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06

 ふと思ったことがある。

 ここは本物の学校ではないんだろうな、と。余裕がない時は夜なのかなくらいにしか思わなかったが、ここに来てからずっと窓の外が真っ暗で何も見えないのはおかしいし、昨日は学校中に罠や動く鎧なんてなかった。コミュ障が確認していたが、鎧の中は空っぽだったらしい。間違いなく魔法だと思う、とも言っていた。

 学校とそっくりな建物、学校内にある物騒な罠、動く鎧。これはもう、大規模な魔法にかけられているのではないか。

 この建物や様々な罠を用意して、30人もの人間をここに連れてくる――1人で行うのは容易ではないはず。

 複数犯よりもっと多い、組織と言ったほうがしっくりくるくらいの人数が動いているに違いない。魔法なんて誰しも使える能力ではないんだから。

 結局ここに集められた人選も分からないし。


「あのっティール! 扉にこれが貼ってあったよ」


 ヒロインが眼鏡に紙を差し出す。ティールとは眼鏡のファミリ以下略。

 そういえばヒロインの初めて話声聞いたなぁ。ずっと泣いてたり悲鳴上げてたりだったから。

 食堂の扉の内側に、いつの間にか貼られていた紙には『2階の図書館へ行け』と書かれていた。

 廊下に罠がないかコミュ障と眼鏡が確認に行ったが、特に問題なかったらしい。どうやって確認したんだろ?


 それでも周囲を警戒しながら2階の図書室まで移動すると、なんと図書室の中が迷路になっていた。本棚迷路。

 本棚が高くてゴールがどの辺りにあるのかは分からない。


 ある程度動ける人を分けて4人が迷路に、4人が入り口(出入り口?)で待機することになった。

 結果、王子・眼鏡・モブ・私が迷路組。子爵・ヒロイン・モブ・モブが待機組になった。

 なんで私は待機じゃないのか。ヒロインと私逆じゃないか。子爵とモブ2人でヒロイン守るのに精一杯かよ。せめて子爵とヒロイン、私とモブ。それでいいと思う。

 でも眼鏡の案と王子の采配だったので、何も言えずに私は迷路に足を踏み入れた。


 図書室に置いてあった本棚を使った迷路はなかなか圧巻だ。

 しかし最初の曲がり角を曲がったら、行き止まりだった。分岐とか何もなかったんだけどな。

 と、思ったら、行く手を阻む本棚の1段に、本が開かれた状態で置かれていた。

 眼鏡がそれを読み上げる。


「ボールペンと消しゴムの値段は合わせて110G。ボールペンは消しゴムより100G高い。では、消しゴムの値段は?」


 何これ。


「10Gだろ?」


 ドスッと音がしたと思ったら「10G」と答えたモブの首に、槍が突き刺さっていた。

 槍は本棚の隙間から伸びている。噴き出した血が辺りの本を染めた。


「ひっ……!」


 こんな間近で、喉を突かれた人を見る破目になるとは思っておらず、声が漏れてしまった。

 槍は血の付いたまま本棚の間にするすると戻っていき、どさりと倒れたモブの死体だけが残る。


「5Gですね」


 眼鏡がそう答えると、目の前の本棚がキラキラと光って消えた。消えた本棚のむこうにはまた迷路が広がっている。

 ……間違えたら、死ぬんだ。

 10Gモブには申し訳ないが、私も10Gかと思った。違った。

 そっか。消しゴムを10Gにしたら、消しゴムより100G高いボールペンの値段が110Gになって、合計が120Gになる。だからボールペンは105G、消しゴムは5G。

 あ、今のは眼鏡が説明してくれました。

 これ私待機組に行った方がいいやつだ。




 だいだい眼鏡、たまに王子が答えて進んでいく。

 私も「口は3つ、目は4つ、では鼻はいくつ?」に「嗅覚~」と答えられたので、役立たずの汚名は雪げたと信じている。

 数字の問題は分からないけど、こういうのは分かるみたいで良かった。

 ちなみに「水が5リットル入る容器と、水が3リットル入る容器がある。 この2つだけを使って、4リットルの水が溜まった容器にしろ」という実践問題については、目の前で眼鏡がやってみせたのに理解できなかった、ということは黙っておいた。


 何問解いたか分からないが、結構奥まで進んできた。

 途中分かれ道が何度もあったが、結局3人でまとまって行動したので結構時間がかかったように思える。

 また1つ、見開かれた本のある棚が現れた。


「最後の問題。300秒以内に持ってきて。買うときは黒く、使うときは赤くて、捨てるときは灰色のものは何?」


 聞いた瞬間、そこから走り出し、図書室の外へ向かう。


「1人では危険です!」


 眼鏡の声もスルーして、待機組もスルーして、私は同じ階にある美術室へと走った。

 今世、モブとは言え腐ってもご令嬢人生を歩んできた私にとって、全力疾走は生まれて初めて。つまり体力がない。持久力もない。案の定息がすぐに切れ始めたが、止まれない。

 300秒。すなわち5分。迷路から出て、答えを持ってきて、またあの問題文まで戻るには、のんびり歩いている余裕はない。


「何故単独行動をするんだ!」


 美術室に入ったところで息を整えていると、王子の声がびりびり響く。後ろから来てたんですか殿下。

 あとめっちゃ怒ってくる……3階での出来事を忘れてとび出したのは私なので、私に非があるんですけどね。


「1人で動くなとあれほど言ったはずだ! 聞いていなかったのか!」

「ゴホッ! 殿下っ……そ、れは、後で、お願いします……」


 慣れないダッシュでとても息がし辛い私は王子の説教は後回しにして、美術室に一角においてあったそれを、ハンカチで包んだ。


「なるほど、木炭か……」


 美術室では用途が違うが、炭は一般的に買った時は黒く、使っている最中熱されて赤くなり、燃え尽きたら灰色になる。

 で、答えは炭。


「急いで戻り――」

「木炭を落とさないようにな」


 突然足場がなくなった。

 んっ? と思っている間に王子の顔が私の近くにあり、腕が肩と膝裏に。

 ……お姫様抱っこ!!!

 ちょっ、ここで乙女ゲーム要素いらないんですけど!!

 木炭より私が落ちそう(物理)なんですけど!!

 あと「こっちの方が速い」と走り出す王子は化物。そもそも美術室まで来るのに息乱れてなかったし。私なんて肩で息をしても苦しかったのに。

 何より恥ずかしい死にたい。

 でも王子は躊躇などない。

 無表情で運ばれながら待機組の前を通り過ぎ、眼鏡の元まで戻ってきた。死にたい。死にたくないけど。


「こういうなぞなぞは得意なんですね」


 眼鏡の溜め息攻撃。

 300秒以内に戻ってこれたし、木炭も正解だったんだし、私も王子も無事だし、結果オーライということでそれは無視した。

 ……多分算数問題分かってなかったことばれてるっぽいけど。


 消えた本棚の向こうには、本が1冊も置いてかれていない本棚があった。いや棚があった。

 そこにはまた紙と鍵が置いてある。

 この鍵、4階で見つけた鍵と同じ形をしているように見える。コミュ障が持っていたのは、どんな形だっただろう。

 紙には『校長室の秘密へ』と書かれている。

 秘密? 校長の秘密なんてカツラ以外に何かあるのかな。

 ……デスゲームでそんな秘密ばらされるの嫌だなぁ。

死亡:1 残り:7

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