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07

 迷路は出口がなかったので、入り口に戻って待機組と合流し、次の相談をする。

 心なしかヒロインが私を見てる嫌だ。


 必死にヒロインを視界に入れないようにしていると、1階の校長室に向かう前の話し合いが始まった。

 これまで指示のあった場所にしかほとんど行っていない。そこに何か隠されているか調べた方がいいのか。余計な動きをしてトラップで死ぬ可能性をあげるのではないか。

 という内容だ。

 確かに私たちがこの建物で行った場所は、屋上、4階の視聴覚室と科学室(これは各自指示の場所が違ったけど)、3階の食堂と会議室、2階の図書室と私と王子のみ美術室。

 2階の図書室から美術室までの間は特に罠はなかった。

 3階の会議室から食堂までの間にはなくて、食堂から階段の間にはあった。私たちは課題をクリアしてから、取り巻き令嬢②が潰された廊下や取り巻き令嬢①がはりつけられた階段は通っていない。4階から降りてくるのに使った階段を使った。図書室に近いからだ。

 ――と、考えると、行く必要のない場所には罠がある?

 いや、罠には回避方法があって、何かを隠している?


「トラップを解除する方法もない以上、無闇に動くのは得策ではない気がするな」


 悩んだ結果、王子のその一言で決まった。

 私は賛成です。

 そのまま鍵の話へと移行する。

 どうやら今手元にあるのは、私の持つ科学室の鍵、コミュ障の持つ男子トイレの鍵、モブが持っていた音楽室の鍵、図書室の奥にあった鍵の4つ。

 これらの鍵は、全て同じ形をしている。同じ場所を開けるのに、3つもスペアはいらないよね。じゃあ、これは何の鍵なのか。


「『校長室の秘密』で使うのかなぁ?」


 ヒロインが言った。

 秘密を探るには鍵がいる。納得の発想である。

 秘密を暴くには7つの鍵を集めてドラゴンを……みたいなことはないと思うが、普通に鍵のかかった部屋、引き出し、金庫。開けられそうなものは多い。


「引き続き、武器は持っていくのか?」

「ああ。念の為、だ」


 珍しいコミュ障の発言に王子は是と答えた。

 そういえば彼は、迷路の出入り口で待機している間から椅子を持っていたようだ。あの鎧と丸腰で遭遇するのはもう避けたいのね。

 王子と眼鏡も、図書室にあった清掃用鉄製トングを持ってきている。モブ2人(これからは私に毒疑惑かけてきたモブを毒モブ、全く目立った行動のないモブオブモブをモブキングと呼ぼう)はコミュ障同様に、待機中から武器を手にしていたらしい。毒モブは鉄製のチリトリを、モブキングは椅子を持っていた。

 丸腰は私とヒロイン。

 私たちはそっと目線を交わし、それぞれそっとモップを手にする。初めてのアイコンタクトにて意思の疎通が出来た。


 装備を確認し終わったので、いざ、と校長室に向かった。

 校長室に入ったことがないので通常時の校長室の内装が分からないが、とりあえずこの校長室が異常なのは分かった。

 校長用のテーブルは刃物傷でズタズタ。しかもその真ん中に、大きめの黒い金庫が置いてある。あからさま。

 歴代校長の肖像画を飾るであろう立派な額の中には、4階で見たような鎧姿の誰かの絵が飾られている。しかも6枚。……なんか、出てきそうで怖い。

 それは毒モブも同じ考えだったようで「動かないだろうなコイツら」とささめいた。


 分かりやすい『秘密』であろう金庫以外に何かないか探してみるが、引き出しは空だった。引き出しの奥にも裏にも上にも何もない。

 壁に何か隠し通路がないか王子が確認しているが何もない。

 眼鏡が床を確認しているが何もない。

 ヒロインが天井を眺めるが怪しいものはない。

 コミュ障とモブキングは扉の中と外をそれぞれ警戒している。


「あっ」


 毒モブが、場にそぐわない間抜けな声を出した。

 一斉に金庫を見ていた毒モブに視線が集まり、驚いた。


「開いちゃった……」


 金庫が、毒モブの手によって開けられていた。探索前、開ける時は慎重にという眼鏡の言葉はなかったことにされてしまっている。

 しかし彼の言い分では「鍵がかかっているか確認しようとしたら、予想に反して鍵かかってなくて開いた」だそう。

 私も同じことをやりそうで深く突っ込めない。

 金庫の中には、鍵が1つとメモが1枚、封筒が4枚。

 鍵は今まで手に入れたものと同じ形だ。これで合計5個になった。

 メモは片面に『中庭までおいで』、もう片面には『終わったら』と書かれている。

 何が『終わったら』なんだろう。

 封筒はヒロイン宛、王子宛、眼鏡宛、コミュ障宛だ。モブにはないんですかそうですか。

 ひとまず、と眼鏡が自分宛の封筒を開けると、中から黒い光が飛び出してくる。その光は粒子になり、眼鏡の体に吸い込まれるように消えていった。


「これは、一体……?!」


 眼鏡がこめかみを押さえて片膝をつく姿勢になった。時折耐えるような声を漏らしていることから、こめかみが痛むらしい。

 それを見た王子とコミュ障も、自分の名の書かれた封筒を開ける。そして同様に頭痛を訴える。が、私たちには何が起こっているのか分からない。

 残るはヒロインだけ。ヒロインは3人を見てオロオロしていたが、モブ3人の視線を受けて半分泣きながら手紙を開け、やがて彼らと同じ状態になった。

 4人に共通するのは「頭が痛そう」である。あと、顔色が悪いかな。

 私たちモブ3人は顔を見合わせて、さてどうしようかと首を捻った。何せ手がかりになる封筒が私たちにはない。4人宛の封筒は光の粒子の一部になって消えていったし。

 きっと魔法の類なんだろうけれど、ここにいる全員魔法は使えない。あの光がなんだったのか、どんな作用をもたらしているのか分からない。

 ただ何となく、黒い光だったからあんまり体には良くなさそうだとは思う。

 何となく校長室を見回してみるが、他に何か変わって点はない。相変わらず飾られている鎧の絵は怖いけど、絵が動いたとかそういうのもない。


 対策もないまま1分くらい経っただろうか。

 突然ヒロインが立ち上がり、白い光に包まれた。膝を抱えてしゃがみ込んでしまった時は涙を溢していたが、今は自信が溢れているように見える。


「私、分かったよ」


 ヒロインはそれだけ言うと、近くで唸っていたコミュ障の隣に座った。そして彼の耳元で何かを呟き始める。

 全てを聞き取ることはできないが、「見下したりしない」と言っていたのはわかった。

 ヒロインは眼鏡と王子にも似たようなことをした。

 呟いている内容は「私を信じて」だったり「自信を持って」とか、そんな感じだったが、何のことやら――……。

 あっ。

 分かった。

 これ、トラウマというやつだ。

 確か攻略対象たちは、それぞれトラウマを持っていた。

 例えば王子だったら……ええと、そう、幼い頃に天才と呼ばれた弟と比べられすぎて、弟に対して強いコンプレックスを持っている。努力しても天才には勝てない、秀才では天才に敵わない。それをヒロインが王子に次代の王として自信を付けさせる、みたいな話だったのが王子ルート。

 眼鏡は両親が仮面夫婦で、人を好きになることが出来ない。コミュ障は姉や妹のせいで対人恐怖症? 女性恐怖症?

 それらをヒロインの助力を経て乗り越えて結ばれる。それが本来の乙女ゲームなんだけど。

 なんで今ここで?

 そもそもヒロインって誰狙いなんだろう。視界から排除してたし情報も入れないように気をつけてたから知らないんだよね。

 さっき「分かった」って言ってたから、この3人ルートではなかったのかな。

 で、私たちモブに封筒がなかったのは、そもそもトラウマになる過去がないからだ。モブだから掘り下げてないせいもあるんだろうけど、少なくとも私は平々凡々に生きてきた。そこに人に話せない重い過去なんてない。

 だからってハブらなくてもいいのにね。3人でうろたえるしか出来なかったよ。


 ヒロインの言葉が届いたのか、攻略対象3人組は立ち上がってヒロインにお礼を言っている。

 ふとメモを見ると、『終わったら』の文面が消えている。『中庭までおいで』の方はそのままだ。

『終わったら』とは、封筒のくだりだったのかな。

死亡:0 残り:7

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