表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/19

第三話「黒装束の少女」

イギリスの言葉に(en:Curi(好奇心)osity kill(は猫を)ed the c(殺す)at)ということわざがある。猫は9つの命を持っていると比喩されるほど容易には死なないとされているのだが、そんな猫でさえ持ち前の好奇心によって死ぬことがある。


つまるところ『過剰な好奇心は身を滅ぼす』という意味なのだが、私は死ぬ事があるのだとしても、好奇心や探究心といった冒険心を無くしてはいけないと思う。今の私たち人間がこうなっているのは過剰な好奇心が作り上げたものだ。数々の人間が好奇心によって身を立場を昇華させ、その一方で名を地に落とした。その大地を今私たちは踏みつけているのだ。


結局何が言いたいのかと思うだろう。…まあこんな長々と冗長な表現を連ねてなんなのだが、知らないものを知らないと決めつけずに自ら知ろうとすることはとても大切だと言いたかった。私がこれと出会えたように、貴方にも何か人生を変えるものが身近にあるかもしれないということ。








ーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


PLACE:神秘国家ヒミストリー首都ミストフォリッシュ『キャディー』


ヒミストリーにおいて雨が降るというのはそう珍しいことでもないが、頻繁に降る訳でもない。この世界にも予報士という職業があり、予報士を職としている者がその場所の天候の予報をしたりできるのだが、2人は今日のヒミストリーの天気予報を知らなかった。というのも王国や帝国等の大国程になれば街中の各所に予報が毎日貼り出されりして、民はそれを見て今日一日の行動を考えるのだが、ヒミストリーを含めた多数の国々は、予報士の数自体がまず少なく、街中に予報を何らかの形で知らせるなどという行為をしていない。雨が降り出した時に通りに並んだ店が店を畳んだり、生き物たちが雨を凌ぐ場所を探し始めたのは、彼らも雨が降る予報を知らないからであった。





急に降り出した雨はヒミストリーを暗く包み込むようだった。それは暗くなり、さっきまで栄えていた大通りは活気を無くす。その影響はサディアス達がいるカフェ「キャディー」にも来ていた。


八咫は基本的には思い空気で話をすることが嫌いだ。というのも八咫自体が話す時に限らず、重い空気や暗い空気を好ましく思っていない。その為八咫は、この雨を遣らずの雨と思い込むことにして、自らを含めたこの空間の雰囲気を明るいモノへと変えようと思った。


「それで私を呼んだ理由は何なんすか?」


雨音が硝子越しに伝わってくる店の中の静寂を、八咫の透き通る声が被さった。八咫はとりあえず会話を発展させて、雰囲気を明るいものにさせようと思ったのだ。


今日八咫とサディアスが会ったのはサディアスが八咫対して会いたいと連絡が入ったからだ。会うための理由は八咫は教えられていない。


「まさか私を襲っちゃうんっすか!?」


そんなことを言い始めた八咫だが、顔は笑っており、声も茶化すように聞こえた。つまり悪ふざけである。


そんな八咫に対してサディアスは苦笑いをする。


「そんなふうに思われていたとは心外ですね。()()()()()

「情報屋みたいなことはしてますけど情報屋じゃないっすからね。本職は記者っすからね。というかこのこと何回言わせるんっすか!?」


情報屋。情報や噂話を収集することを好む者のことや、集めた情報を売り買いして生業とする者のことを指す言葉だが、今回の場合は後者だ。


Altera Vitaにおいて情報とは生命線の1つだ。モンスターの分布地。各国の情勢。職業の解放や進化条件など、到底1人では集めることのできない大切な情報たち。Altera Vitaを含めたVRMMOのゲームにとっては情報を扱う人間は必ず現れる。それは絶対に情報を求められるからだ。情報を得られなければ他のプレイヤーに遅れを取ったり、国の情勢に巻き込まれたりする。それを回避するために大抵のプレイヤーは情報を求めなければならない。そうなった時に活躍するのが対価と情報を交換する情報屋だ。


しかし、八咫は自分は記者だと言った。別にこれは八咫が嘘をついている訳では無い。サディアスもそのことは知っている。


この世界の職業は、必ずしもその職業についてないと行えない訳ではない。現実世界でサラリーマンが自宅で家庭菜園で野菜を育てるように、職業という概念が違うこの世界でも一緒なのだ。無論、情報屋を職としているなら情報に関しての様々な恩恵を受けられたり技術を取得出来るので、その職業の人より秀でることは簡単なことではない。


「例えそうだとしても、そんじょそこらの情報屋より情報を握ってるのは誰でしょうか?」

「初めて会った時に自分から言ってきたじゃないですか。()()()()()()()()()()()()()1()()()()()


これを聞いた八咫は顔を顰めながらテーブルの下で、靴でサディアスの脚をつつく。それに対して動じず笑顔を浮かべたままのサディアスを見て、溜息を一つつく。


「悪ふざけしたのは謝るからその事については弄るのは勘弁っす…」

「最初に言ってきたのはそっちなのに?」

「関係を持ちたい相手にこちらの素性を教えるのは当たり前っす。私自信が会社のことに不必要に触れられるのは嫌だって知ってるっすよね」


見るからに八咫が不機嫌になっていく。雰囲気を変えようと明るくしていた彼女がいとも簡単に不機嫌になるほど、八咫は会社に触れてほしくはなかった。あまり縛られたくない八咫からしたら、会社の存在は足枷になっていて、彼女の立場上、何かと他の会社に所属している者から言われているのだ。


「だったら会社をやめればいいんじゃないと思いますけど?」


至極当然な疑問だろう。記者という職業の特性上、会社の存在は大きなメリットになるだろうが、未熟な記者ならまだしも、八咫は上級上位のランクにいる記者である。会社に所属しなくても十分な活動は可能だろう。


サディアスは八咫とは短いわけではないが、長い関係というわけではない。そのため八咫の事情を深く知っているわけではないのだ。そんなサディアスからしたら、何故八咫が社長に就き続けるのかが不思議でたまらなかった。


「まあそう思いますよね…。ちゃんと理由はあるけど、敢えて言うなら途中で放棄したくないんっすよ」


申し訳ないと思っているのか、すまなそうな表情を顔を浮かべる。たとえ世間話をするくらいの間柄でも、言っていいことと言ってはまずいことはある。別に八咫とサディアスは仲間ではないのだ。今後もしかしたら敵になるかもしれない。


「…というか聞きたいことがあるんじゃなんすか?その為にわざわざ私を呼んだって聞いたんすけど」


それを聞いてサディアスはそのことを今の今まで忘れていたのか、取り繕うように表情や体を動かして弁解し始める。


「…いや、…ちゃんと覚えてましたよ?話題に出すタイミングが掴めなかっただけで…」


その様子を見て八咫は呆れる。しかし彼女の顔に浮かび上がったのは笑顔だ。


「なんかいつもピシッとしているサディアスさんが慌てる姿は卑怯っすね」


八咫は笑いを堪えることが出来なかった。整ったその顔が綺麗に崩れる。だがその笑いはサディアスを嘲り笑う様子は感じられない。


「兎も角!…各国の国家方針や情勢等を知りたいんです。基礎的な情報からあまり表にでないようなものまで」


逃げるように少し声をあげたサディアスだが、すぐに真面目なトーンに変わる。それを感じ取った八咫はすぐに顔から笑みを消して少し思考したのち、納得した様子を浮かべた。


「ああ…立場云々無しで考えたとしてもその領域は()()()()()()()の方が適任っすからね。ただその程度の情報なら私じゃなくてもいい気がする…あ、サディアスさんの場合は商談相手がいないんっすね!」


記者と情報屋は似ているが本質は違う。情報屋は基本的には情報の販売人だ。そしてその情報は仕入れるか自ら手に入れるかの2択だが、この広大なアンティグルスの情報を1人で集めようものなら浅い情報しか手に入らなくなる。広く浅くということだ。そのため多くの情報屋は情報を買ったり、他の情報屋と情報の交換をして情報を集める。そうすることで様々な情報が広く深く集まるのだ。つまるところ、情報屋とは()()()()()()()()()()だということだ。


記者は基本的にはジャーナリストと同義だ。自らの手で情報を集め、その情報を情報屋に売る者たち。それが彼らの本質だ。記者から直接情報を求めてる者に情報を売る者も勿論いるが、情報屋は情報の売買に特化しているため、彼らに情報を売ってしまった方が利益が出る。それは情報屋の顧客数の多さ。そして情報屋を職業としている者が特定の条件を満たすことで得られる固有の()()()()()()()「利益率増大:情報」の効果のせいだ。


スキル。通常、教養や訓練を通じて得る能力のことを指す言葉だが、Altera Vitaにおいては職業につき、その職業を極めて行くと得られる能力のことを指す。


スキルには『パッシブスキル』、『アクティブスキル』、そして『オリジナルスキル』という3つに分類される。簡単に言えばパッシブスキルは何もしなくても常時効果が適用されるスキル。アクティブスキルは任意で発動するスキル。オリジナルスキルは()()()()()()()1()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。オリジナルスキルにも任意発動常時発動を含め、様々なジャンルがある。


この「利益率増大」というスキルは情報屋に限らず、あらゆる分野での商品を売る者たちに共通して手に入るスキルだ。対象の商品を売る際に決める利益率の上限の上昇という効果なのだが、対象の商品というのは「利益増大」の後ろについているジャンルの商品のことを指す。情報屋は情報を売るので情報という訳だ。


「利益率増大」の上昇幅は「利益率増大」を使い続ければスキルレベルが上がり、レベルが上がるにつれて上昇値が増加する。といっても元々の上昇値は僅かなものだし、レベルが上がることによって大きく上昇値の値が変化するわけではない。だからこのスキルは初心者からしたらわざわざ会得する必要はないと思われてしまう。だがそれは売ってる物に変わるが違う。


情報屋に限らず多くの商品の売り手達は数え切れない数の商品を売ることになる。そんな中で同じ商品を同じ量売って、買われた数も同じだとして、片方の利益率が高かったら、高い方が手に入れる利益が大きくなるのは当たり前だ。とは言っても上限解放だけであって、その為価格設定自体を高くできるよって話なので、それによって売れるかどうかは別の話だ。ただその人だけが売れるものがあったとして、その商品をみんなが欲しがっていたとした時に、上限以上の価格設定が出来なかったら残念だろう。


話を戻そう。記者は「利益率増大」のスキルを持つことが出来ない。その為基本的には情報屋に情報を売った方が得られる利益は大きくなりやすい。


記者は情報を探す者。情報屋は情報を売り買いする者なのだ。


では何故サディアスはこうして記者である八咫に情報を求めてそれを八咫は記者の方が情報屋より適任だと言ったのか。


まず大前提として八咫の主に得ようとしている情報の分野は()()()()()()だ。サディアスと八咫はこれが初対面ではなく、過去にあった時に八咫が国家について主に調べている記者であることは聞いていたのだ。もし八咫が国家についてでは無く他の分野を主に調べていたのならサディアスは八咫にこうやって話を持ちかけていなかっただろう。


何故なら記者は得た情報を好きに売ることが出来るのだ。八咫の場合は国家についての情報だが、好きに売るというのはどういうことかというと、情報屋に流す情報を選ぶことが出来ること。つまるところ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がある。


国家機密など知っても地雷になるだけだ。下手な扱いをすれば国から何かしらの制裁が与えられるかもしれない。だから国家について重点的に仕事を置いている記者は少ない。


とここまで記者のことを言っていたが、先程八咫が言っていたようにサディアスには商談の相手がいないだけであった。


「対価はお金と浮国の情報。どっちがいい?」


サディアスには殆どのプレイヤーや現地人が知りえない浮遊国家の情報を知っている。浮遊国家は上空に存在し、他の国とは殆ど交流がない為、浮国の情報は曖昧なものか、噂が殆どなのだ。では何故サディアスが浮国の情報を握っているのか?


「勿論浮国の情報っすよ。()使()()()()


八咫はもう湯気が立っていない自らのコーヒーカップを持ち上げて、口を付けた。


ブクマや閲覧数の増加はモチベになります

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ