第九話「翼の決断」
どうやったらもっと沢山の人に見てもらえるようになるのでしょうか?
誤字脱字は報告のほどをお願い致します。
天空宮は浮国の権力者が居を構えたりしている特別な場所だ。内部は四つの宮に分かれている。
天使専用の天使宮。悪魔専用の悪魔宮。鳥人専用の鳥人宮。そしてそれぞれの宮の真ん中に位置する本宮だ。
入り口からすぐに大広間があり、宮ごとに通路が分かれている。サディアスたちは勿論天使宮を目指している。大広間までは一直線の通路になっていて、すれ違う天使悪魔鳥人達は皆サディアス達に礼をしてくる。サディアスは軽く会釈だけしておく。
サディアスとディータは無言のまま進んで行く。そして天使宮へと足を入れた。
天使宮自体は先程まで通ってきた通路や大広間と内装にほぼ変化はない。しかし悪魔と鳥人はほぼ見かけなくなった。
「このまま挨拶しに行くけど先に自分の部屋に向かうか?」
ディータが不意に聞いてくる。
「いえ、荷物はありませんし、先に自分の部屋へ用は無いので」
サディアスは天使宮の一室を使わせてもらっている。これはサディアスに限った話ではない。ディータも天使宮に住んでいるし、浮国出身のプレイヤーは皆天空宮の一室を使わせてもらっていた。ただ現在天使宮の一室に住んでいるプレイヤーはサディアスしかいない。
「そうか」
それからはまた沈黙が司る。ディータは口数が少ない分類ではない。寧ろ会話をすることを好む人なのをサディアスは知っている。「ミセド」の前はもっと話しかけてくれたのにと違和感を感じているサディアスだったが、そのことについて聞くのもなんだかなぁと思ってしまって立ち往生してしまう。
少しして、二人は天空宮の中で最も扉が大きい部屋の前に立っていた。『ミセド』は秘国と浮国間における仕来りだが、同時に任務のようなものでもあった。サディアスが非常時を除いて報告の義務があるのは
二人いる。一人はサディアスの上司である天使長統括ディータ。もう一人はこの部屋の中にいる。
サディアスとディータに緊張や不安は無かった。そのためディータは何も言わずにすっと扉を開く。そしてディータは迷わず中に入っていき、サディアスも後ろについて中に入り、扉を閉める。
部屋の中には横長の机と一つの椅子があった。机の上には紙と飲み物が置かれている。それらは現在進行形で使われていた。その男性天使は特に変わった容姿はしていなかった。ディータの様に四翼ではなく二翼の翼で髪は白髪、顔は人間でいうところの60歳くらいに見える優しい風貌。その他にも他の天使と違う要素は特に見受けられない。
ディータとサディアスは机に沿うように横に並ぶ。するとその男性天使は作業を辞め、顔を上げる。
「おかえりなさいサディアス。ディータはこんばんは」
包まれるような優しい声だった。
「只今帰還致しました天使統括殿」
『ディース・セラフィム・アルフィム』。第壹翼にして浮国内の天使の大親分であり、『大天使』の職を持つ浮国内の天使の頂点に立つ、現在生存している中で最高齢の天使だ。
「堅苦しいのはいつも通り最初だけでいいですよ。地上はどう見えましたか?」
アルフィムは問う。
「妖精たちはなんか…特殊な方々だなって…。あと地上は懐かしい感じでした」
「他の天使長たちのミセドの感想とは事変っていますね。こことは違う世界を見ているからでしょうか?」
この世界のNPCは、プレイヤーは他の世界からの来訪者だと思っている。自分たちの世界は、ゲームという作られた世界であると知らず、もしプレイヤーがこの世界は作り物とNPCに教えると、運営が介入してくる事態になる。NPCたちも自我がある。自分たちの世界が偽物と知れば発狂するかもしれないし、それ以外にも何をしでかすか把握できないのだ。そのためNPCが自分たちの世界をプレイヤーのせいによって疑わないようにするために、我々は介入を行い、場合によってはプレイヤー側にペナルティを課す運営は言っている。
アンティグルスというこの世界で、NPCとプレイヤーが共存できるように、運営はこのこと以外にも幾つかの制限を設けている。例を挙げるなら、前にいったレイプ行為の禁止も規制の一つだ。まあこれに関しては倫理的な面での問題が大きいだろう。
「それは…そうなのかもしれません」
サディアスにも分からないことだったので、あやふやな形で肯定をする。
黙って話を聞いていたディータは思い出したと言わんばかりに右手をグーにし、左手のてらを叩く。
「統括殿、和蘭君から手紙が来ていたのでは?」
和蘭というのは浮国出身の天使のプレイヤーの一人だ。ある時からもっとこの世界のことについて勉強したいと言い始め、今は学園都市エルフェンテインの学校に通っている。サディアスとはサービス開始当初からの天使プレイヤーの関係で仲が良かった。
ディータが和蘭君と言っているのから見て男性だと思うかもしれないが、和蘭というプレイヤーは歴とした女性プレイヤーである。ディータは自分より下のものは愛称か君付けで呼ぶ癖があるのだ。サディアスのことは愛称でサディと呼んでいる。由来は特にないらしい。
「ええ、この後教えるつもりでしたよ。ポンコツのディータの割にはよく覚えていましたね」
「なっ!?」
ディータは勢いよく仰け反る。
そうなのだ。実をいうとディータはみんなが認めるポンコツなのだ。
「サディの前で何を仰られているのです!?」
本人は激しく否定をしているが。
「私は貴方が子供のころから貴方のことを見てきているんですよ?何回言っても忘れる。大事な時にやらかす。ああ、思い出すだけで笑えてきますね」
アルフィムはこらえるように笑う。サディアスも前にディータがやらかした時のことを思い出してしまい、釣られて吹き出してしまう。
実をいうとディータ本人も薄々自分がポンコツであることを自覚してはいる。が、認めるのは尺なのだ。その為全力で否定をするし、自分がポンコツであることを出来るだけ知られないように努力している。
サディの前でと言ったのはまだサディアスには知られていないと思っていたからだ。勿論だがとっくにサディアスは気付いている。
「サディ違うんだ!あ、えーっと…そうだ!統括殿はご冗談がお好きなのだ!」
全力で欺罔しようとする。余りにもわざとらしく慌てるので、サディアスは我慢しきれず破顔してしまう。
「!こんな徒爾な時間はやめましょう!和蘭君の話に行きましょう!閑話休題!」
「正常性バイアスですか?まあ弄るのはこれくらいにして…。これですね」
アルフィムは机の中から一通の手紙を取り出す。正しいものであるか確認してから手紙をサディアスに手渡す。
「和蘭さんから貴方へ。未開封のはずですよ」
学都での現在報告だろうか。手紙を送られる訳もなかったはずなので、それっぽいことを考察するサディアス。
サディアスは封を解き、中に入っていた手紙を読む。
「…」
無言で読み続ける。内容が気になったのか、ディータがサディアスの後ろに回って手紙の内容を覗き見しようとする。
見るに見兼ねたアルフィムは注意をする。
「ディータ貴方天使長統括ですよね?本人が許可しているなら兎も角、勝手に見ようとするのは倫理観がないですよ。それで内容はどうでした?」
パンチラインだった。ディータが顔を引き攣らせながら元の位置に戻る。
サディアスは手紙から目線をアルフィムに戻す。そして手紙を奪い取ろうとしてくるディータに抵抗しながら手紙を封に入れ直す。
「纏めると、現在の自身の状況とお誘いでした」
「お誘いですか?」
「はい。なんか『学都祭』という、学都で行われる一大イベントがあるそうで。その誘いでした」
封ごと奪い取ろうとするディータにげんこつを落とす。
「部下に暴力を振られた!?」
それを見たアルフィムは深くため息を吐く。
サディアスはこれ以上抵抗しても面倒くさいと思い、手紙をディータに渡す。ディータは勢いよく飛びつき、手紙を見始める。
「行ってみたいですか?」
アルフィムが真顔で問いてくる。急に雰囲気が変わったアルフィムにサディアスは驚くが、今はなんて返せばよいのか考えるべきと思考のレール切り替えをする。
本心で言えばサディアスは行ってみたかった。浮国は大好きだ。多分このままジョシュミに居るままでも不自由はないだろう。しかし和蘭が浮国からいなくなったように、自分ももっとこのアンティグルスという広い世界をこの目で見てみたかったのだ。
元々地上で旅をしたいという気持ちをサディアスは持っていた。しかし言い出すことが出来ないままだったのだ。そんなサディアスの気持ちに拍車をかけたのは『ミセド』だった。一か月という期間だが浮国以外の国を見て、もっと沢山の国を見たいと強く思うようになった。
このような形で問われて、素直に答えるべきか迷う。サディアスは『天使長』という重要な役割に就いている。今のサディアスには部下はついていないが、他の天使長たちは皆部下を持ち、それぞれの役割に力を注いでいるのだ。自分も天使長になったからには何かしらの仕事を任せられるのだろうと自覚をしていたので、この場で自分がジョシュミから離れることになれば、ここまで自分たちを見てくれた彼ら彼女らを裏切ってしまうことになるのではと思ってしまっていた。
暗い顔で思考続けるサディアスを見兼ねたのか、アルフィムは何かを言おうとする。
しかしアルフィムを遮るように横槍が入る。その犯人はディータだった。
「天使長ってさ、みんな違う役割を持ってるんだ。浮国を守るための奴とか、研究している奴とか」
手紙を読み始めてから無言だったのに、急に喋りだす。サディアスは驚くが素直に話を聞いてみることにした。
「実をいうとね、自分たちの業務は皆自分たちで決めたものなんだ。私もそうだ。それぞれが自分のやりたいことで浮国に貢献している。だから、サディの本音が聞きたい」
「…」
ディータは確かにポンコツだ。しかしただのポンコツに浮国のNo.2など務まるはずがないだろう。
元々天使長統括の地位など浮国には存在してないなかった。これはディータが自らの意志で提案をし、生まれ、ディータ自身が務めることになったのだ。
サディアスは考える。様々な思いが渦巻いていたが、ディータの言葉が鍵となり、答えが生まれた。
「…。統括殿。私は地上に降りたいです」
ディータの良い所と悪い所の両方が露呈しましたね。次話をもって序章の内容は完結になる予定です。但しその後に番外編を一話入れる予定です。その他設定を纏めたものなどももしかしたら出すかもしれません。
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