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第四話「妖精宮殿」

時間が無くて誤字や可笑しい所が多々あるかもしれません。

浮遊国家には特別な風習がある。それは浮国に新しい天使長が誕生した時、その天使長を秘国に1ヶ月間常駐させる「ミセド」と呼ばれるものだ。なぜ「ミセド」を行うのか。それは浮国についてまず話さなければならない。浮国が存在する浮遊島のことを「ジョシュミ」と呼ぶのだが、浮国には浮遊島以外の領土を持たないため、ジョシュミは他の国の領土の上空。つまり領空を浮遊することになる。自らの国の上空を浮遊されるのは、どの国にとっても御免蒙りたいものだ。浮国は自由に移動出来るため、好きな場所に行くことが出来る。そしてもし攻撃してきた場合、襲撃を防ぐことが出来ない。他にも日光を防いでしまう。国民が不快感を抱く等の問題が出てきてしまうからだ。浮国はその問題を解決するためには、他国と協力関係を結んで、上空を浮遊することの認可を貰うことにした。そこで目をつけたのが神秘国家ヒミストリー。


協力関係にあると言っても、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その為協力関係がありますよと言っても、浮国の領民との関わりが持てない為、秘国の領民は繋がりが出来たのだという実感が持てなかった。更には浮国秘国以外の国々も、両国間で関係を結んだことをアピールしたかった。色々協議した結果生まれたのが、新しく天使長が誕生した時に、その天使長を両国が友好な関係を築いていることを見せる象徴として、「ミセド」を行うという訳だ。


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時は未の刻から申の刻に移り変わった頃。未だに雨が降り続いている中、一人の男が奇異の目に晒されていた。


顔にはマスクをつけていて、背中から生えている純白の翼を頭の上に被せて、雨を凌ぎながら走っていたからだ。


そしてその者が往く方向には、秘国にとって最高で最愛なる友であり、家族であり、仲間である「妖精女王」が居を構える妖精宮殿(オベロニア)がある。


住民たちはその男が何故この雨を受けながら妖精宮殿(オベロニア)の方に向かっているのか疑問に思ったが、その中でも察しのいい住民はその訳に気がつけた。



今日が「ミセド」の最終日だと。



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PLACE:神秘国家ヒミストリー首都ミストフォリッシュ


サディアスは焦燥感に駆られながら脚を動かし続ける。緩やかになっている坂道を登って行くにつれて、街並みが段々と変わって行く。さっきまでの街並みと比べると、上等な建物が増えてきたり、良質な服を着ている妖精の割合が多くなっている。そして傘をさす者たちが多くなってきたのだ。



何故傘を差す者たちが増えたのか。それはヒミストリーという国に住んでいる彼らにある。


この世界の傘という文明の力は、プレイヤーたちがこの世界に来る前から存在していた。傘が高級なものだからという訳で、手にしている者たちが限られているのではない。なら何故傘を差すという風習があまり浸透していないのか。このことを説明するためには、まず国を二つに分けさせてもらう。


傘を差すという風習が一般的に浸透している国と、していない国だ。ヒミストリーはしていない国に該当する。


そして広く浸透していない理由は主に2つ存在している。


1つ目は、ヒミストリーは妖精という亜人種以外の種族で形成された国だということ。


2つ目は、ヒミストリーという国が他の国々との交流をあまり作ろうとしてこなかった歴史にある。


1つずつ説明しよう。まず前者の種族の問題についてだ。答えから言ってしまうと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。何を言っているのかと思っただろう。簡単に説明すると、このAltera Vitaというゲーム内のNPC達の思想は、生まれてからの生活環境によって我々と同じように形成されていくのだが、形成される前の根本的な思想の軸となるモノが存在するのだ。


例をあげよう。もしも人間と耳長人(エルフ)が同じ条件下で生まれ、育ってきたとしよう。この世界の人間が持つ思想は現実世界の我々と同じと思ってくれていい。いや人間の根本的な思想なんか分からないだろと思われると思う。その為ここでは人間の根本的な思想のことを空白。つまり何にもない、生活環境によって全てが決まるものだとさせてもらう。


次に耳長人(エルフ)耳長人(エルフ)はAltera Vitaの世界の中では比較的温厚な種族であるとされている。その為根本的な思想は、温厚になりやすい補正がかけられているとする。そしてさっきの通りに同じように生活していき、ある日の事。家に帰ってくると、家族が何者かによって皆殺しにされしまったとする。色んな感情が渦巻くだろうが、ここでは()()の心が生まれるかだけを考えてもらいたい。察しのいい方なら分かるだろうが、温厚な補正がかけられていた耳長人(エルフ)の方が、復讐という温厚とは逆側に存在する思想が発生する確率が低いのだ。


このようにAltera Vita内のNPC達は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして思想は彼らの生き方そのものを決める中心だ。人間が便利さを求め、傘を生み出したのに対し、ヒミストリーの住民である妖精は、雨を凌ぐ価値を見出せなかった。


2つ目の他国との交流をあまり持たなかったのも、別種族と関わるのは()()()()()()()()という、彼らの思想から来ている。



プレイヤー達がアンティグルスに現れてからは、秘国は今まで以上に他国と関係を持つようになり、その結果他国の風習や文化、道具等が秘国に入ってくるようになってきた。傘もその一つである。その為富裕層の中から、傘を差す者たちが現れるようになったのだ。


富裕層からの浸透が始まった訳としては、秘国内での傘の生産は行われていなく、富裕層の彼らは、他国からわざわざ取り寄せたのだ。マス層やアッパーマス層の彼らはそこまで手が出ない。


サディアスは他国から傘を取り寄せればよかったと自責の念を感じ、秘国も()()も傘の文化を取り入れればいいのに、と思う。


傘に限らず、このようにサディアスが彼らに対してこうすればいいのに、と思うことは過去にも多々あった。しかし、サディアスが彼らに考えを押し付けるようなことは今までに1度もなかった。


相変わらず好奇の目に晒され続け、羞恥心を覚えながらサディアスは走り続ける。


そして走り続けて10分くらいが経つ頃には、サディアスの目の前には大きな宮殿が聳えていた。




その宮殿は夢物語だった。さっきまで見ていた街並みとは掛け離れていて、これがゲームであると再認識出来るはずだ。


宮殿を囲むように存在する庭には、水晶のように透き通っている花や、バイオリンやピアノのような楽器の形をしている植物が音を奏でている。


そして肝心の宮殿は、自然を利用していて作られていて、大小様々の木の根が宮殿に巻きついていて、その根から花を咲かせている。しかしそれは蔓が絡み付いている廃墟の様ではなく、根が宮殿の造形美を完成させていて、その全てが計算しつくされた様だった。


まさに神秘国家の象徴。首都が他国の技術や風習を取り入れて変化していく中で、唯一変化し続けないもの。いつまでも国民にあり続けるもの。それが妖精宮殿(オベロニア)だ。


初見なら圧倒されるであろうこの光景を目にしても、サディアスに驚きが生まれることは無かった。


そしてそのまま宮殿へ近づいていくサディアス。サディアスが近づいてくるのに気がついたのか、門の前で立哨警備をしていた妖精の1人がサディアスに声をかける。


「マスクを外していただけますか?」


サディアスは言葉を予知していたかのように、馴れた手つきで顔を隠していたマスクを外した。そして素顔を門番へと向ける。


門番はサディアスの顔を見て1つ頷く。


「お待ちしておりましたサディアス様。召使を呼んできますので、庭の中でお待ちください」


そう言って振り向いて宮殿へと足を進めようとした門番だが、何かに気がついたのか、直ぐにサディアスの方へと体を戻した。


「私共は兎も角、サディアス様は雨に濡れていらっしゃいましたね。従者と共に御召し替えと雨を拭う物を持たせさせますね」


今度こそはと振り向いて宮殿へと門番は飛んでいく。サディアスは他の門番に頭を下げられながら、宮殿の門をくぐった。


鼻をくすぐる花や草木の香気、耳に入ってくる音達はまるでサディアスを歓迎しているようだった。


サディアスは驚きはしなかったが、庭に心の中で嗟歎の声をあげる。そのせいでサディアスは自分に起きていることに気がつけなかった。


それは劇的な変化だった。その為意識を庭から少し現実に戻すと直ぐに心づく。


(雨が降ってこない!?)


少し回しを見渡すと、自分だけでなくて、庭と宮殿には雨が降り注いでいなかった。サディアスはこの現象を受け、すぐさま振り向く。すると門の外側には未だに雨が降り続けている光景が目に入ってくる。


伝達に向かった門番以外の門番達は、門の前で立哨警備をしながら未だに雨に体を晒していた。


サディアスは上を見上げる。庭や宮殿に雨が降ってこないなら、上空に降るはずだった雨はどうなっているのか気になったからだ。


目に入ってきたのは、宮殿の最上部よりも少し上空当たりまで降りてきた雨粒は、ドーム型の何かに遮られて、そのドーム型をなぞるように宮殿と庭を避けて門の外へと流れ出す。それはまるで夜空を流れる彗星のようだった。


そんなことを考えているうちに、門番が2人の女性の召使を連れてきた。当たり前のように2人の背中からは羽が生えている。服装については、一般的に想像されるようなメイド服とは少し違っていて、至る所に相違点があり、緑色を基調としていた。


「遅くなり申し訳ありません」


大した時間も時間もかけていないのに謝るのは門番とサディアスの立場がゆえ。現実世界でいうなら社交辞令のようなものだ。


「この先はこのメード共が案内しますので。失礼致します」


そう言い、門番は持ち場へと戻る。サディアスを横切る彼の体には雫は無かった。


下卑達は同時にサディアスに向かってお辞儀をする。その光景を見てサディアスは自分も礼を返そうとするが、()()()()()()()()()を思い出し、何とか思い止まることに成功できた。


「御召し替えの方を御用意させています。ご案内致しますので、どうぞそのままお越しください」


サディアスは体を濡らしたまま宮殿に入ってよいのか疑問に思ったが、躊躇ってしまう。


何も言わないサディアスを見て無言の肯定だと思ったげし達は、宮殿へと足を向けて歩き出した。サディアスもその後を付いて行き、土足のままげしと共に宮殿の中に入った。


大きく広がった大広間、真ん中には途中から右左に分かれる大階段あり、本来なら異色であるはずの地面から出た草木や根達も当たり前のように鎮座する。


初めて見たら庭や宮殿の外見を見た時と同じように驚くだろうが、サディアスにやはり驚きはない。


理由は簡単だ。ここに来るのが初めてではないからだ。と言っても頻繁に来るわけではない。こんな幻想的な光景を見ても驚きはしないほどには来ているが。回数にしたら4,5回くらいだろうか。


「こちらへ」


メードはさっきの門番と違って、淡々と業務を熟す。


サディアスは特に言うこともないので、引き続き彼女たちの後ろに付いて行く。


宮殿には沢山の廊下や部屋がある。4,5回程度じゃ内部構造は覚えられないな、とサディアスは迷子だけにはならないようにしようと思っているうちにげしが一つの部屋の前で足を止めた。


「こちらの部屋でお召替えくださいますようお願い申し上げます。私どもは外におりますので、用がありましたら中の鈴を御鳴らし下さい」


サディアスは彼女らに一つ礼を言い、中に入る。すると勝手に扉が閉まる。げしが閉めてくれたからだ。


部屋の中は豪勢ながらも、寝泊りする上では必要ないものは最小限に抑えられている。サディアスはあまりに豪勢でTHE高級みたいな部屋はリラックス出来ないから、好きではない。そのためこの部屋には好感を持った。


サディアスはこのままベットに寝てしまいたいというのが本音だったが、そんなことは絶対出来ない。これから大切なことが始まるのだから。


(絶対堅苦しいよな…。何か変なことをしないように気をつけなきゃ…)


これからのことを考えて憂鬱になるサディアスだが、そんなことを思っていてもしょうがないと気持ちを変え、身に着けていた衣服を外し、テーブルの上に置かれていたタオルで自身の裸体を拭く。


Altera Vitaにおいて、衣服は現実と同じように着替えなければならない。ゲームだからと言って、一瞬の内に衣服を変えられないのだ。


このシステムについては賛否の両方が行き来している。賛成の代表的な声としては、リアルさがあっていい。良く言ってゲームっぽくない、という意見だろう。逆に反対の声としては、面倒くさいというのが一番だ。


サディアスからしたら、受け入れればいいのにとしか思っていない。


それは彼がこのAltera Vitaを、()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと深く思っているからなのか。それとも単に興味がないのか。


それが分かるのは本人だけだ。



サディアスは召し替として置かれた礼装を手に取る。そのまま礼装を30秒近く見つめていた。


閲覧数やブクマの増加は私のモチベになります

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