四話 盾使い、飲む
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王都に戻った俺とシロナは、クエストの報告をヴィオラに済ませる。
オセンギョのことを出すと、ヴィオラが驚いていた。
「お、オセンギョを討伐……ですか? いえ、まあ……お二人共、強いのは知っていたんですけど……」
「それよりヴィオラ! 報酬よ!」
「あ、そうですね……。では、こちらがクエストの報酬になります。オセンギョの討伐で特別加算しまして、三千ゴルドです」
となると、二人で分けて千五百ゴルドになるわけか。
報酬の入った金袋を受け取ったシロナは、そのままずいっと俺に報酬を押し付ける。
「なんだ? くれるのか?」
「だって、オセンギョのほとんどはあんたが倒したじゃない。なら、報酬はあんたが受け取りなさい」
「別に半分でいいだろ」
「いいから、ほら」
シロナが無理矢理に押し付けるので、半ば強制的に報酬を受け取った。
くれるというのなら、ありがたくいただこう。
ただ、なんとなく忍びない。別に三千ゴルドも必要はないわけで――少し思考を巡らせ、ふと閃く。
「あ、そうだ。どうせならギルドの酒場で酒でも飲まねえか? 奢るから」
言いながら、先ほど受け取ったばかりの金袋を見せびらかす。
シロナは目を瞬く。
「え……まあ、いいけど……。あんた、酔ったあたしを襲わないでよ?」
「宿の予約しとかねえとなあ」
「ヴィオラ」
「マジ勘弁」
シロナがジトっと俺を睨む。
そんなやり取りを、傍らで見ていたヴィオラは苦笑を浮かべる。
「ねえ、ヴィオラも一緒に飲まない? この男と二人で飲むのは、身の危険を感じるわ!」
「お、両手に華って奴だな……どうだヴィオラ?」
「え、あの……私、仕事残ってるんですけど……」
「んなもん、暇そうなゲオルグにでも押し付けとけば大丈夫。大丈夫」
「そんなこと言ったら、ゲオルグさんにぶっ飛ばされますよお……」
俺とシロナは肩を竦め、結局二人で飲むことにした。
酒場で料理と酒を頼むと、二千ゴルドが吹き飛んだ。わーお……。
シロナはエールを呷り、「ぷはっ!」と親父臭い声をあげた。
「いや〜クエスト後の一杯は格別ね!」
「お前、親父臭いぞ」
「はいそこうるさい。あんたその鳥唐揚げ寄越しなさいよ!」
「ちょ……馬鹿やめろ! それは俺のだ!」
俺は唐揚げを狙うシロナの手を叩く。
シロナは口を尖らせた。
「ケチ! そんなんじゃ女の子にモテないわよ?」
「馬鹿め。俺様は、いずれSランク冒険者になる男……何もしなくても自然にモテちゃうんだよなあこれが」
「キモ」
「酷い」
お互いに軽口を叩き合いながら、それそろエールも三杯となる頃。ホロ酔いになったシロナが、紅葉した頬でこんなことを尋ねる。
「ねえ……あんたって、なんで冒険者になったのよ?」
「あん? こいつだよ。こいつ」
俺は横に立て掛けていた盾を叩く。
シロナは首を傾げた。
「盾? 盾がなんだって言うの?」
「俺は……盾使いだ。盾が最強の武器だってことを、世界に知らしめるために……そして、俺が世界最強の盾使いだってことを証明するためにSランク冒険者になりてえんだ」
「へえ……いや、だから盾は武器じゃないでしょって。ぷぷ」
この野郎。
再び嘲笑ったシロナだったが、すぐに真面目な表情に変わる。
エールの注がれたジョッキをテーブルに置いて、やや酒の臭いを含ませた口を開く。
「まあ……あんたの盾に対しての想いは、確かみたいね。オセンギョを四匹纏めて吹き飛ばした技――このあたしの慧眼で仕組みが全く分からなかったから」
「随分と自信がおありで」
「まあね! それより、あんたからあたしに質問ないの? ねえねえ?」
聞いて欲しいらしい。見ると、大分酔いが回っている様子。体をクネクネとくねらせて、目はトロンと蕩けている。頬は先ほどよりも紅潮し、暑いのか胸元をはだけさせている。
俺は艶かしい谷間に目を落としてから、両手を叩いて拝んだ。
「んー? 何してんのよー?」
「ごっつあんでっす……と、で? 聞きたいことか。そうだなあ……」
俺は顎に手を当てて思考を巡らせる。
「…………じゃあ、スリーサイズは?」
「えっとねー。八十五、五十六、八十二!」
いや、分からん……。
しかし、今なら色々と答えてくれそうだ。
「じゃあ、俺のことどう思う?」
「変態野郎」
「俺のこと好き?」
「どっちかって言うと嫌いー」
「なんてこったい」
ちっ……てっきりもう好感度マックスなのかと思ってたぜ!
仕方ない。もっとスキンシップを取らないと。
俺は手をワキワキさせて、シロナの豊満なバストを鷲掴みにしてやろうと――眠いのか、シロナが欠伸をしたのと同時にテーブルに突っ伏して眠ってしまった。
「ぐーぐー」
「…………ったく」
俺は残っているエールを飲み干し、眠りこけているシロナに俺の外套を肩にかけてやる。
シロナはくすぐったかったのか、「うーん……」と僅かに身じろぎした。寝顔可愛いなおい。
俺は改めて両手を合わせて拝んだ。
「ご馳走さんでっす」
「何やってるんですか?」
声をかけられて振り返ると、紙の束を抱えたヴィオラが苦笑を浮かべて立っていた。
「いや、ちょっと拝んでた」
「起きたらシロナさんに言いつけちゃいますよ?」
「マジ勘弁」
「ふふ、酒場の閉店時間には起こしてあげてくださいね?」
「おっけー」
ヴィオラは俺の返事を聞いて再び微笑み、紙束を持ってどこかに行った。
残された俺は、気持ち良さそうに眠りこけるシロナを見つめながら――と、突然シロナがクワッと目を見開いた……!
「うっ……」
「う?」
シロナはまるで何かを吐き出そうとしている様子で――あ、これダメな奴だ。
俺は咄嗟にシロナの口を手で塞ぎ、
「ヴィオラあああ!! この女、乙女の癖にぶちまける気だぞおおお!!」
「いえええええ!? さっきまで割と悪くない雰囲気だったのに!? ちょ……吐くからギルドの外でお願いします!」
言われた通り、シロナを担いでギルドの外に出してやる。シロナはギルドのすぐ目の前で、色々と吐き出した。
「オロロロロロロ」
「…………」
俺はシロナの背中をさすってやりながら、ブラのホック外せねえかなと、邪なことを考えていた。そうでもしていないと、俺も吐きそう……うっ……!
「オロロロロ」
「オロロロロ」
結局、俺も貰いゲロを吐いてしまった。
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やる気が……出ます!