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最強の武器は、絶対に盾だろ!  作者: 青春詭弁
第一章 盾使い、冒険者になる
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一話 盾使い、冒険者になる

 王都に入る手前の関所で身分確認をさせられた。


「身分証はあるかい?」

「ねえ」

「じゃあ、仮証明書を渡すから……手数料として五百ゴルド払ってもらうけど、大丈夫かい?」

「おっけー」


 丁度、山賊から巻き上げた金袋から五百ゴルドを取り出して、衛兵に手渡す。

 衛兵は金貨の枚数を確認すると、すぐに仮証明書を発行して俺を王都の中に通した。


「おお……人がめっちゃいるな」


 村と比べれば当たり前だが、通りを行き交う人の量が尋常ではなかった。

 建物の造りも違う。俺のよく知る木造の簡単な造りではない。石やレンガで造られた頑丈な家が並んでいる。道も砂利道ではない。レンガが敷き詰められた立派な道で、とても歩きやすい。

 さすが、王都は違うな……。


「うひょーあの遠くに見えてんのが、城だよな! いやあ、店もたくさんあって目移りしちまうぜえ……」


 あっちにも行きたい。こっちにも行きたい。

 田舎から出てきた若者が、都に着くと上を見上げるというが……その理由が分かった。

 俺は弾む心を落ち着かせ、道行く人に冒険者ギルドの場所を訪ねる。冒険者になるには、ギルドとやらで登録しなければならないからだ。


「ここがギルドかあ……でけえ……」


 ギルドの建物は大きく、思わず見上げてしまう。

 ただ、こうしていつまでも上を見上げていると、「田舎者」と馬鹿にされると聞いた。

 頭を振って中へ入る。カランカランという鈴の音が鳴り、ギルドの中にいた数人の男達が門口に視線を寄越す。

 冒険者といえば荒くれ者だ……。どれくらい柄が悪いのかと思っていたが、割と予想の範囲内。

 ちょっと厳つい装備で、ちょっと厳つい顔付きなだけだ。

 俺は視線を気にせず、受付カウンターらしいところに足を運ぶ。


「あ、こんにちは。どのようなご用件でしょうか?」


 カウンターで応対してくれたのは、巨乳で美人なお姉さんだった。超ラッキー。


「冒険者登録してえんだけど」

「登録ですね? 登録料と手数料で千五百ゴルドいただきますが?」

「うへえ……結構取られるんだな。ほい」

「はい…………千五百ゴルド丁度ですね。では、書類に必要事項を書いていただくのですが……文字は書けますか?」

「おう」


 俺はお姉さんから紙とペンと渡され、スラスラと書類に書いていく。

 書き終えて、お姉さんに紙を渡すと首を傾げた。


「ええっと……この武器の欄なんですけど……」

「ん? なんか間違えたか?」

「あの……いえ、盾って書いてあるんですが……書き間違いですよね?」

「いや、合ってるけど」

「え?」

「え?」


 俺は何かおかしなことを言っているだろうか。

 お姉さんは再び首を傾げる。


「あ、あれ……? 盾って武器じゃないような……」

「いやいやいや。盾、武器だから。めっちゃ武器だから」

「え、ええっと……?」


 お姉さんが困った笑みを浮かべていると、それを見兼ねたのかカウンターの裏から大柄な男が現れ――ヒョイっとお姉さんから紙を奪い取る。


「あ……あ! ゲオルグさん」


 ゲオルグと呼ばれた男は紙に目を通し、溜息を吐いた。


「おい、クソガキ。困るんだよなあ、冷やかしは。ここはガキの遊び場じゃあねえんだよ」

「冷やかしだあ?」

「冷やかし以外のなんだってんだ。武器が盾……? ふざけてんのか」


 ちょっと、何を言っているのか分からない。

 俺は背中に背負っていた盾を手に装備する。大きさは俺の体をすっぽりと覆うほどの大楯だった。


「これが俺の武器だが?」

「いや、だから、盾じゃねえか。舐めてるとぶっ殺すぞ」


 ゲオルグがそう言って、殺気を飛ばしてくる。

 受付のお姉さんが怯えて震え出したが、俺はよく分からず首を傾げた。

 それを見て、何を思ったのか、ゲオルグが舌打ちする。


「ちっ……俺の殺気を受けても怯まねえか。正真正銘の馬鹿なのか、それとも――」


 ゲオルグは何事か呟いた後、


「おい、クソガキ。今から試験をする。試験に合格したら冒険者にしてやってもいい」

「試験? まあ、別に構わねえけど。何すんだ?」

「俺と戦え。その盾が玩具じゃなけりゃあ、戦えるんだろ?」

「ちょ……ゲオルグさん!」


 と、ここで怯えていたお姉さんが口を挟む。


「どうして突然そんなこと……」

「ふざけたガキが、クエスト行っておっ死んでみろ。責任を誰が取ると思ってんだ。こいつが冒険者舐めたクソガキかそうじゃないか、見極める必要がある」

「でも、ちょっと強引じゃ……」

「てめえは黙ってろ。で? どうすんだクソガキ。やるか? やらねえのか?」


 すぐ目の前で聞いた会話の内容から、事情は理解できた。つまり、実力を疑われているということだ。非常に不本意だ。


「おっけー。さっさとやろうじゃねえか」

「その根性は買ってやる……付いて来い」


 俺はゲオルグの後に付いて、ギルドの地下訓練場に通された。広々とした空間で、戦う分には不自由はないだろう。

 ゲオルグは俺から数歩離れた間合いで木剣を右手に口を開く。


「ルールは簡単だ。どちらかが戦闘不能になるか、降参するまでだ。殺しはなしだ」

「おっけー」


 俺は盾の裏からゲオルグを見ながら返事をした。


「けっ……盾っつーのは、身を守る防具だ。それを武器とかふざけてんのか?」

「ふざけてるかどうかは、やってみれば分かるだろ。早くしろ」

「ちっ……いくぞ!」


 ゲオルグが地面を蹴ったのを皮切りに、戦闘が開始される。まず様子見のつもりか、ゲオルグは隙なく間合いを詰めて、剣先の当たる絶妙な間合い管理で木剣を振り下ろす。

 俺は冷静に盾で受ける。

 それから数回、数十回とゲオルグが盾の上から剣を振り下ろす。


「盾の裏に隠れてるだけじゃねえか!」

「…………」


 煮えを切らして煽ってきたゲオルグを、盾の裏からじっくりと観察する。仕掛けてくるのなら、そろそろか。

 ゲオルグは俺の読み通り、盾で狭まっている俺の視界――その死角を的確に突いて、盾の裏に回り込む。


「いつまでも殻に閉じ篭ってんじゃねえよ!」

「そーい!」

「げぼあ!?」


 俺は右から回り込んだゲオルグを、盾でぶん殴った!

 両手で持って、足腰の関節で回転を加えた一撃だった。

 ゲオルグは大きく吹っ飛び、訓練場の壁に激突する。


「い、いでえ……な、なんつー馬鹿力してやがる……!?」


 俺は呆けているゲオルグに空かさず攻める。

 盾を前面に突進――ゲオルグは咄嗟に横っ跳びに回避する。


「くそっ……このガキ!」

「おっと」


 再び盾の裏に回り込んだゲオルグが木剣を振り下ろしてきたため、俺も横っ跳びに躱す。


「は、はええ……!? なんでそんな馬鹿でかい盾を持ってて、そんなに早く動けんだ!? このっ!」

「…………」


 冷静さを欠いたゲオルグが木剣を力任せに振り下ろす。タイミングが取りやすい単調な攻撃――盾を構え、ゲオルグの振り下ろし攻撃を受けた刹那。


「ごふっ!?」


 ゲオルグの体が宙を飛び、血を口から吐いて地面に倒れた。


「ごほっ……ごほっ!」

「おーい、大丈夫か?」


 咽せたように咳き込むゲオルグを上から覗き込む。ゲオルグは手を挙げて、無事なことを示した。


「ごほっ、ごほっ……い、今何をしたんだ……?」

「企業秘密。手の内を明かす馬鹿はいねえだろ?」

「そりゃあ……そうだな……ごほっ。す、すまねえな。お前、強いな……なんで倒されたのかさっぱり分からねえ」


 一人で立てなそうなのでゲオルグに肩を貸す。

 と、今の戦闘を心配そうに見ていた受付のお姉さんが戦慄していた。


「うそ……ゲオルグさんが負けるなんて」

「おい、ヴィオラ。悪いが、手え貸してくれ……」

「あ、は、はい!」


 受付のお姉さんはヴィオラというらしい。

 俺と一緒に、ゲオルグに言われた通り、応接室のソファに座らせてやる。

 そこで俺も「座れ」と促されたので、ゲオルグの向かいに腰を下ろした。


「それで? 試験は合格でいいか?」

「ああ……悪かったな。正直、舐めてたぜ」

「評価が改善されてなによりだ」


 ゲオルグは苦笑し、ヴィオラに冒険者登録の手続きを済ませるよう指示する。


「ちと、聞いておきたいだが、お前何者なんだ?」

「何者……?」

「……これでも俺はそこそこ腕に自信があってな。もう引退はしちゃいるが、元はAランクの冒険者だったんだ」

「へえ、それってすごいのか?」

「自分で言うのはなんだがな!」


 ゲオルグは「がははは!」と笑って教えてくれた。

 冒険者のランクでAランクは、実力でいえばSランクに次ぐ。現役を退いたとはいえ、元Aランク冒険者として、後進の教育をしているゲオルグは、割と強いらしい。


「だから、我ながら驚いてんだ。まさかあっさり負けるったあな……」

「そうです! 私見てましたけど、ゲオルグさんの攻撃をあんな風に涼しい顔で受け止められるなんて……」


 丁度、手続きが終わったのかヴィオラが戻ってきた。手には、数枚の書類とカードがあった。


「お! それが冒険者カードってやつか!」

「あ、そうです。どうぞこちらを」

「うひょー! 興奮するー!」


 俺はヴィオラから受け取ったカードには目を落とす。

 記載されているのは名前と武器、俺の身分をギルドが証明してくれるというものだ。カードの右半分には、大きくFランクとあった。


「とりあえず、これでお前もめでたく冒険者ってわけだ。俺を倒したんだ。期待してるぜ?」


 ゲオルグはそう言って手を差し出す。俺はその手を取って、握手を交わした。と、ゲオルグが俺の手を握る力を強める。


「……ちょ、なんだよ」

「ああ……俺の傷が癒えたらもう一回勝負しろ! 負けたままなのは悔しい! 次こそ、俺をぶっ飛ばした……あの技の正体を見極めてやるからな!」


 負けず嫌いだった。面倒臭え。





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