返しておく。


 そんな真っ白なおじさん達と学生の奇妙な図がしばらく続き、その後アーゼンの案内で俺等は最初の空間から別の場所へと連れ出されたのだった。



…………

……………………



「マオ、これから僕等、どうなるんだろうね」

「…悪いようにはされないんじゃね?」


 「王のもとへ」と言って豪勢な内装にメイドや執事的な人々が控える廊下を案内されているからには、ここは何処かの国のお城の内部だろう。

 それでもって最終到達地点には王様が控えていると思ってまず間違いない。


 やけに畏まった司教といい、このVIP対応で牢獄に辿り着いたら詐欺だ。


 一応、知らない世界だからって無闇に俺が魔王だとバレないように、しかし何か起きた時の対処は出来るように警戒を強めて歩く。

 隣を歩くユウがいくら鋼の心臓を持っていても、ただの高校生に掌を返した彼等が槍やら魔法やらを飛ばして来たら太刀打ち出来る筈もない。


 と言うかこの状況でそんな事されるとしたら俺が魔王だってバレた時が一番有力じゃね?

 どんなに俺が友好的魔王でも、会って数分の相手にそんなのが分かるわけがないのだから。


 …うん。気を付けよう。


「そういえば委員長っていなかったみたいだね」

「あぁ、そうみたいだな」


 無言で前を行くアーゼンに連れられているのが、俺とユウだけなことを指摘するユウ。


 思い返せば確かに、召喚された時点で委員長は居なかった。

 教室では俺等とは少し離れた場所に立っていたから召喚されずに済んだのだろうか。

 それなら良いんだけど。

 離れていたことで召喚地点も離れてしまったなんて事は…まさか、な。


 螺旋階段を登って、また暫く歩く。

 広い。それに四階…否、少なくとも五階はあるっぽいな。

 でも残念ながら地球の文明の利器、エレベーターやエスカレーターなんてアイテムは無いらしい。


 って、地球のお城にも付いてないか。


 同じ様な内装に俺がちょっと飽きてきた頃、案内してくれていたアーゼンが廊下の突き当たりで立ち止まり、くるりと俺等の方に振り返って来た。


「こちらに御座います」


 と恭しく手で示された目の前には、ひとつの大きな扉。

 ここに来るまでの廊下脇に並んでいた扉よりも重厚で威圧的な、如何にもな両開きの物だ。


 ここが魔王城だったならば、ラスボス戦に突入するだろう。


 てか俺の家はそうしてる。


「──"我、此処に証を示さん"。【解錠】」


 アーゼンが扉に手を翳して何やら唱える。

 流石は魔法の有る世界。扉のロックも物理的な鍵ではないらしい。


 見た感じ、特定の波長の魔力を感知したら開く仕組みのようだ。

 魔力版認証システムだな。


 アーゼンが手を翳した所を起点に、扉の模様に沿って青白い光が延びていく。

 最終的に光で魔法陣が描かれると、次いでガチャン、と錠の開く様な音が鳴った。


 よく見ると扉が開くと同時に内側の空間が僅かに歪んで膜みたいなものが消えるのも見えたから、どうやらこの部屋単独で結界も張られているようだ。

 鍵の開け方を間違えると扉は開いても結界の方は発動しっぱなしって感じか。


 この二重構造、面白い。

 シェルターとして普通に攻撃も防げそうだけど、本命は間者を見抜く為のセキュリティかな。


 いいな、アレ。


 科学技術は難しくて諦めていたけど、魔法なら魔王城にも組み込める気がするぞ!

 まぁうちは既に俺の趣味の増改築で迷宮と化してて、住人は迷子防止にワープで移動が定石になって久しいけどな。

 だから【解錠】ナニソレで往き来できちゃうけどな。

 たまに来る討伐隊を引っ掛けるトラップルームくらいには使えないかな。


「連れて参りました」

「うむ」


 俺が新しい技術に興味を示している間に、先に入ったアーゼンがこの部屋の中央に座る男に頭を垂れて俺等の事を告げていた。


 男はアーゼンよりは若そうだけど、それでもおじさんって感じの年頃だ。

 豪勢な椅子に鎮座し絢爛な装束を纏い、その上から重厚なマントも羽織っていて凄い重そう。

 そんな重厚感満載の装いの割りには、人相は人の良さそうな柔和な感じで、とても穏やか。

 ゴツい衣装と相反しているのに馴染んでいるのは、彼がその格好に相応しい人物だからこそだろう。


 そして俺が一番気になるのは彼が纏うオーラ。覇気と表した方がしっくり来るか。

 見た目だけならば、質素な服を着て町に繰り出せば直ぐに溶け込んでしまいそうなのに、内から放たれるそれはただ者じゃない証だ。

 このおじさん、左右を固める近衛兵より強いんじゃねぇの。


 そして絶対王様だろ。お前。


「よくぞ参った勇者とその同郷の者よ。余はアルセウス=ルージア=セイルリード。この国、セイルリードの現国王である」


 どうして良いか分からない俺等が呆けていると向こうからのアクションがあった。

 立ち上がり、両手を広げ歩み寄って来たおじさんはやっぱり王様らしい。

 笑顔が溢れた大変フレンドリーな王様だ。国民にも人気があるんじゃないか?


 て言うか聞き捨てならない単語があったぞ。

 「勇者」って言った?てか「同郷の者」ってどんな言い方よ。


「あー、俺はマオ。で、こっちはユウ」

「その紹介ってどうなの」


 取り敢えずアルセウス王に倣いこちらの紹介もしたら、速攻でユウからのツッコミが入った。

 タメ口のことか?違うか。名前のことだね。


 良いじゃん名前なんて通称で。

 俺はこの音、気に入ってるし。


 と、俺は心の中でだけ反論しておく。


 確かに日本で大人にこんな紹介をしたら総ツッコミを食らう所だろう。

 しかし貴族以外は名前しか持っていなかったり、日本語由来の本名を聞くよりも違和感の無い音だったりした結果、アルセウス王側からは特に何の言及もなかった。


「マオ殿とユウ殿だな、うむ」


 俺等の名前を反芻して頷く王様。

 どうやらタメ口についても気にしないようだ。敬語は苦手だから助かる。


「父上、そろそろその手を下ろしたらどうですか」

「あ、あぁ、すまんな」


 握手みたいにハグの習慣でもあったのか、両手を広げたままだったアルセウス王に対し不意に背後から声がかかった。


 アルセウス王が座っていた玉座の右側に控えていた近衛兵、かと思っていたその人物。


 「父上」ね。てことは貴方、王子様ってヤツでしたか。


 玉座付近はアルセウス王の覇気に完全に呑まれていて気付かなかったが、単体で見ればその人物からも確かに似たようなオーラが漂っていた。


 言われてみれば王様を若返らせて髭を剃って髪を伸ばして三つ編みにして垂らしたらこの王子様ができる気がする。

 似てる似てる。女子にモテそう。


「申し遅れました、私はこのセイルリード王国第一王子、カリティア=アルセウス=セイルリードと言います」


 王様に並ぶように前に出てきたカリティア王子が、自己紹介を終えると、


「この度は私共の身勝手で貴殿方をこの世界に呼び出してしまい、誠に申し訳ありませんでした!」

「うおっ!?」


 笑顔からすっと真面目な表情になったかと思えば、突然アルセウス王と共に頭を下げた。

 周りもそれに倣う。


 さっきもこんなの見たぞ。

 魔王的には気にならないが、高校生的にはこんな状況を味わうとは思わなかった。


 アーゼンや大臣ぽい人々は王族の謝罪に隠しきれない狼狽えを見せたが、脇に控える騎士は特別反応を示さない。

 多分俺等が来る前に「これ」があるのは伝えられていたんだろうな、召喚する時点で分かっていたことだし。


 それにしてもごめんなさい王様達。渾身の謝罪に見合わない軽い反応して。

 だって引くでしょ、いきなり王様にそんなことされちゃ!


「あのー、頭を上げて事情を聞かせてもらえませんか?」


 困ったような表情で宥めるような声が俺の隣にいるユウからかかる。

 俺の友人は異世界に飛んで真っ先に王族からの謝罪なんてミラクル体験をしておきながらかなり平静だった。


 何万年と生きている俺より大人だなぁー。


「おぉ、すまない、そうだな。さて、何処から話そうか…」


 頭を上げたアルセウス王が申し訳なさそうに笑う。


「まずは我々の世界の現状を。そうしないと貴殿方が喚ばれた意味が分からないでしょうから」


 同じく頭を上げたカリティア王子が、憂いを秘めた真面目な顔で言葉を引き継ぐ。


 出来た息子さんをお持ちですね、王様。


「時に貴殿方の世界にも魔王はいるのでしょうか?失礼ながら貴殿方からは魔法の源、魔素が感じられません、魔法運用はどの様にされているのかと思いまして」


 説明に入る前に王子が問う。


 はい、魔王なら知ってます。てかここにいます。

 とは冗談でも言えないので、ユウに回答を任せる。


 俺も魔導具で魔力をガッツリ隠してるからな。幸いユウと同じ世界の住人として疑われていないのだろう。

 でも原住民の方が正しい回答に向いている筈だ。


「僕等の世界には魔法も魔王もいません。ですがどんな存在かは想像がつきますよ」


 魔法ありきの質問をしてきた王子達に、魔法の代わりに発達した科学技術のこと、それで表現された魔法や魔王のある仮想世界…つまりゲームのことを簡易的にユウが説明する。

 それを聴く彼等は日本に行って直ぐの俺が如く見知らぬ知識に興味を示していたが、脱線すると不味いと理性が働き適当な所でこの話は打ち切られた。


「認識がおおよそ共通しているようで何よりです。それでは本題なのですが、この世界は今、魔王に脅かされています」


 カリティア王子の口からRPGのテンプレみたいな話が紡がれる。


 残念ながらこの世界の魔王は俺みたいな「人間ナニソレ面白い」な放蕩者ではなく、ゲームさながらの「人間ナニソレ脅かそう」なザ・魔王らしい。


 約一年前から魔物の行動が活発化し、あちこちの町で被害が相次いでいるそうだ。

 で、調べてみたらどうもそいつ等をけしかけている黒幕、魔王が絡んでいるそうで。


「過去にもこの世を恐怖に陥れた魔王は存在しました。それは当時召喚された勇者が滅ぼしたとされています。しかし今、再び魔王が現れたらしいのです」


 当然の流れとして幾度となく魔王のもとへ討伐隊を送り込んだそうだが、結果はラスボス戦にすら突入できないままの惨敗。

 魔物の侵攻が激化の一途を辿っているので、伝説にすがることになったそうだ。


 そう。「異世界から勇者を喚んで倒してもらう」という伝説に。


「この国の第二王子でもある私の弟は非常に魔法に秀でていまして、ここ数千年滅んだとされていた勇者の召喚魔法を成功させたのです」


 俺等二人をじっと見て告げるカリティア王子。


「所でカリティアよ、そのジーニアは何処に居るのかの?」

「それが、召喚された者が二人と見た瞬間に召喚の間を立ち去ったとか。余程失敗が堪えたのでしょう、自室に籠ったきり出てこないのです」

「全くあの者は」


 話に割って入ったアルセウス王とカリティア王子が何やら二、三言葉を交わす。

 ふむ。ジーニアってのが俺等を召喚した二番目の王子様なんだな。


 ………。


 ん?今失敗って聞こえたような。


 …取り敢えずそれは置いておこう。

 ここまで話されればどんなに鈍い奴だって「喚ばれた意味」が何か分かる。

 今はそれが問題だ。


 つまりは、


「貴殿方には勇者としてその魔王を討伐して頂きたいのです」


 てことになるよな。


 話を詳しく聞けば、その昔は何処の国にも勇者を召喚する技術が有ったそうだが、数千年前に天変地異のせいでその手の魔法陣やらノウハウを修めた書やら人やらがまるっと消失してしまったらしい。

 元々「魔王が現れたら使ってね」と言って神様がくれたオーパーツ的な技術だそうで、既存の知識では再現ができずに今に至っていたのだが、ここに来て第二王子ならば可能性があると分かったので召喚に踏み切ったのだとか。


 しかし喚び出しは出来るが帰す手立ては無いと言う。

 当時から勇者が帰った記録は無いそうだから、そもそも神様とやらがアフターケアまでは見てくれなかったのだろう。


 やはり魔王は勇者にしか倒せない、と言う結論のもと一方的に召喚はしたものの、目的を果たしたところで元の世界には帰れない、という問題が先程の謝罪の一番の理由らしい。

 

「…」

「…」


 一通り昔話を聞いた俺等の間に沈黙が流れる。


 お察しではあるが、異世界の俺等には全くもって関係の無いことなんだよな。


 しかもこれが本当に帰れないならば「魔王の侵攻に怯えるより自ら戦いに!」とか言い出すしか無くなるけど、俺いるし。

 世界線跨げちゃうし。

 早い話が帰れるし。


 じゃあ放置するか、と言われれば悩むところだ。


 俺が【異世界転移】をする理由はただひとつ。

 異文化ナニソレ面白そう。だ。


 となれば日本、地球に限らずこの世界もまた「遊びに来たい世界」のひとつになる。

 今の所この世界には観光に大事な「いい人いい町」が揃っているっぽいし。


 ならば快適な旅行に不釣り合いな魔王を倒すのもやぶさかではない。

 俺だって曲りなりにも魔王と呼ばれているのだ。魔法…は置いといて、腕っぷしでは引けを取らない、筈。


 が、そうなるとネックなのはユウがいることだ。

 自分の身を危険に晒すのは自分の勝手だが、俺の都合にいち地球人を巻き込むのはなぁ。


 確実に魔物どころかその辺の野獣に絡まれただけで死ぬぞ。


「…実は、そなた等にはもうひとつ謝罪すべき事柄があるのだ」


 俺が悩んでいると、言い辛そうにアルセウス王が口を開いた。


「本来、【勇者召喚】で喚ばれるのは一人だったのだ」

「というと?」

「そなた等の内どちらかはただ巻き添えでこちらに来てしまったということになる」


 つまりは勇者でもなんでもない、と。


 ああ。これが例の「失敗して二人いる」ってやつだな。と納得。


 この場合、俺は異世界とはいえ魔王だし、勇者って言うならユウが本命かな?

 でも単に力だけで見るなら、人間より明らかに強い俺を選んだ可能性もあるのか。


「へぇ」


 浮かない顔の王様達とは対称的に、俺は密かに一人ほくそ笑む。


 好都合だ。

 これに乗じてユウを城に置いて俺だけ旅に出るという手段が使えるぞ。

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