第十五話「旅立ち」
…『学園都市国家エルフェンテイン』は『八賢者』が作り上げた国ということです。以上が私が知った『学園都市国家エルフェンテイン』の基本情報です」
簡略に要点を纏められただろうか。彼女らの要望通りの内容だったか。間違った内容を言っていないか。考えれば考えるほど出てくる不安点。
個々の反応を見てみると、ディータは嬉しそうに、アルフィムは悪巧みしていそうな笑みを、リーランドは強面の顔のまま、ダースは皺くちゃの顔をより歪めて笑っていた。ディータは反応を見た感じ感触は良さそうだが、他の三人は表情からは良し悪しを判断できない。
「…あの…、どうでしたか…?」
何か言ってくれればいいのに、何故か誰も口を開かなかったので、サディアスは仕方なしに評価を乞う。
「流石私のサディだ!今日は赤飯を炊こう!」
意味深な発言をしているが、自分の弟子と言いたいだけだ。
「やっぱり貴方弟子に甘すぎですね、本音で言っているか分かりませんが」
「…弟子は甘えて成長するものなんですよ天使統括殿」
自分でも自覚しているのか、サディアス以外の弟子を持ったこともないのに熟練者のような持論を展開して誤魔化そうとする。
「…それにしても貴方赤飯を知っているのですか?」
「赤飯は父から教えてもらったんです」
急に話を変えてきたので不思議に思うディータだが、隠すことでもないので正直に伝える。
「…そうですか…彼が」
アルフィムは一瞬真面目な顔をして呟いたが、直ぐに顔を元通りにする。
現実で日本に住んでいるため、サディアスは勿論赤飯の存在は知っているし食べたこともある。そのため赤飯で態態アルフィムが反応を示したことを疑問に思った。言われてみれば浮国で赤飯の存在は見ても聞いてもいなかったが、他の日本食だって浮国で見ることはほぼない。
そしてディータの父親。見たことはないがサディアスは話を聞いている。ディータが時々自分が父親に教わったことなんだとサディアスに聞かせてくれたりするからだ。他にもディータの父はどんな人物だったかを、よくディータに聞いてみたりしたことがある。ディータは包み隠さず語ってくれた。
あの日の彼女はサディアスの脳裏に焼き付けられている。普段はオーニソガラムのようで明るい彼女が、三つの星が輝く夜の下で寂しげに語ってくれたのだ。父親は自分と同じ元天使長で、もうこの世にはいないのだと。
「甘いとか仰られましたけど、お三方の評価はどうなんですか?」
言い方に少し嫌みがあるようにサディアスは感じられたが、言われた本人たちは気にしていないようだ。
ディータが自分に甘いことは知っていたので元からあまり参考には出来ないと思っていたため、他の者に意見を聞けるのはサディアスからしたら有難い事でもあった。
「んー。三十点」
「…六十だ」
「ふぇっふぇっふぇっ…儂は学都のことをよく知らんから評価なぞ出来んわ…ふぇ」
ワザとらしく悩んだ挙句、容赦なく一刀両断するアルフィム。意外と優しめのリーランド。論外のダース。
自分でも上手くできてはいないのだろうと自覚していたため落胆はしない。重要なのは点数ではなくて何処が良かったのか悪かったのかだとサディアスは理解していたからだ。
「あの…その点数を付けた理由を教えてほしいです」
「んー別に簡単なことですよ?重要な部分を言えていないとか、全体的のまとまりとかを総評だけなので」
(それは分かっているんです…)
もっと細かく言って欲しいサディアス。これでは具体的に直す部分が理解できない。生き物は最初から完璧なものなどいない。繰り返しをしていく中で自分を磨いてくのが普通なのだ。
アルフィムは期待外れだった。ディータは甘々なので内容の期待が出来ない。残っているのは二人だが、ダースは学都を知らないため論外。そうなると『リーランド』、彼だよりだ。
ただ喋るタイミングが計り知れないため、サディアスは言葉ではなく目で訴えることにした。サディアスの透き通った綺麗な目が強面を貫いているのはとてもシュールなことになったが、功を奏することになる。
「…首都の名前、『サードトス』説明の際の順番の不適切さ。言葉の使いまわしがまだ未熟」
男らしい低い声はこの場の誰よりもサディアスの頭に浸透してきた。
「言葉のつっかえ。時々声が小さくなったり大きくなったり不自然」
悪い点の列挙が止まらない。自分の駄目な点は沢山あるのだろうと理解はしていたサディアスだが、いざ言われると落ち込み顔を伏せる。
「他にも細かい所はあるが…いい所もあった」
思わず顔を上げるサディアス。一瞬自分の耳が聞き間違えたのかと疑ったが、自分が自分に間違っていないのだと教えてくれる。六十点という点数はあくまでも妥協された上での点数だとサディアスは思っていたため、褒められる点があるのかすら疑っていたのだ。
心の奥底では自分にもいい所があるのだろうと期待はしていた。だが列挙されていく悪い点に飲まれてしまったのだ。
「基本事項と聞いていたが、表に出ない内容があった。そしてお前が情報に疑いを持てていた」
褒めることなのかと思いそうだが、サディアスには驚きが走る。
サディアスは八咫に教えてもらったことをそのまま転用したので、教えてもらった内容は少なからず表にでている内容なのだと思っていたのだ。どれが裏の内容だったのかは分からないが、これが示すのは八咫がサディアスに内緒で教えてくれていたということ。
後者の情報の疑いとはどういうことなのかサディアスは分からなかったが、褒めているはずなので嬉しかった。
「あ、ありがとうございます!」
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「忘れ物はないか?」
予定通りに進んだ翌日、自ら天使がと飛び立つ日だ。
「大丈夫ですよディータさん。心配し過ぎです」
大切な部下が何処かもわからないような地に向かうのはやっぱり不安であった。自分で言っていてなんだが、ディータはあの時選択をさせてあげたことが正解だったのかと思っている。例え本人の意思を踏みにじることになったとしても、そのせいでサディアスに大変なことが起きたらと思うと夜すら眠れない。
ただ本来なら心配が必要な点のうち、心配しなくていいことがあるのはディータはとても嬉しかった。それはプレイヤーは死んでも蘇ることだ。勿論生き返るとしても死ぬことは一度でも起きてほしくないが、蘇ってくれるという事実があることでディータは心配をかなり軽減できている。
この世界の生き物とは違うのだ。そう自分と彼は。
「どうしました?」
自分の顔を心配そうに覗いてくる彼の顔を見て、邪念を振り払う。そして彼をしっかりと見直す。
サディアスは『ミセド』の後からはずっと軽装だけを身に纏っていたが、今のサディアスは服装の上に防具を付けている。更に背中には布に覆われた細長いものを携えている。
「いや…なんでもない。自分の身は自分で守らなければならないからな」
「分かっていますよ。決して慢心せずに行動します。まあ、こいつを使わないことが一番ですがね」
そう言って背中に背負った袋を叩くサディアス。
「そうだな…。だが浮国と違って他国は違う。差別、貧困、格差、我々とは考え方が違う」
そうだ。浮国や秘国だけしか見てきていないからこの世界は平和だと錯覚してしまうかもしれないが、ディータが言ったことを含めた問題点を有している国が殆どだ。
「連絡をしてくれよ。あと私も絶対追いかけてやるからな!」
今にも泣きそうになっているディータ。自分のみっともない姿を見られたくないので、無理やりテンションを上げる。
「…はい。あ、そうだ。伝言だけお願いします。住民のみんなと話す時間が取れなかったので、すいませんでしたと一言」
「ああ分かった」
本当に急な話だ。『ミセド』の終わりと『学都祭』がもう少し離れていればもっとゆっくり出来たろうに。
そして和蘭からの手紙に書かれていた学都で起こっている事件。サディアスもディータ達がこのことを知っているのだろうとは仮定しているが、自分があの時話さなかったことから、実をいうとこんな事件も起きているらしいのですなんて言えなかった。
「…サディこれを」
ディータは包装した何かを渡してくる。
「これは…バッチ?」
「ああ。『ミセド』が終了して正式に天使長と認められた証拠だ」
手にしたバッチを優しく握りしめ、サディアスは自分が天使長という浮国の重要な者であることを再認識する。
そしてディータに「ありがとうございます」と一言。
「…さあ行ってこい。天使悪魔鳥人は飛ばなければならない」
そう言って両手でサディアスの頬を触るディータ。
「いってらっしゃいサディ」
至る所にありふれた言葉。ならば返す側もそうでなければ。
「はい、行ってきますディータさん」
あ「おやっハロー!」
い「こんにちは」
う「…おは」
あ「やぁぁぁぁぁっと」
い「本格的に」
う「話が進められる」
あ「一章に入るまで長かったし、学都にまだ着いていないけど、次話からは遂に学都ですから!」
う「どうなるか楽しみ」
い「第一話の最初のシーンもちゃんとそのうち出てきますよ」
う「あんな状況にサディアスさんが陥っているってことは、何かしらトラブルに巻き込まれるってことだよね」
あ「ちょっとうーちゃん!?」
い「別に驚くことでもないでしょう。物語なのに特別な展開無しってのはこのタイプの作品じゃ駄目ですから」
う「魔法使いなんてろくでもない奴らばっかだからしょうがない」
あ「魔法使いのイメージダウン!?」
う「別にそういう訳ではないけど、比・較・的・多そうってイメージ」
い「さて何処と比較しているのでしょうか?」
あ「ほんとだよ…。比較している場所によって数が大きく変動するよね…」
う「まあ気にしない気にしない」
う「それよりも学都についての話題」
あ「逃げているだけの気がするけど…まあ話長くなるだけだからそうしようか」
い「本編で乗せるか分からない学都についての情報についてです」
あ「あくまでも分からないだから普通に今後同じことが本編に出てくるかもしれません!」
う「許せ」
い「ではまず、学都には兵隊や軍隊が存在していません」
あ「正確に言うと別にいらんってことだね」
う「『サードトス』に勤められている先生の存在とか、あとは生徒会を筆頭に生徒がモンスターの駆除したり、治安維持したりしているから」
あ「ということは生徒の皆さんろくでもないことないんじゃないのうーちゃん!」
う「色んな種族、考え方がいるのに皆いい子とかあり得ないでしょ。ちゃんと倫理がある生徒もいれば、荒れている生徒もいる」
い「学都は『サードトス』のために作られたため、生徒以外の一般住民とかを差別したりする生徒がいたりしています。あとは観光客にも絡んできたりするかもしれないので、観光を考えている人は気をつけてください」
あ「あー…。やっぱり色んな人がいるんだね」
う「多種族国家である以上仕方ないこと」
あ「なんか…大変そうだね」
い「国のトップである『八賢者』は自分以外はどうでもいいと思っていたりするので、国の治安や政治は適当だったりしています」
う「明確に決められていることは少ないからね」
あ「『八賢者』の人たちって自分のことしか興味ないの?ならなんで自分以外と関わることになる『サードトス』の運営なんかしt…」
い「あーちゃんは急用です」
う(…闇を見た)
い「それではこんなところで今回は終わらせていただきます。悪い一日を」
う「ばいばい」




