二話 盾使い、クビにされる
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それからというもの――俺とシロナはアッシュのパーティーで、順当にクエストをこなしていって1ヶ月。ランクが1つ上がってEランクに昇格した。
ダンジョン1つでランクが上がると考えると、クエストを地道にこなすというのは、中々に非効率だなと思う今日この頃……。アッシュ達と合流するために、ギルドに来ていた。
ちなみに、アッシュ達はCランクに上がっている。討伐クエストで三人の戦闘力を見たが、かなり高いレベルで纏まっていた。単なるイケメンのハーレムパーティーではないらしい。
巷では、今注目の大型ルーキーともてはやされていると、ヴィオラから聞いた。
「さて、アッシュ達は……っと。いねえな」
まだアッシュ達が来ていないようなので、受付で仕事をしているヴィオラに声をかけた。
「よう、ヴィオラ」
「あ、アッシュさん。おはようございます。アッシュさん達なら、まだいらっしゃっていませんよ?」
「見りゃあ分かるよ」
俺はそのままヴィオラと談笑を続ける。すると、どこかからかこんな声が聞こえてきた。
「おい……あそこにいるの、寄生野郎だ」
まだ朝方で人は少ないが、ギルド内が少しだけ騒つく。
寄生野郎――というのは、俺のことだ。不本意ながら、俺はアッシュのパーティーでお荷物として扱われている。
ヘレナからよく「役立たず」呼ばわりされている。
理由は簡単だ。シロナのせいだ。シロナが強いせいで、俺が目立っていないのだ。
俺が格好良くモンスターを倒そうと思っても、シロナが先に倒すわ、倒せても誰も見てないわで、誰も俺の活躍を見ていなかったのだ。
それで付けられたあだ名が寄生野郎。アッシュのパーティー……シロナに寄生して、ランクを上げていることから付けられた。
「グレイさん……否定しないんですか? 寄生なんて……」
「いや、マジ不本意極まりねえんだよな。俺は盾が最強の武器であることを証明したいだけなのに!」
「それも原因の1つだと思うんですよね……。『盾しか持ってない変人』とか、影で笑われてますし……」
おい、誰だ。盾を馬鹿にする奴は絶対に許さない。
俺はヴィオラに誰が言っていたのか問い質そうと、
「ああ、いたいた」
「ん?」
反射的に振り向くと、ギルドの門口にアッシュが1人で立っていた。
いつもはヘレナやセロリを侍らせているはずだが……珍しい。
「おう、やっと来たか。他の奴らは?」
「それなんだけど……実は、グレイに大事な話があってさ」
「大事な話?」
はて? なんだろうか?
首をかしげると、アッシュはいつもの柔和な笑顔浮かべたまま、
「すごく言い難いんだけど……パーティーを脱けてもらえないかな?」
「え?」
思わず驚いたが……よく考えれば不思議ではない。このハーレムパーティーの主人は、もともと俺をシロナのついでに誘っているのだ。
周りからは役に立たない認定をされている俺を、いつまでもパーティーに入れておく意味も理由もない。
俺は頭を掻いた。
「まあ、仕方ないわな……。んじゃあ、シロナにちょっとクビになったって言わねえと……」
「彼女は来ないよ。彼女は僕と一緒に来るからね」
「は?」
どういうことだ……?
アッシュは不敵な笑みを浮かべる。
「いやいや、俺はあいつとコンビを組んでんだぜ? なんなら、付き合ってるし……」
「だから、彼女は僕と一緒に来るんだよ。君とのコンビは解消、別れるとも言ってたよ。昨日……僕の胸の中でね!」
胸の中――?
「それって……」
「そうさ……僕は彼女と一夜を共にしたんだ……。もう君の出る幕はないよ」
「おおう……」
マジかよ。
※
パーティーをクビにされ、シロナも寝取られてしまった俺は、意気消沈してギルドの酒場で飲んでいた。
いや、パーティーをクビにされたのはどうでもいい。一番堪えたのはシロナだ。割とショックだ……あのいけ好かないハーレム脳のアッシュに靡いたのが!
「はあ……明日っからソロか」
ソロだとダンジョンに潜れず、Sランクに上がるのに時間がかかってしまう。
はあ……俺の目標を達成するのに、どれくらい時間が必要なことか。
「まあ、地道にやってくしかねえか……」
俺は「はあ……」っとため息を吐く。
というか、本当にシロナがアッシュとそういう関係を持ったのだろうか。
これでもシロナとの付き合いはそこそこで、あの女の性格はよく知っているつもりだった。だから、まさかアッシュと……予想外だ。
「なによりもショックなのはそこ……だな。まあ、アッシュ達は今日から遠出して三日は戻らねえっつってたし……ことの真偽は確かめられねえな」
戻ってきたら、シロナに直接聞くしかない。
「さてと……いつまでもうだうだしてても仕方ねえ。明日っからまた頑張るかね」
俺はギルドの酒場から外へ出る。
辺りはすっかり暗くなっており、申し訳程度の街灯が、通りを照らしていた。
結構、遅くまで飲んでしまった。
「さっさと宿に戻って寝るか……寝る……」
ちっ……アッシュとシロナの話を思い出して嫌な気分になった。
酒を飲んでいたこともあって、よく回らない頭に手を当てた――その刹那。
「ふはははは! 隙あり!」
「あ?」
突然、闇の中から人影が飛び出してきたかと思うと、俺に向かって鋭い爪を振ってきた。反射的に背中の盾を手にして攻撃を防ぎ、その人影を強引に弾き飛ばす。
人影は一度、飛び退いて俺との間合いを開けた。
やがて、月明かりがその人影を照らす。
「ん……? てめえはアストレア……? なんでこんなところにいやがる……?」
人影の正体は、1ヶ月前にダンジョンで遭遇した――魔王軍の幹部を名乗る吸血鬼のアストレアだった。