五話 盾使い、吐かれる
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「ううっ……なんだか頭が痛いわ」
「二日酔いかよ……」
翌日、ギルドで会ったシロナは頭を抑えて気分を悪そうにしていた。
とりあえず、水を渡す。シロナは「ありがと……」と言って、水を一息に飲み干す。
「ふう……」
「どうする? 今日はクエストやめとくか?」
「んー……ちょっと休めばすぐに直るわ……。だから、ちょっと休ませてちょうだい……」
「おっけー」
シロナの希望通り、昼まで様子を見ることにした。
となると、午前中は手持ち無沙汰だな……。
俺は二日酔いでダウンしているシロナを、酒場のテーブルに置いていき、受付でせっせと働くヴィオラに声をかけた。
「よう、おはようさん」
「あ、おはようございます。シロナさんはどうし……あー」
シロナを探したヴィオラの視線が、酒場でダウンしているシロナに向けられる。
色々と察したのか、ヴィオラが苦笑を浮かべる。
「ええっと……百ゴルドで酔い覚まし買います?」
「そりゃあ助かるな。ほい、百ゴルド」
「はい、それじゃあこちらが酔い覚ましですね。全く……お二人共、期待の新人さんなんですからね? お酒で問題とか起こさないでくださいね?」
「善処はする」
「い・い・で・す・ね?」
「…………」
俺は目を明後日の方向に向けた。
ヴィオラは呆れた溜息を吐いた。
「……まあ、いいでしょう。それで、今日もクエストに?」
「そのつもりだ。なんか仕事ねえか? 割のいいやつ」
本当はダンジョン攻略にでも行きたいが、本調子ではないシロナを連れ行っても碌なことにならないだろう。
仕方なく、今日も適当なクエストを受けることにする。
「そうですね……薬草採取なんてどうです? お二人でしたら、薬草採取のついでにモンスターでも狩れば、追加報酬が入るので割がいいと思いますよ?」
「なるほど……。というか、さっさとランクを上げてくれりゃあ楽なんだが」
「規則ですし、周りから変な勘繰りをされるのも嫌でしょう?」
それは確かに言えてる。
俺は肩を竦めた。
「コツコツとクエストをこなしていれば、ランクも上がりますから。頑張りましょう!」
「そんな気長にやってくれるつもりはねえ。俺はダンジョン攻略して、サクッとSランクに行くつもりだ」
ヴィオラは俺の言葉に、きょとんと首を傾げた。
「ダンジョン攻略? ああーシロナさんに聞いたんですね?」
「ああ。自分のランクのダンジョンを攻略すると!ランクが上がるんだろ?」
「そうですね。ただ、ダンジョンはとても危険なので、ソロ攻略は原則禁止なんです……。まあ、Fランクダンジョンでお二人が躓くとは思いませんけど、万が一がありますからね」
安全への配慮が徹底しているのはいいが、いささか動き難いと思わなくもない。
俺がそんなことを思っていると、ヴィオラが「あ」と声をあげた。
「どうした?」
「いえ……あの、シロナさんが……」
言われて、シロナに視線を送ると――二日酔いの頭痛に悩まされているシロナを、二人の男が囲んでいた。
ナンパに見えるが……。
「ナンパでしょうか?」
「二日酔いの頭痛に響きそうだな」
「助けないんですか?」
「…………必要を感じないんだが」
ヴィオラは何か意外だったのか、目を丸くさせた。
「こういう時って、男の人が助けるものでは……?」
「助けるって行為は、相手を見下してるとも捉えられると思わねえか?」
「え?」
俺の言葉にヴィオラが首を傾げる。
助ける……なるほど、素晴らしい行いだし、外聞も良い。その単語を聞くと、良いことのように感じる。
だが、俺は必ずしも助けるという言葉や行為が正しいとは思わない。
「シロナなら、これくらいの状況……一人でなんとかなるだろ。それを俺がわざわざ横槍入れんのは、あいつの実力を信用していないっつーことになる」
「……つまり、シロナさんの実力を信用しているから助けないと……?」
「そういうことだ」
「でも、あれ大丈夫ですかね……?」
ヴィオラの言葉通り、シロナは今にも吐き出しそうにしている。まさかシロナが二日酔いとは知らない男達は、執拗にシロナを誘っている。
その誘い文句が、シロナの頭に響いているのだろう。シロナの顔色が、悪くなっている。
「……いや、まああれくらい」
と、思っていたのも束の間。
誘っても乗らないシロナに贄を切らしたのか、男の一人がシロナの腕を強引に引っ張って――!
その瞬間、シロナが口を押さえた……!
「昨日は言い忘れましたけど、ギルドで吐いたら罰金として一万ゴルドいただきますからね?」
俺はすぐに救出に向かった。
「はーい、失礼」
「お……な、なんだてめえ!」
「俺達はそこの姉ちゃんに用があるんだよ!」
間に割って入った俺に、男達が突っかかる。
俺はナンパ男達の相手をしている場合じゃないと、背中で口元を押さえているシロナに目を向ける。
「おい、意地でも吐くなよ? 吐いたら罰金一万ゴルドらしいぞ」
「…………うぐっ」
一応、まだ余裕があるらしい、コクコクとシロナは頷く。それから、チラッとシロナが男達に目を向けた。
男達はギャーギャーと喚いており、それが原因か、シロナが頭を抑えている。
どうやら、黙らせろという意思表示らしい。
「はあ……えーっと、お前ら。ちょっと静かにしろ」
「なんだとお!?」
「おい! 俺達がDランク冒険者だと知って言ってんのか!? ああん!?」
「お前ら、最近入った新人だろう!? 生意気言ったら、ぶっ飛ばすぞ!? ああん!?」
面倒臭え。
詰め寄って威嚇してくる男達。
俺はげんなりとした表情で、
「だから、うるせえって。つーか、Dランク程度で威張るんじゃねえよ……」
「な……Fランクの癖にてめえこそなにでかい顔してんだ!」
「ぶっ飛ばすぞ!? ああん!?」
「俺をぶっ飛ばせるなら、是非ともやってみて欲しいもんだな」
「なんだとお!?」
「この野郎! どうやら言っても分からねえみたいだなあ! ああん!?」
男達は俺の言葉が気に食わなかったのか、額に青筋を立てる。
「泣いて謝るなら一発殴るだけでやるしてやる!」
「ほれ、謝れ! ああん!?」
「…………やるなら、さっさとかかってこい」
「このっ……!」
「Fランクの新人の癖に!」
ついに怒った男達が、同時に殴りかかってくる。
俺は左右から飛んできた拳を、両の手の平で受けて――その直後、男二人が数十メートル後方にあった壁まで吹き飛び激突。衝撃、二人共口から空気を吐き出して気絶した。
周囲にいた冒険者や受付のヴィオラが唖然としている。
そんな中――今のが引き金になってしまったらしく、ついにシロナが吐き出した。
「オロロロ」
「ばっ……お、お前!? 俺のズボンにかかった!」
結局、罰金として一万ゴルドを払うことになった。もちろん、俺にそんな金はなかったので、シロナに払わせた。
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