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1 魔王様は高校生

ゆるーい目で、よろしくお願いします

 俺は日本の平凡な高校に通う一介の高校生。

 と、周りの誰もが疑わないが実は違う。


 その正体は異世界人だ。

 否、そもそも人間ですらないから、その表現も正しくないな。



 何を隠そう、俺は異世界に君臨する魔王である。ふははははははっ!



 …なんて。高校生活最初の自己紹介でそんな本当の事を言ったら最後、周囲のドン引き間違いなしだろう。


 魔王こと俺を倒すために異世界から喚ばれる勇者を召喚する魔法からインスピレーションを受けて【異世界転移】を習得し、たまたま降り立ったのがこの地球とかいう場所の日本という島国。

 そこで高校生なるジョブを手に入れ、勉学に勤しみに世界を渡り通学するようになったのが約一年前。


 しかし勉強だけじゃ物足りない!

 やっぱり人間との交流も持ちたいじゃん!?


 と、超友好的魔王の俺が当時放った「友達いっぱい作りに来ました」という入学後最初の自己紹介は別の方向に誤認させてしまったらしく、しばらくの間はチャラ男認定されて目標とは真逆の人に距離を置かれた高校生活だったりもしたが、それだって誤解も解けた今ではいい思い出だ。


 そして紆余曲折有ったり無かったりの高校生活も二年目に突入している今日この頃。


 元の世界みたいに冗談で小突いた人間の頭が吹っ飛ぶかも。なんて恐怖を覚えなくて良い素晴らしい日々を俺は満喫中である。


 元の世界で不敗神話を誇る程度には人間との力が雲泥の差な俺が、そこそこ気を抜いて人間と接せられる理由。

 それはこっちの世界には魔法を使うのに必要な魔力の源、魔素がないことに他ならないだろう。


 魔力は魔物にとっては生命源も同じであり、つまりその素である魔素とは人間でいう酸素みたいなものである。


 こちらの世界に来ることでそれを絶たれた今の俺は衰弱状態と同じ。

 後はもうちょい頑張って力を堪えれば「多少力が強い人間」くらいにはなれるのだ。


 だから「魔王だって言うならその証拠に魔法を使ってみろ」なんて言うなよ。

 今は使えないから。


 …いや嘘。

 あっちにいた頃から使えない。

 

 ここだけの話、俺は魔王のくせに魔法の腕がからっきしのダメ魔物です。

 魔物の魔は魔法の魔!魔力の魔!なのにな。

 でも魔王だから!本当だから!


 魔法が苦手だっていいじゃない!

 魔法が使えない分、腕力脚力にものをいわせて今まで頑張ってきたんだ!


 と強がること云千年。否、云万年?


 現状の時点でどんなに強くても周りが魔法を自在に操り戦う姿を見れば、やっぱり羨ましくはなるもので。


 当然ながら魔王城に棲む奴等は、俺が戦闘において壊滅的センスを誇る魔法を封印し肉弾戦スタイルなのを知っている。

 とはいえ公然の秘密なら大っぴらに魔法の練習をして良いかと言われれば俺的に否。

 どんなに「見栄っ張り」「カッコつけ」と言われようと、イメトレ以上をする気はない。


 でもいつかは人間みたいに小難しい呪文や魔法陣とかを駆使してカッコよく決めてみたいよな。

 あるいはドラゴンみたいに豪快に口から火を吐くのも良いかもしれない。


 まぁ選り好みしたところでどっちも使える見通し皆無なんだけどな。

 こんな俺に今までよく皆着いて来てくれたものだ。良い仲間を持って感涙しそう。

 

「マオ、お待たせ」


 放課後の人気の無くなった教室。

 暇に明かして俺が自席で感慨に耽っていたら、日誌を職員室に届けに行っていた友人が戻って来た。


 俺のことを「マオ」と呼んだこいつは「ユウ」。

 高校生活最初にできた友達だ。


 ユウの見た目は年がら年中セーターを纏った、大体いつも左目が髪に隠れた何とも中二病と言うか根暗と言うか、そんな感じの印象だ。

 しかしそんな格好の原因も、辿ればちょっと冷え性でサラサラヘアーを放置するズボラ野郎なだけで性格はスポーツマンを思わせる爽やかさ。


 「派手に大技極めるのってカッコ良くね?」とか抜かして大地の半分を不毛の地にした何処かの阿呆とは違うのだ。


 まぁ俺も中二病なんて数千年前に卒業したから、もうそんな失敗はしないけどな!


 そんなこんなで友人であるユウは、外見はアレだが好青年な性格をしている。

 だから女子からはミステリアスと好意的に評され、ゲーム好きが高じて男友達も少なくない美味しいポジションに収まっているのだ。


 何気に幅広い彼の交遊関係のお陰で、俺に対するクラスメイトからの警戒心を緩和して貰ったと言っても過言ではない。


 因みに俺は地味めなユウとは対称的に、長髪を後ろで束ねてアクセやら缶バッチやらをじゃらじゃら言わせていたりする。


 チャラ男の印象はここからも来ているのだろうと最近察した。


 つまり俺は歩く校則違反なわけだが、一応言い分けをさせてほしい。


 向こうの世界では男でも長髪なんて珍しくなかったから気にしていなかったのだ。

 一応結んでたし、身長くらい有るのは流石に目立つからってこれでも縮めてたし。


 教師から「髪を切れ」と言われた時についぽろっと「うちの蝙蝠娘がこの髪触って俺を判断してんだよな」と渋ったら次の日から俺には目の見えない妹がいることになって黙認されることになっていた。


 缶バッチは単に好きで付けていたのだが、指導しようとして来た教師に俺が先走って缶バッチの素晴らしさを語ったら、勝手に「弟達からのプレゼント」と言う扱いになり軽い口頭注意だ済まされるようになっていた。


 そうなんだよ。

 異世界から来た俺からしたらこんな小さな物に集約された印刷技術も取り付けるピンも面白くてしょうがなかったのだが、この世界じゃ缶バッチとは高校生が我を忘れて褒め称えるほど希少なアイテムじゃないんだよ。

 そりゃ、誰かから貰ったから喜んでいると思われもするよな。


 本当の事を言うのは今更恥ずかし過ぎるので、弟達とやらを採用させて貰っている。


 アクセは他みたいにただの飾りじゃないから困った。

 これ等こそは俺が人間に溶け込むために必須の魔導具なのだ。


 いくら魔素が無い世界だからといって、そもそも元から保有する魔力の桁が違う俺。

 その抑えきれない分を制御したり、所謂魔物って感じの人とは違う外見的な特徴を隠したりするのに活躍するのがこの魔導具の数々なのである。

 角を「アクセサリーです」と主張する度胸は無いので、こればかりは生活指導に屈せず何がなんでもごね続けてやる!


「この後行くよね?」

「おう」


 俺の脱線した思考を呼び戻したのは、ユウのトリガーを引く動作とそれに併せた問い。

 これに俺は二つ返事で肯定を返した。


 ユウのこの動きが示す場所と言ったらゲームセンター、略してゲーセンだ。


 ゾンビを拳銃片手に撃ち倒していくアーケードが長らくのマイブームだそうで、思えばたまたま一年生の最初に座った席が近くて、この世界に来たばかりだった俺が「ゲーセンなにそれ?」な反応を示したら連れて行ってくれてからの付き合いになる。


 結局ゾンビ討伐は俺の性に合わずすぐに途中離脱してしまったが、俺も目新しいものだらけのゲーセン自体は気に入ったので同行するようになったわけだ。


「因みに今日はお土産は?どこか寄ろっか?」

「あー、そうだなぁ…」


 高一で「チャラ男」と呼ばれていた俺への認識は、高二になって「大家族の長男」に変化していた。

 「蝙蝠娘」以外にも会話の中で度々魔王城の奴等の話題を出していたら、いつの間にやら「俺には兄を慕う沢山の妹弟がいる」と言う新たな誤解が広まっていたのだ。


 そんな妹弟こと城の連中にこっちで見つけた地球産の土産をいそいそ持ち帰っていたら、すっかり妹弟思いのお兄ちゃんとして定着してしまった。


 そもそも俺が現役高校生にしては世間知らずだったのがいけない。


 入学当初の俺の自己紹介の新解釈として「友達を作る暇もなくずっと妹弟の世話をしていた兄」として、気が付けばクラスメイトから度々妹弟への土産にと花の髪飾りやら新発売のお菓子やらを貰って帰るのが恒例になりつつある今日この頃である。


 誤解を与えているのは申し訳無い気もするが、皆が見繕ってくれる品々は城で好評を博しているのでこの好意が続く内は甘えようと思う。

 土産がある日は毎回、家主である俺の帰還そっちのけで土産の権利を巡るバトルロイヤルである。


「あ、やっぱりまだいたわね!」


 そんな話をしていると、二人しかいない教室に新たな来訪者がやって来た。


 このクラスの委員長だ。


「流石は千里眼の真希奈。誰が何処にいるのかなんてお見通しか」

「バカ言ってんじゃないわよ。ユウ君が教室に戻るのを見たから貴方もいると思っただけ」


 誰が言ったかいかした二つ名を持つクラス委員長は俺を捜していたらしい。


 掃除の時間、何処で油を売っていても何処からともなく表れて持ち場に連行して行く様から付けられたそれは彼女のお気に入り…な分けもなく、呼ぶと大体ジト目で返事をしてくれる。


「はいこれ。よければ持って帰って」

「サンキュ、折り紙の本?」

「そう。前に持って帰った方は気に入った子がいたんでしょ?」


 校内でも珍しいんじゃないかと思う校則に準じた膝丈数センチのスカートに、三つ編みを肩の前に両側から垂らし、飾り気皆無な眼鏡を指でクイッと持ち上げるザ・委員長。

 彼女もまた、俺の妹弟にと使わなくなった図鑑や絵本なんかを度々くれるのだ。


 本と一括りにすれば向こうにも有るが、こんなにも多彩で綺麗なイラストなんてどこの人間の町に行っても見なかった。

 特に文字よりもイラストがページを占める絵本は目新しくて、持ち帰った日には大人でも飛び付く。


 それに大前提として異世界の文字が面白い。

 現状、俺以外はろくに文章を読むことができないけど、その辺は「洋書は読めないけどカッコイイ」とか思う心境だと思って欲しい。


 それでなんだっけ。


 ああ、今回は折り紙の本だ。

 折り紙の本を手にしたのは確かアイツだったな。


 折角覚えていてくれたのだから、有志を募らず、ちゃんと本人に渡すか。


「これからゲーセン?下校途中の寄り道は校則違反よ」


 俺等の先の会話で感付いたらしい委員長がそんな楽しくないことを宣う。


 なんて真面目なんだ。

 校則なんて一々覚えているやつはそうはいない筈だ。

 彼女のことだから生徒手帳の隅々まで読んでそうだなぁ。


 因みに俺はこの世界に来るにあたりこちらの文字と言葉を猛勉強した経緯がある。

 お陰で漢字に弱くて字の汚い奴程度のスペックを獲て、面白がって生徒手帳も端まで読み明かした。

 だから読めた範囲でならば何となくは把握している。


 「読めた範囲」と前置きを入れなくてはならないくらいには、まだ漢字が苦手だけどな。

 決して知能が低いのを異世界から来たせいにしているわけではないぞ?

 三種類も使い分ける日本語がメンドくさい仕様なだけだ。


 英語の授業の時に「こっちの言語の方が覚えやすかったんじゃ?」と思ったのは秘密である。


「固いこと言うなよ」

「貴方達みたいのに口喧しくするのが委員長である私の役割ですから」


 委員長が胸を張る。


「じゃ、チャラ男な俺は遊ぶのが役割だな!」

「ゲーマーがゲームをするのは当然の役割…と言うかもう使命だよね」

「貴方達ね…」


 自分でも屁理屈だと分かりつつ、都合よくチャラ男の肩書きを引き合いに出して主張したらユウも乗ってきた。

 当の委員長からはまたジトっとした目を向けられたけど。


「はぁ。まぁ良いわ。私は注意するまでが仕事だもの。巡回の先生に見つかっても知ったこっちゃないわ」


 最終的には納得、否、諦めてもらえた。


「ところで委員長、一緒に行く?」

「は?」

「ゲーセン。行ってみたらハマるかもよ」


 やっと話題が落ち着いたと思ったら勇者が現れた。

 校則が制服を着て歩いていると言っても過言ではない、教師より難攻不落のラスボスに挑むゲーム大好き勇者だ。またの名をユウ。


 絶体拒否られるぞ。


「行かないわよ」

「デスヨネー」


 誘ったのはユウだが、予想通りの回答に心の声が漏れてしまったのは俺だ。 


「二人で行ってらっしゃい」


──パァァァァ…!


 委員長が力無く声を発した時だ。

 突如この世界では有り得ない現象が発生した。


 教室に、俺等の足下に「魔法陣」が展開されたのだ。


 この世界にはない筈の魔力を孕んだ光を放ち、なお眩い光で象られたその図形が何を示すのか俺には察しがつく。

 この世界に来るのに俺が使っているものとよく似ているからだ。


 つまりは【転移】魔法の類。

 しかも異世界と繋ぐタイプのやつ。


 委員長もユウも魔素すら知らないこの世界の人間だ。

 そしてこの場で唯一魔法を知る俺が今このタイミングで魔法を使っているわけでもないから、じゃあ誰がこの魔法陣を出したのかと考えればつまり。


 異世界の、魔法のある世界からの干渉だ。

 どこかの世界で使った魔法がこちら側で発動している。


 俺が使う【異世界転移】と同じ効力を発するものだとしたら「何処かの世界の誰か」が来るだろう。


 でも「何故か俺等の足下」にある。


 その答えはきっと──。


 そこで俺の意識は一旦途切れた。



…………

……………………



「うぅ…ん…」


 一瞬視界が白くなった、そこまでは認識した。

 その後不覚にも俺は気絶してしまったらしい。

 毎日の登下校時に自分で発動する【異世界転移】ではそんな事はないのに。


 意識を持って行かれた時間は刹那の程だから、まばたき程度のそれを気絶と表現するのは些か悠長な気もするが、兎に角、不覚にも人の召喚に捕捉された挙げ句にこうして施行されてしまっただなんて、現役魔王の身としては不甲斐ない。


「ん?マオ…と、ここは…」


 隣で頭を抑えて目をしかめる人影、ユウが呟いた。 


 ユウの視界には今や見慣れた教室の風景は映っていない。

 勿論、俺の眼にも。


 全体的に白い石造りのあまり広くない空間。

 高い天井の所々に空いた穴から射し込む日差しに照らされて、周囲を囲むように配置されている繊細な彫刻が輝いている。


 写真集で見せてもらったヨーロッパ辺りにならこんな感じの教会とか世界遺産とかが有りそうだ。


 しかし残念ながらここは地球上ではない。

 十中八九、異世界だろう。


 その証拠に俺等の足下には教室で見た例の魔法陣が描いてあり、周囲には所謂「神官」の格好をした聖職者らしき人間達が多数こちらを見てざわめいている。


 極めつけに魔法のある世界特有の魔素混じりの空気。


 状況から察するに「異世界の神官達に召喚術で喚び出された」というのが、俺等の事の顛末と見るべきか。


 俺の魔力量ならば異世界へ渡る魔法陣の発動くらいは一人でできるが、人間がやるにはかなり大掛かりな準備と人員が必要だった筈だ。


 実際に召喚シーンを見たことがあるわけではないが、俺を倒すために喚ばれる異世界からの勇者が極小数しか存在しなかったのはその手間のせいだと聞いたことがある。


 改めて辺りを見渡してみれば成程。地球から持ち帰ったゲームに出てくる「召喚を行う神聖な場所」と言われれば納得がいく。


 それにしてもここはどんな世界なんだろう。


 魔法があることといい、魔素の感覚といい、地球よりも俺のいた世界に似ている。

 けれども自世界の魔王をこんな神聖な空間で喚び出すとか無いよな。

 討伐隊組まれちゃうくらいには敵視されていたわけだし。


 俺は自分の世界以外には【異世界転移】で最初に降り立った地球しか知らない。

 だから、やっぱりそれ以外の世界もあるんだなーとか、何処の世界も人間の営みは大きくは変わらないんだなーとか。そんな感想を呑気に抱くしかない。


「…ハッ!成功だ!」

「王に至急御報告をせねば!」


 神官(仮)の内の何人かが我に返ったように踵を返し、出入り口らしき方へと駆けて行く。

 自分達が使った魔法なのに成功したのが信じられないみたいだ。彼等も随分と長いこと呆けていたらしい。


 …アレ?今何か違和感があったぞ。


「うわ、流暢」


 俺が今の聖職者達の言動に疑問を持った時だ。

 初異世界のユウが案外落ち着いたテンションで変なところに感想を述べた。


 始めての魔法、始めての異世界だぞ!もっと何かあるだろう!と、内心突っ込んでしまったが、ユウのお陰でこちらの疑問も晴れたからまぁいいか。


 うん、本当に流暢な日本語を話す外人だ。

ここまで読んでくださり、まことに有難う御座います。

ストックが続く限り水曜日更新を続けたいと思っています。

ゆるゆるぐだぐだと進んでいきますので、気が向いたら今後とも覗いてやってください。

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