06
女王が現われた。
民の歓声が沸き起こる。
胸まである波打つ銀髪に、涙型の深い藍の宝石が印象深いティアラを身につけた美しい君主。
この帝国を己の采配と神の導きに従い創り上げる女王。
その女王は五人の予言を放つ巫女から後々たった一人が選ばれる。
一番神からの神託を預る力が強く、冷静に己を見つめられる者だ。
浮ついた考え方をしていてはすぐに慢心し能力が落ちてしまう。
人々からの羨望の眼差しを一心に受け、自分の予言が人の心をどう動かすかという影響力を目の当たりにしても尚、己を冷静に保てる者。
人々は盲目的に力の強いものに対しては従う傾向にある。
それが正しい者なのか悪い者なのか、それは時間がたつごとに
立場や役割を入れ替え変わってゆく。
ただ自分の欲望をその者がどれだけ叶えてくれるか、利用していけるかのみで判断してゆくようだ。
これは人間として生れながらに組み込まれた本能なのだろうか。
この帝国においてトップに君臨し、人々の心の移り変わりを権謀術数の
中をかいくぐり、神託を得る能力を維持しつづける女王。
その冷静な瞳を見るとサーシャは背中がぞくりとする時もある。
まるで全ての感情を丸裸にされて、心の奥深くまで秘密をさらけ出している
のではないかと恐怖する時もある。
と、同時に自分も将来このポジションに祭り上げられる可能性がすくなからずある事が憂鬱にさせる。
今目の前にあらわれた女王を見ると感じる事がある。
重圧、責任、能力がいつまで続くのかという不安の中を生きなければならない、それはきっと深淵なる孤独の世界。
果てしなく続く水平線のようなもの、時にはその海のかなたにぼんやりと映り込むどこかの現実であり幻でもある蜃気楼、そんな印象が離れない。
祭りのクライマックスだ。
今か今かと皆が女王の神託を待っている。
女王は民が興奮して熱狂的な歓声を上げているのをじっと見つめている。
ふいに手を上げる、言葉を発する合図だ。
たちまち民衆は静まり返る。
「今日ここに集う私の可愛い子供たち。
大いに楽しみなさい。
そして明日の糧を得られるように、皆を豊かに
生かし合う為の新たな鉱物を探す旅への閃きをつたえよう」
そう女王が話すと、歓声が高く上がり民が色めき立っている。
「大神より私達に与えられた予言である。
その鉱物は複数あり細かく細分化し、さらに色んな液体に浸さねばならぬ」
しばらく間を保ち、そして放つ予言
「まずは、粘土層にまじっている非常に高価に見える宝石のように
輝くカケラ、磨ければ水晶の様に澄んで光る。
沸点は3200度で溶ける。
砕けば粉々になる。が、これは研磨剤の様に思うがそうではない。とても精密なものを傷つけるゆえきをつけよ」
そしてまた一息おくと
「科学的に応用するには硬すぎよう、けれど、これを柔らかくするため浸す
薬剤がある、加工する時はこれにくぐらせる必要がある」
「3500度、これに耐えられる温度の限界である」
「土が舞い上がるサファリのある国から多く見つかるだろう。
商人ギルド、科学者の多くがこれの研究にあたるだろう。
明日より、この鉱物を探す旅へ出るもの、幸運を祈ろう」
そう言い残すと、女王は城のバルコニーから去った。