第七話「翼は帰国する」
序章長くない?あと二、三話で序章が終わって一章が始まります。今回の話は短めですが情報量が多いかもしれません。
PLACE:神秘国家ヒミストリー
天をゆっくりと駆け上がる白い翼。その翼は空を上下に鼓動しながら駆けて行く。翼の所有者であるサディアスは、洋服を着た身体に叩きつけられる風たちを一心に受けながら、空を自由に飛んでいる優越感に体を浸していた。
何故なら翼を自由に使うのは久し振りだったからだ。本来自由に使えるものが制限されるのは、その喜びを知っているためにより苦痛やもどかしさを味わうことになる。一か月という長くも短くもない期間であろうと、サディアスの気概ではない心に何かしらを感じさせるには十分だった。
下に広がる秘国の自然達を後目にサディアスはある場所に向かっていた。
その場所とは浮遊国家パーシィー・ディヴィストの領土である『ジョシュミ』。首都ミストフォリッシュから離れた場所にある、秘国に広がる森の上空に聳えるように浮遊している浮島だ。
丁度時間帯的にも酉の刻が変わる頃、地平線に沈もうとする夕日がジョシュミの陰影をより強く象っていたため、サディアスは翼を倦まず弛まず動かすためのモチベーションを獲得出来ていた。
そのおかげもあってか、秘国の奥に位置しているはずの『ジョシュミ』は近くまで移動していた。サディアスは「ジョシュミ」の最下部から山肌をなぞるように上空へ駆け始める。が、ここでサディアスは違和感を感じる。翼が重いのだ。
サディアスの背中から生えた二つの純白の翼に瑕疵は有らず、翼が重く感じた原因は一か月も翼を真面に動かしていないからの単なる翼の運動不足。サディアスは運動不足という単純である原因に気が付かず、奏功をしてくれない翼にもどかしさを感じながら原因に対して思考を巡らせていた。まさに灯台下暗しと言えるだろう。
原因を探ろうが心当たりがなかったため、サディアスに答えは降りない。専ら考えているうちに側面部分の岩肌を登り切り、『ジョシュミ』を上から見渡せる位置まで上昇する。するとサディアスにとっては懐かしい光景が目に入ってきた。
それは秘国に近しいものだった。自然と調和されるように街が形成されており、『ミストフォリッシュ』の街並みほどではないが発展しており、三つの種族の生き物たちが意気揚々と生活を営んでいる。
三つの種族というのは、背中から純白の翼を二翼対になるように生やしている『天使』。背中から悪魔羽を対に携えた『悪魔』。腕から羽を伸ばしている鳥人の三つだ。
よく天使と悪魔は対に例えられる。天使は正義や光と、悪魔は悪や闇と。その為この二つの種族が当たりの様に仲睦まじく生活を行っているのは違和感を感じたと思う。実際に違和感なのだ。だってこの世界でも天使と悪魔は犬猿の仲なのだから。
ならば何故?、と猶更思うだろう。ただこの浮国、『ジョシュミ』で生活している天使や悪魔、そして鳥人も分からないのだ。彼ら彼女らは生まれた時から両者が手を取り合うのは自然であったのだ。浮国以外で生を営んでいる天使、悪魔は互いに忌み嫌う。それは本能的に刻まれたものであり、教育や環境以前の問題なのだ。
故に浮国民の彼ら彼女らは互いに嫌悪感を抱くことなく互いに助け合って生活をし、その話を聞いた者は疑問を呈する構図が出来上がっている。
閑話休題。サディアスは目の前に広がる懐かしきも変わらない光景に安堵を覚えた。一か月という短い期間であろうと、何か起こってしまったらという心配をサディアスの心の中に植え付けることは容易いことだった。それほどにサディアスは浮国を愛しているのだ。
サディアスが上から眺めているのを一人の天使が気が付く。それに釣られるように周りの天使悪魔鳥人達もサディアスの存在に気付く。
「天使長さーん!」
一人の悪魔がサディアスに声を掛ける。その周りの他の者たちも声を掛けたり、手を振ったりしてきた。
それを見たサディアスは彼らに近づく。そして一か月ぶりに浮国『ジョシュミ』の地に足を付けた。
「ただいま…です。皆さん」
一人の天使の顔にはユキノシタが咲いていた。
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PLACE:浮遊国家パーシィー・ディヴィスト
サディアスは秘国のことを根掘り葉掘り聞かれることになった。基本浮国民は地上に降りることはないためでもあるが、浮国民は仲間意識が高いためでもあるはずだ。
「秘国でどんなことしてたの?」
「自由な時間は町回ったり、あとは森で修業したりとかですかね」
サディアスを囲むように位置する彼ら彼女らと団欒する。会話の内容がサディアスに対して一方的に質問をする形になっているが、サディアスは煩わしさや厭わしさを感じることはなかった。
「妖精ってどんな容姿なの?あと他に人間とか居たの?」
秘国は最近になって他国との関りを持ち、人間を主にした他種族が秘国内に見られるようになった。その一方で浮国は秘国としか関係を持っていない。そして前に言ったように基本浮国民は『ジョシュミ』から降りることはない。サディアスが『ジョシュミ』を離れたのは『ミセド』による為だ。
天使は悪魔や鳥人より他種族から受け入れられている。天使も悪魔も鳥人も地上の世界に滅多に表れることはない。天使と鳥人は殆どが『ジョシュミ』で生息しているし、悪魔は浮国と地底国家ダクスに殆どが属している。その上で浮国は民を地に降ろさないし、地国は何処にあるか分からないという特性上も相まってだ。
天使に『ミセド』という習わしがあるなら、悪魔や鳥人にも似たようなものがあるのかと思う人がいるかもしれない。答えを言うならNOだ。そんなものは存在しない。
その訳というのは二回目になるが、天使が悪魔鳥人より受け入れられていることにある。天使は人間の見た目と背中に純白の翼という容姿で、一般的には見た目において好印象を持たれやすいし、神聖国セイクリードがその容姿から人間以外の種族の中で一番忌み嫌っていないという影響もある。
鳥人は腕から羽が生えているという容姿が天使に比べると悪く見られやすい。悪魔は、背中に携えた悪魔羽は禍々しく見える者が多く、悪魔羽の色が漆黒なのと、神聖国が悪魔と堕天使を全種族の中で最も忌み嫌っている。
秘国と浮国が関係を持つときに、悪魔と鳥人ではなく天使を面に出したのは、当時の妖精達が天使の容姿が一番綺麗だと見えたからだと言われている。
浮国において『ジョシュミ』から離れてはなけないという法律や掟は存在していない。しかし浮国には『ジョシュミ』から離れることは出来るだけしないべきのような暗黙のルールがあるのだ。ずっと昔、浮国が出来たばかりの時代に、当時の民たちの思想が由来と言われているが真相は定かではない。
遠まわしになってしまったが、浮国民達は『ジョシュミ』から降りたことがない人が殆どであるため、妖精や人間の容姿を直で目にしたことがないのだ。
「人間も居ましたよ。妖精は大体皆小さめの身体に羽が生えています」
「小さいってこんぐらい?」
そう言いながら一人の女性悪魔がしゃがんだ上で、約1mの高さで手を地面と平行にする。
「平均で見ればそのくらいですかね」
やっぱり好きな人たちと会話するのは楽しいとサディアスは思う。当たり前のことではあるが、サディアスの事情と一か月という期間、心から気持ちを出せる相手と会話出来なかったこともあり、改めて自覚することができた。
時間も忘れてサディアスは会話にピンク色の薔薇を咲かせ続けた。故に気が付けなかった。背中から四翼の翼を持つ女性の天使が忍び寄っていることを。
周りの天使や悪魔鳥人の中にはその女性天使を見て驚き声を掛けようとするが、その女性天使が右手の人差し指を唇に当てる仕草をしたので、声を掛けずに成り行きを見守る。
声を掛けられずに女性天使はどんどんサディアスに近付いていき、背後1mほどまで近づいたがサディアスは未だに会話に花を咲かせ続けている。
女性天使は気付かせるために四翼の翼を軽くパタパタと動かすが、サディアスは関知してくれない。段々女性天使は不機嫌になって、帯刀していた脇差を鞘から抜かずに鞘ごと抜く。そして振りかぶって脇差を鞘に入れたままサディアスの頭に振り下ろした。
「痛っ!?」
サディアスはすぐさま振り向きながら、自分が向いていた方向にバックステップし、自分に危害を加えた対象を視認する。
「……ディータさん…」
そこには白い肌に軽鎧を身に纏った銀髪で凛々しい美人の顔立ちをしている、四翼の純白の大翼を背中から生やした女性天使が不満げな表情を浮かべてこちらを見ていた。
誤字脱字や質問があればコメントをお願い致します。それと序章が終わり次第、一話を改稿させていただく予定です。内容は変わりませんが、説明ばかりなので、もう少し見やすくするつもりです。
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