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08

 中庭には、2つの石版が置いてあった。

 石版は正方形で、1辺1メートル以上はある。厚さは5センチくらいかな。ただ地面に横たわっているだけなので、他に調べることもない。


「この石版、結構新しいみたい」


 ヒロインが自主的に口を開いた。珍しい。

 ――――ゴゴゴゴゴゴ

 石が擦れるような音がする。それに地震のような揺れも感じる。

 今度は一体なんだと言うのか。


「危ない!」


 背中に衝撃を与えられ、危うく「ぐえっ」と声が漏れるところだった。

 何だ何だと前を見ると、眼鏡たちが居た方向に大きな石の板があった。……さっきまではなかった。

 目の前だけでなく左右にも板が地中から現れ、視界を灰色で埋めた。

 何だこれ。


「平気か」


 耳元で王子の声。

 びっくりしすぎて油の切れた機械のようにギギギ、と首を回すと、王子の顔があった。そりゃそうだ。

 自分の現状を確認すると、王子に押し倒されている。

 ああ、背中の衝撃は床ドンのドンでしたか。

 いや大丈夫。これは乙女ゲーム的なアレではない。多分石の板が地面からせり上がってきて、私が危険な位置にいたから王子が助けてくれたんだろう。

 ここで「きゃあ~王子が私を押し倒すなんてっ」なんてハートマークを振り撒いてはいけない。そんなことしたらもう二度と助けてもらえない気がする。


「……アリガトウゴザイマシタ、デンカ」


 王子に手を借りながら立ち上がると、四方はやはり石の板が立ち並び周囲を埋めていた。完全に閉じ込められた形である。

 そして私たちの目の前には、石の階段が出現していた。階段の後方には石版がある。石版がスライドして、下り階段が出てきたようだ。

 多分、王子と私、眼鏡とヒロインとコミュ障とモブ2人で分けられた。眼鏡たちの前にあった石版も、こうなっているんだろうか。だとしたら、中で合流できる可能性はある。

 それにもう階段以外進む道がない。

 王子は少し渋った後、一緒に階段で降りる許可をくれた。許可制だったんだ。知らなかった。

 迷路でのクイズの件で不安がっているんだろうな。でも1人で地上に残すのも怖い、的な?


 階段の中は暗く、何も見えない。王子の姿はおろか、自分の手すら見えない。

 手触りで壁が土であることは分かる。歩くとコツコツ鳴るので、足元は整備されているみたい。でも本当に真っ暗なので、進むのはとても怖い。

 どうするのかと王子を見ると、彼はどこからか仄かな灯りを取り出した。彼の顔が薄っすらオレンジ色に照らされる。

 掌にはビー玉のような物があり、それが炎のような暖かな光を放っていた。


「これは……?」

「もしもの時に、とスカーレットに渡された魔道具だ。ここで魔法は使えないらしいが、これは使えるようで助かった」


 あのヤンデレの仕事だった。素晴らしい。彼とは一言も話さずに永遠の別れとなってしまったけど、お礼を言おう。

 王子曰く眼鏡やコミュ障も受け取っていたらしい。この調子だとヒロインも持っているかもしれない。役立たずなモブのみで分離されなくて良かった。

 王子はゆっくりと足を進めてくれている。ついでにいつの間にか手首を握られている。うーん、正直ここで乙女ゲーム要素はいらないのが本音だけど、この暗さは流石に心細いのでホッとしているのも確か。

 ビー玉の灯りも、本当に微かな光ではあるけれど、私たちの支えであることは違いない。

 地中は1本道だった。1本道だけど、直線ではない。直角に曲がった角が続いたり、しばらく直線だったりする。

 暗さと時間経過が分からないことが、どんどん不安を駆り立てていく。それでも王子が何の迷いもなく前に進んでくれているおかげで、私の心は持っている、気がする。


「君はこの不可解な現状において、何か気付いたことはあるか」


 唐突な王子の話題振り。

 今まで話す機会がなかったし、丁度いいのかもしれない。


「ライラック様が言っていたことなのですが」


 私は、彼女が集められたメンバーにはなんらかの意図があると考えていたことを話した。

 それを踏まえて王子に心当たりがないか聞いてみるが、王子は考え込んでしまった。

 なので私の意見も述べてみる。


「私は、どこかの国の組織の犯行ではないかと思っています。ここに仕掛けられた罠や魔法はとても大掛かりです。数人でも実行するのは難しいはずです」

「――なるほど。魔法を使える人間の集まり、か」


 最初はゲームのメインキャラばっかりだったから、私の知らないイベントかと思った。だけど、攻略対象死んだし、悪役令嬢も死んだし、そもそもこれ乙女ゲームだし。絶対イベントじゃない。こんな危険な乙女ゲームあってたまるか。

 だからその組織に関わってる人が、私たちの中にいるのかもしれない。


「王族を巻き込むくらいだ。他国が関わっている可能性もあるな」


 確かに。一般市民ならともかく、ここに王子がいる。あ、喧嘩を売られている……?

 王子(王位継承権を持つ王族)と眼鏡(現宰相の息子)、脳筋(騎士団副団長の息子)、ヤンデレ(魔術師団員の息子)、コミュ障(公爵家子息)を殺すメリットはあるのかもしれない。ライラックも上流階級の貴族だから分かる。

 でも、他のメンバーは何だろう。名前もないモブだ。貧乏男爵家から平凡な伯爵家、豊かな侯爵家までいたはず。

 それを殺すメリットなんて、こんなに大勢の人間を殺せますよアピールくらいだろうか。でもまだ全員学生だし、今後育つ人材の抑制とか?


「いずれにせよ、ティールたちと話し合う必要があるな」

「そうですね。ここで結論は出せません」

「……君は変わっているな」

「え?」

「図書室での活躍、見事だった」


 王子の話題は毎回唐突。とってもマイペース。私は置き去り。


「は、ありがとうございます……?」

「美術室までに1階へ続く階段があった。そこから逃げようとは思わなかったか」


 よく分からないけど、少女マンガ世界における「お前変わってるな」はフラグなのでやめていただきたい。

 お前変わってるなから、あいつは他のやつとは違う、今までに会ったのことないタイプだ、あいつから目が離せない、に変化する恐れがある。

 そういうの要らないから。


「炭だと閃いた時点で美術室の事しか考えていませんでした。もし階段に気づいていたら……どうなっていたか分かりませんね」

「……今後は、絶対に1人で行動することのないように」

「はい」

「それから無謀な行動をする時がある。鎧に立ち向かったのは勇敢だが、あまりにも危険な状態だった」

「すみません」


 恋愛フラグじゃなくて説教フラグだった。

 また説教されるの私。精神的年齢だったら、私の方が上なんだけどなぁ。


「君は大人しく慎ましやかな性格だと思っていた」


 モブだから学校内では猫被ってたんです。


「実際は大人しいどころか突然走り出すし、泣き喚いたり大きく取り乱すこともない」

「はあ」

「勇敢で聡明で、素晴らしい女性だと思う」

「ありがとうございます」

「だからと言って、危険な行動が許されるわけじゃない。くれぐれも1人で行動することのないように」


 結局そこに繋がるんかーい。




 足の疲労に気付かないフリをしながら歩き続ければ、ようやく一筋の光が見えた。

 天井から差し込むその光に思わず駆け出しそうになるが、王子に手を掴まれていることを思い出して自重した。走ったら多分また怒られる。

 光の下まで行くと、そこは上り階段だった。篭った空気からの開放感が心地いい。しかし王子は、慎重に歩を進める。

 階段を上がった先、何が待っているか分からない。そういうことなんだろう。


 上は校庭だった。地中を通って、中庭から校庭に来たらしい。

 でも校庭には、普段はない物が置かれている。

 まず階段が2つ。地面から出てこれるようになっているので、私たちが出てきた階段と、眼鏡たちが出てくるであろう階段。

 それから7つの台がある。その台はまるで証言台のようなデザインだ。証言台は円を描いて並んでいる。

 その中心には銀色の箱が置いてある。どうみても投票箱にしか見えない。

 嫌な予感しかしない。


 沈黙を破ったのは、眼鏡たちの登場だった。

 彼らは予想通り階段から上がってきた。眼鏡の後ろにはヒロイン、毒モブ、モブキング、コミュ障と続いている。全員無事だった。

 眼鏡は王子が無事であったことに安心しているようだった。ヒロインも泣きそうな顔で再開を喜んでいる。

 けれど、一安心――とは言い難い。

 これから、始まるんだろうな。


『さあ、これが最後の課題です。最後の課題は――』


 そう考えたと同時に、あの声がまたみんなを支配した。


『狼を殺せ』

死亡:0 残り:7

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