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 7人で話し合って、狼だと思う人物に投票する。

 結果は多数決で決まる。同票がいたらその中でもう一回多数決。

 見事狼を選ぶことが出来たら、狼は死んで他の人はここから出られる。

 もし狼ではない人が投票で選ばれたら、その人はここから出られる。残った本物の狼と、間違えた人たちは死ぬ。

 それが最後の課題のルール。


 狼はこのデスゲームの犯人側のはずなんだけど、このルールだと狼はどう足掻いても死ぬ。

 こっちに潜り込むスパイではなくて、トカゲの尻尾的な存在なの?

 いや、この課題が出されるということは、やっぱりこの中に狼が潜んでいるという証拠でもあるのか。

 分からない。

 みんな、どうする気なんだろう。

 普通、自分は狼ではないことを主張するはず。でも、もし自分だけでも助かろうという考えの人がいたら、自分が狼だと偽るだろう。

 狼じゃないのに狼に選ばれれば、他の人は死ぬ。だからここから出ても、裏切り行為がばれる心配はない。とりあえず王子たちの様子を見てから、かな。

 こう考えている時点で私は卑怯なんだろう。

 でも私は、死にたくない。

 学校を卒業して、モブではない人生を歩みたい。


『それでは、開始してください』


 証言台に1人ずつ立ち、投票箱を囲んだ状態でお互いの出方を窺っている。

 いつの間にか投票箱の横に同じくらいのサイズの砂時計が置かれている。砂が下に流れるまでどのくらいかかるのかは分からないが、あれがリミットなんだろう。


「俺、いいですか」


 モブキングが手を上げた。誰も場を仕切る人がいないため、眼鏡が「どうぞ」と促す。

 最初に発言するなんて、ここでモブキングの見せ場が! フラグが立たないことを祈る!


「校長室で封筒を開けた時、殿下とティール様、ネイビー様は黒い光が出ました。でもマジェンタ嬢だけ白い光でした。不思議ではないですか?」


 マジェンタとはヒロインのファミリーネームです。満を持して公開です。

 ここでヒロインを疑うなんて、死亡フラグなのでは。大丈夫か。


「そんなの知らない! 私からすれば、封筒のないあなたたちだって不思議なんだけど!」


 確かに。でもないものはないんだから、どうしようもないのよ。トラウマないから。

 そこで毒モブがあの光がなんだったのか、眼鏡たちに尋ねた。

 むこうからしたらトラウマ抉られタイムだったわけだから、思い出したくないだろうな。


「あれは、心の闇を見せる魔法だったんだと思います」


 眼鏡の言葉に王子とコミュ障が小さく頷く。触られたくないから、深く話すことはなかった。

 しかしモブキングは攻撃をやめない。


「ではマジェンタ嬢は、なんだったんですか? あの後殿下たちに声をかけてたら、元に戻りました」

「それは私も分からない。声が聞こえて、ああやって声をかけるよう言われたの!」


 それだけじゃない気がする。あの時ヒロインは「私、分かったわ」と言った。

 声をかけるように言われたなら、なんか違う。指示を了承したというか、何かを理解したような返事だった。

 追求して言うか分からないけど。


「それで言ったら、あの子の方が不思議じゃない? 人が死んでるのに、涙一つ流さない! そんな冷酷な人、そうそういない! 貴方だって言ってたでしょ? 取り乱さずに冷静だって。毒を入れたって疑ってたじゃない」


 流れがこっちに来た。

 確かに私は冷静だった、と思う。でもそれって性格の話だよね。あと言いたくないから言わないけど、ライラックが死んだ時に泣いてます。


「私が取り乱していなかったのは、泣いても仕方ないと思ったからです。ここから出るためには、行動するしかないと思った。それって不思議なことですか?」

「ふ、普通の人間は取り乱すと思うよ。マダー様やマルーン様も泣いてたし」

「ライラック様も泣いたりしていませんでした」

「一旦落ち着きましょう」


 眼鏡が私とヒロインの戦いを止める。

 どちらかを狼と決めるにはまだ早い。

 それから毒モブが私を疑った話になった。どんな理由があって疑ったのかと。

 彼も私が冷静であることが気になったらしい。しかし、あの時は自分が冷静ではなかった、とも言った。私の言い分にも納得したから、あの後何も言わなかったそうだ。

 毒モブが校長室の金庫を勝手に開けて怪しい。眼鏡が探偵しすぎて怪しい。モブキングのことを誰も見てなかったから怪しい。王子は何しても咎められないから怪しい。コミュ障が静か過ぎて怪しい。

 一通り全員怪しんでみたが、何の結論も出なかった。


「アザレアたちがアレルギーを持っていたと知っていた人はいるか」


 王子が言った。

 脳筋のことは眼鏡、モブのことは毒モブが知っていた。

 毒モブは聞き覚えがある程度だったし、何のアレルギーかは知らないと主張した。

 眼鏡は脳筋だけではなく、王子やヤンデレ、コミュ障のアレルギーがないかを把握しているらしい。城に出入りする人物だから念の為、だそう。


「マジェンタ嬢、君もアザレアがアレルギー持ちだったことを知っているな。それも、メロンが食べられないと聞いたことがあるはずだ」

「えっ……」

「以前、アザレアが貴方にお弁当を作ってもらったと言っていました。その時に食べられない物がある、と話していましたね」

「それは……っ」


 そういえば脳筋と仲良くなると、ヒロインが脳筋のためにお弁当を作るイベントがあったんだっけ。ゲームではなんの情報もなかったけれど、実際脳筋はアレルギーだったわけだから、事前に伝えておいたのか。

 というかヒロインは脳筋ルートだったのか。そんなベタベタしてたっけ。記憶にないな。

 いやそんなことよりも。


「何故隠していた?」


 隠す必要はなかったはず。

 食堂でも、ついさっきでも言うタイミングはあった。でも彼女は濁した。

 疚しいことがあるかのよう。


「ちょっと間が悪かっただけなの! 隠すつもりなんてなかったよ!」


 こいつ怪しい、という空気が広がる。

 ヒロインもそれを感じ取って、私になすりつけようとしてくる。やめて。


「私よりこの子の方が変に冷静で怪しいよ! だって、マルーン様が死んだ時も、顔色一つ変えなかったじゃない!!」

「……マルーン様?」


 私は取り巻き令嬢②と仲良しではなかった。そんなに心を痛める――ちゃんと痛めたけど、そんなにピックアップする程ではない。

 それにどっちかと言うと、ライラックが死んだ時の方が衝撃だった。動揺も態度に出てた。


「目の前でマルーン様を庇ったライラック様が死んだのに、マルーン様が死んだ時、ライラック様に申し訳ないとか思わなかったの?!」


 …………。


「どうして知ってるんですか」

「え?」


 ライラックが取り巻き令嬢②を庇ったところを見ていたのは、この中では私だけだ。ヒロインは会議室にいたはず。本人もそう言っていた。

 なのに何故それを知っている?

 状況的に見て、王子やコミュ障たちは気づいたかもしれない。

 それでも私は誰にもそれを言っていない。コミュ障または眼鏡が、図書室か中庭の地下で言った可能性もあった。

 けれど、今の質問にヒロインは返事を言い淀み、眼鏡とコミュ障は黙っている。誰も彼女に言ってないことが窺えた。


「私は誰にも、ライラック様が亡くなる直前の状況を話していません。なのに、何故会議室にいたはずの貴方が、それを知っているんですか」

「そ、れは……っ」

「……魔道具を使って覗いていたのか」


 ぽつりとコミュ障が言った。

 魔道具について私は詳しくないけど、魔道具と括られているくらいだ。様々な種類があるんだろう。その中に覗きに適した魔道具があってもおかしくない。


「違う! 封筒なの! 封筒が光った時に、色んな出来事を教えてくれて、それで知ったの!」

「あれは殿下たちに声をかける指示じゃなかったのか?」

「その前に、映像みたいなのが流れたの!」

「なんか、マジェンタ嬢の情報っていっつも遅出しだな」


 モブキングと毒モブからも援護射撃が飛んでくる。どれも否定できないから、彼女も言い返しにくそうだ。

 流れ的にヒロインが狼になってるんだけど、本当に大丈夫だろうか。演技と言うことはないだろうか。

 ライラックたちのことを知っているのはおかしい、それは事実。

 でも、今は亡きモブたちが実はその場面を見ていて、ヒロインに告げ口したとかないだろうか。それだと封筒の映像発言はおかしいからいいのかな。

 もう本当によく分からない。


「違う! 本当に私は狼じゃないの!! 信じてよ!」


 泣きながら訴えるヒロインの様子に、モブ2人が怯む。私もちょっと怯んでる。

 完全な証拠もないのに、彼女を狼と言っているからだ。

 証拠と言う証拠がない。別にヒロインを狼にしたいわけじゃないけど、何でもいいから何か他に狼に繋がるような事実はなかったかな。


 ……不敬になるから言えないけど、正直王子もちょっと怪しい。

 地下で他国が関わっているのでは、と話したが、うちの国にも魔術師団があるわけだ。国営の魔術師団を自由に動かすことが出来るのは、国王または王位継承権を持つ王族だけ。

 いくら天才と名高き弟がいるとは言え、正規ルートでは次期国王になる彼にはその権利が十分あるはず。

 こっちも証拠はないから、あくまで可能性の話だけど。


「マジェンタ嬢。君の家は、とある国との関わりがあったな」


 王子が言う「とある国」がどの国を指しているのか分からない。でも眼鏡は思案顔だ。何か思い当たる国があるんだろうか。

 外国の文化について、なんて興味なかったからなぁ。仮に授業で学んでいたとしても、全然覚えていない。

 モブキングも何かを考えている。毒モブは呆けている。多分こっちは私の仲間だ。


 ヒロインは肩を震わせて泣いていた。両手で頭を覆い、髪はくしゃくしゃだ。

 真っ赤な顔と瞳からは絶えず涙が落ちていて、「違う、違う」と小さな声で否定している。

 そんな彼女に眼鏡は「泣く必要はないですよ」と投げかけた。

 絶望の渕に立っていたヒロインは、救世主に縋るように眼鏡を見つめる。

 でもそれは、彼女に伸ばされた救いの手なんかじゃなかった。


「狼じゃないのなら、選ばれても生きて帰れるんです。泣く理由なんてありません。尤も、狼はどう転んでも死ぬみたいですけどね」


 サラ、と時計の砂が下に落ちきった。

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