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9/2 全体の誤字修正しました。ありがとうございます。

 私の周りには6人の男女がいる。

 みんな顔から感情が抜け落ちているけれど、それは私も同じだろう。


「……それでは、投票を始めよう」


 彼はひどく硬い声色でそう言った。それもそのはず。これで全てが決まるんだから。

 これから始まる最後の課題。

 本当に『あの人』を選んでいいのか、私には分からなかった。






 *****






 私はとある乙女ゲームに転生した人間だ。

 気付いたのは前世でいう「高校」に入学してからだけど、それも仕方ない。何故なら私は、そのゲーム内では所謂「モブ」で、背景のイラストに描かれているかどうかくらいの存在だからだ。

 実際にゲームで遊んだことはないけれど、友だちがプレイしているのを見ていた。登場キャラの特徴はそこはかとなく覚えている。

 最初こそ困ったが、私はモブとしての使命を全うしている、と思う。

 同じクラスにゲームのヒロインや攻略対象がいた時も年もあったけれど、話すこともしない。彼女たちが起こすイベントを視界にも入れず、仲良くなったモブ令嬢たちと淡々と過ごしていた。


 しかしそんな運命から、あと1ヶ月程で解放される。

 そう、卒業式だ。

 一応このゲームに悪役令嬢はいる。その取り巻きたちも。陰での嫌がらせはあったみたいだけど、そもそも悪役令嬢とメインヒーローである王子は婚約者ではない。

 だから卒業式で断罪からの婚約破棄、みたいなこともない。あるのは卒業式後にヒロインが誰かに告白するイベント。その成否でエンドが変わる。

 でも、何エンドだろうと私には関係ない。

 卒業式まで乗り越えられれば、約3年にわたるモブ生活に終止符を打てる。




 そんなフラグ的なことを考えたのが原因なのか、私の部屋に、いつの間にか1通の手紙が置かれていた。通常、手紙は執事または侍女から直接手渡されるはず。なのに勝手に部屋のテーブルに置かれているなんて、怪しすぎる。

 しかもこの手紙、差出人はおろか受取人である私の名前も書いてない。そんな馬鹿な。

 怪しい。こんな手紙開けない方がいい、に決まっているけれど、もし警告の類の手紙だったらどうしよう。

 うーんどうしたものか、と口では唸りながらも、私の手は引き出しを開けてペーパーナイフを探している。好奇心に体が負けている。

 半分恐怖、半分興味で手紙を開けると、中には1枚の紙が入っているだけだった。


『特別パーティにご招待』


 紙には、ただそれだけ書かれていた。

 何の話だろう。卒業式の後の話だろうか。いや、それなら匿名にする理由がない。

 たった一言書かれたそれを眺めていると、突如文字に重なって光の模様が浮かび上がった。

 は? と思う間もなく私の意識は光に奪われることとなった。






 目の前にはコンクリートの床。

 数秒間何がなんだか分からなかった。思考が動き始めて、ようやく変な手紙を見てから意識を失ったと思い当たる。

 どこかに拉致られたのかな、と体を起こすと予想もしていない場所にいたことが分かった。


「学校の、屋上?」


 しかも自分以外に何人もの生徒が、同じように倒れている。

 私はとりあえず友人がいないかを確認したが、親しい間柄の生徒はいなかった。

 代わりに、見知った顔は見つけた。

 フェンスに寄りかかっている王子。そして傍らに不安げに立つヒロイン。その周囲にいる男子生徒4名。

 要するに、ヒロインと攻略対象5人だ。

 王子、宰相の息子、騎士団副団長の息子、魔術師団員の息子、子爵子息かと思いきや実は公爵家の子息。その5人。

 そんな6人から離れたところに女子生徒3人が集まっていた。こっちも顔は知っている。悪役令嬢と、その取り巻き令嬢2人。

 ゲーム内で名前のあるキャラクターが全員揃っていて、他は私と同じようにモブ。屋上にいる生徒は合計で30人いるみたいだけど、性別もクラスも、なんなら学年も関係ないようだ。制服を着ていなかったら、生徒かどうか分からないほど知らない人たちばかり。

 こんなイベントに見覚えはない。まあ、メインキャラたちが集まっている時点で、モブである私には関係のないイベントではあるんだろうけど。


 やがて倒れていた生徒もいなくなり場が困惑に満ちて数分後、変声機を通したような不気味な声がどこからか聞こえた。


『ようこそ、特別パーティへ! みなさんにはこれから、ゲームに参加してもらいます。題して「生きて校門まで行けるかなゲーム」!!』


 題してない、というツッコミはなかった。みんな呆気に取られたり厳しい顔をしたりと、状況を飲み込めていない人しかいない。当たり前だ。

 私だって、もうすぐ乙女ゲームのエンディング! と思っていたのにまさかデスゲーム(仮)が始まろうとするなんて。そんなまさか。

 声はこちらの反応も気にせず、ただゲームの説明をしていく。


 ルールとしてはシンプルだ。

 これから簡単な課題がいくつか出されるので、それをクリアしていけばいい。何も難しいことはない。ただ、命が尽きたらゲームオーバー。

 ゲームどころか人生のターンエンドですが。


 多分だけど、私の生存確率は極めて低いと思う。

 先程も述べたが、ゲーム内で名前のあるキャラクターが全員揃っている。ということは、私が知らないだけでイベントなのかもしれない。

 だとしたらモブは、噛ませ犬、チュートリアル、見せしめ等、色んな意味で死ぬ可能性が高い。

 今までは転生前の知識があったから、モブに徹底できた。イベント回避できた。

 でもこのイベントは、友だちがプレイした中では一度も起こらなかったイベントだ。それに当然だけど生前デスゲームに参加したことはない。平和な人生だった。

 すなわち活用できる知識がない。イコール死亡フラグ回避困難イコール死。


「ふざけるな!! 何がゲームだ! 俺は帰るっ!」


 早速威勢のいいモブにフラグが立つ。

 彼は勢いよく踵を返し、室内へと繋がる唯一の扉を開けた。

 いや、正確にはドアノブを握った。

 その瞬間恐ろしい電撃音に屋上が響き渡り、瞬きをする間もなく、彼は地に伏した。

 ……何かが焼ける臭いがする。


 屋上は悲鳴に包まれたが、そんな物は聞こえないとばかりに再びあの声が響く。やけにテンションの高い声はもはや畏怖の対象だ。


『最初の課題は、これを持って4階の視聴覚室まで来ることです!』


 彼が横たわる扉の付近に、いつの間にか木箱が置かれていた。


『視聴覚室の定員は……ふふっ何人にしましょうか』


 誰が先陣をきったのか定かではないが、定員の文字を聞いた途端、何人もの生徒が木箱から何かを取り出して屋上を飛び出す。一応、扉は彼の犠牲で開いたようだ。

 それに続いて、固まっていた生徒も動き出す。

 私も混じって木箱を覗くと、掌サイズのゴム版が入っていた。表面には「通行証」と彫られている。

 ひっかかるのが、これがどこの通行証なのかということだ。視聴覚室の扉か、屋上から出る扉か。

 それからあの声は、『これを持って4階の視聴覚室まで来ること』と言っていた。このゴム版とは言わなかった。あの流れならゴム版のことを言っているように思えるが、果たして。

 そんなことを考えながら階段を下りていると、誰かが私の横を走って通り過ぎて行った。

 あの後姿は、悪役令嬢の取り巻きの1人、通称取り巻き令嬢①だ。

 この学校では原則ファミリーネームで呼びあう。みんな平等に名字にさん付けしましょうね、的なやつ。かと思いきや、男子が女子を呼ぶ時は名字に嬢を付ける。女子が男子を呼ぶ時は様付け。平等なのか?

 話が反れた。

 基本みんなのファーストネームは知らないが、ファミリーネームは何とか分かる。横切った彼女は、確か「マダー」だったかな。多分恐らくきっと。

 走って降りると危ないよ、と見ていると、今度は背後から声をかけられる。


「君! 間違えて通行証を2つ取っていないか?」


 階段には私しかいない。みんな急ぎ足で視聴覚室に向かったからだ。

 仕方なく振り向くと、屋上に繋がる扉の向こうから、脳筋もとい騎士団副団長の息子が私を見ていた。いや睨んでいる? 眼力が強くてどっちか分からない。

 片手で自分の分のゴム版を掲げ、もう片方もパーにして、何も持っていないと告げる。

 屋上には何人かいるようだったが、脳筋を初め攻略対象キャラばかり見える。こっちは一方的に知っているけど、むこうからは初対面同然のはず。喋ったことないから。馴れ馴れしくならないように、関わりは消極的にしたい。

 そんな内心を見透かされたのか、脳筋の横にいた眼鏡の男子生徒が言う。

 通行証が2つ足りないので協力して欲しい、と。

死亡:1 残り:29

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