六話 盾使い、付き合う
※
「仮説を立ててみたの」
「なんの」
午後。
体調が回復したシロナと共に、再びクエストを受けた。
内容は討伐クエスト。王都近郊に出現する、トカゲモンスターのドデカゲを討伐するというものだ。
ドデカゲの現れる丘で、ターゲットを待っている折、シロナが前触れなく言った。
「あんたの技について」
「技?」
「そう。あのチンピラ二人を吹っ飛ばしたあれよ」
「ああ……あれね」
多分、あれのことだろうと頭の中に思い浮かべる。
「つーか、そんなに気になるもんか?」
「あんたが勿体ぶるから気になって仕方ないのよ。で、仮説なんだけど……あれ、カウンターじゃないかしら」
カウンターは、一般的に相手の力を使うことで、ダメージを倍にして返す技。
どこら辺でそう考えたのか尋ねると、
「オセンギョの時とチンピラを相手にした時の共通点。あんたからは攻撃してなかった。前者は盾、後者は素手って違いはあるけど。どっちにしろ、あんたは攻撃を受けてから吹っ飛ばしてる」
「よく見てるんだな」
「ただ……カウンターだったとして、どうやったらあれだけ派手に吹っ飛ばせるのが疑問なのよね」
シロナの考えでは、オセンギョはともかくチンピラの攻撃を倍返しにしたところで、あれだけ吹っ飛ばせるものなのか、ということらしい。
「ねえ、実際のとこどうなのよ?」
「企業秘密。その方がかっこいいから」
「ケチ」
頬を膨らませ、シロナはあからさまに不機嫌になる。俺はご機嫌取りも兼ねて、冗談交じりに口を開く。
「んじゃあ、俺と付き合ってくれたら教えてやらんこともねえぞ?」
そう言うとシロナがぽかんと口を開けて、
「付き……は? なにあんたあたしのこと好きなの? まあ、あたしが超絶プリティキューティクルなのは全世界共通認識だけどね?」
「うぜえ……」
ただ、可愛いのは認める。
「それで? 付き合えって? どうしようかしらねえ?」
「へえ、以外と考える余地ありなのか? チャンスがありそうでなによりだわ」
「あんたの企業秘密だけだけどね」
「俺の興味ポイントなさすぎじゃね?」
シロナは俺の話を無視して、顎に手を当てて思案している。それから、ふいに視線が俺に向けられた。
「ねえ、実際のところどうなのよ?」
「どうってのは?」
「あんたはあたしのこと好きなの?」
ど直球に聞いてきた。
どう答えたものかと考えあぐね、俺は素直に答えることにした。
「好きだな」
「会ったばっかりなのに? 一目惚れってやつなのかしら?」
「まあ、そんなところだな」
「あたしのどこら辺が好きなの?」
「顔と胸と括れと尻」
「サイテー」
しまった。素直に答えすぎた。
彼女の中で俺の心象がダダ下がりになったのか、ジトっと半眼で俺を睨んでくる。
だが、俺はまだ脚を言っていない。シロナの美しい曲線を描いたスラッと長い脚は、見ていて飽きない。むしろ、シロナの興味ポイントはそこしかないまである。
と、俺とシロナがふざけている間に――どうやら目的のモンスターが現れたらしい。
『ドデカゲエエエ!!』
「おっ……地面から出てきた!?」
「ドデカゲは地中に生息するモンスターよ! 地面の中に穴を掘って巣を作るもんだから、旅人や行商人がたまに落とし穴的な感じで落ちちゃうのよ!」
クソみたいだな。
地中から這い出てきたドデカゲは、人間大ほどだ。
ドデカゲは俺達を見るなり、わしゃわしゃと四本の足を動かして迫る……!
シロナは臆することなく、腰の剣を抜いてドデカゲを真っ二つに両断した。うわあお…………。
ドデカゲの体が左右に割かれて倒れた後、シロナはかっこよく剣を鞘に戻してこちらに振り返った。
「まあ、Fランクのモンスターなんてこんなものよね」
「呆気ないもんだな」
「さっさとランクを上げて、もっと手強い相手と戦いたいものね」
「だったら、さっさとダンジョン潜ろうぜ」
「そうね。明日、早速行きましょ」
「おっけー」
シロナはクエストを終えたからか、既に帰ろうと王都に向かって歩き出している。
俺もシロナの後ろに続いて帰ろうと――シロナが突然振り返り、
「付き合ってあげなくもないわよ?」
「え?」
シロナが頬を赤らめた表情で、上目遣いにそう口にした。
俺は意外な返答に戸惑ってしまう。
「いや……マジでか」
「ええ。嘘は言わないわ」
「……自分で言うのもなんだが、俺ら昨日会ったばっかりだぞ?」
「本当に自分で言うのもあれな奴ね……。でも、まあ……別にいいでしょ? あたしと付き合えるんだから」
「いや、理由を聞いてるんだが……」
「い、いいから! さあ! 帰るわよ!」
恥ずかしいのか、耳まで真っ赤にしてシロナは帰路を歩いていく。
俺はふいに、彼女も俺に一目惚れでもしたかなと、自分に都合の良い馬鹿なことを考えながら、彼女の後を付いて帰路に立った。