一話 盾使い、パーティーに入る……?
※
Fランクダンジョンから戻った俺は――すぐにギルドへ戻った。傷ついたシロナを見たヴィオラは、青い顔をしてすぐに回復職の冒険者を呼んでくれた。
おかけでシロナは命の別状もなく、復帰できたのだが……。
「まさかあのお二人がFランクダンジョンで死にかけるなんて……」
というヴィオラの一言で場が凍りついたのは、言うまでもない。
「おい、あの二人は……」
「まさかFランクダンジョンで……?」
「嘘だろ? あそこは弱いモンスターしかいないはず……」
「もしかして、めちゃくちゃ弱い……?」
偶然居合わせた冒険者達は、嘲笑を含めた目を向けてくる。
まさかこの俺が弱いという不名誉を、シロナも含めて許せるはずもなく声を大にして否定しまくった。それはもう声が枯れるまで――。
「いい!? あたし達は魔王軍の幹部と戦ったのよ! Fランクダンジョンなんかで死にかけるわけないでしょ!?」
「そーだそーだ!」
シロナに乗って誤解を解こうと試みたが、
「なんか魔王軍の幹部とか言ってるぜ?」
「見苦しいな……」
「見苦しい言い訳だな……」
「恥ずかしい奴らだ」
「魔王軍の幹部がFランクのダンジョンにいるわけねえ」
全く信じてもらえず……最後の頼みの綱であるヴィオラに目を向けるが、
「あの……しょ、証拠がないので……」
などと言われてしまい、結局俺達は嘘つき呼ばわり。
俺とシロナは二人して、Fランクダンジョンもクリアできない弱小冒険者と、周囲に知れ渡ることとなってしまった。
「だああああ! ちくしょう! この俺が、弱小冒険者!? ふざけんなあああ!」
「このあたしが!? 弱小!? あああ……あああああ!!」
俺達はその日、吐くまで酒を飲み続けた。やけ食いし過ぎて、請求額がとんでもないことになっていた。おかけで三日ほどギルドの酒場で皿洗いをさせられた。
もう踏んだり蹴ったりだ……!
そうして、皿洗いから解放されて翌日。俺とシロナは酒場で項垂れていた。
「あたし達が弱小とかいう不名誉は、アストレアを叩き斬るしかないと思うのよ」
「そりゃあ俺も賛成だが……」
もう一度、ダンジョンに行きたくともヴィオラに止められている。まさかFランクダンジョンで大怪我した冒険者を、この短期間で再び挑戦させるわけには行かないとのこと。これはヴィオラが……というよりは、ギルドの方針らしい。
「でも、お二人がFランクダンジョンで死にかけるなんて……私としてはちょっと信じられません……! 実は私、ちょっとした伝手があるので、調査を依頼してみます!」
ヴィオラが俺とシロナの身の潔白を証明するために、そんなことを言った。ありがたい。
ちなみに、その調査とやらは1ヶ月くらい先になるらしいので、気長に待つことにした。
「しっかし、手持ち無沙汰だなあ」
「そうねえ……。はあ……さっさと、Sランクに上がる予定だったのに。まさかFランクで足踏みすることになるなんてね」
「全くだ。あーとりあえず、なんかクエストでも受けるか? 財布がすっからかんなんだが」
「そうね〜。そうしましょ」
俺とシロナは立ち上がってクエストボードに足を向ける。ボードに張り出されているFランクのクエストは……やはり、あまり旨味がない。いや、はっきり言ってしょっぱい。
シロナも同じことを思ったのか半眼になる。
「しょっぱ過ぎるわね。はあ……今頃、Eランクに上がってたはずなんだけど」
「まあ、文句言っても仕方ねえだろ」
こうなっては仕方ない。次、ダンジョンへ行けるようになるまでは地道にクエストをこなしていくしかない。
シロナは溜息を吐き、クエストボードと睨めっこする。俺もクエストボードを眺め、目ぼしいクエストがないか探す。
「ねえ、君? もしかして、クエスト探してる? よかったら僕達と一緒に行かないかい?」
「ん?」
シロナが他の冒険者に声をかけられたらしい。
自分が呼ばれたわけではなかったが、気になって視線を向ける。シロナに声をかけたのは、栗色の髪をした美男子だった。後ろにはパーティーメンバーなのか、シロナに負けず劣らずの美少女が二人いる。
「うーん……ねえ、どう思う? グレイ?」
「俺に聞くな」
傍観しているつもりだったが、シロナが話しかけてきたおかけで美男子が俺に気づいてしまった。
「あ……ああ、彼は君の知り合いかな? よかったら君もどうかな?」
「…………」
美男子は柔和な笑みを浮かべ、心優しくも俺を誘ってくれている。だが、チラチラとシロナを横目に見ている辺り、お目当てはシロナなのだろう。下心がパーティーの美少女率からして丸分かりだった。
そのパーティーメンバーも……美男子の背に熱い眼差しを送っている。まあ、そこはどうでもいいか。
「折角、誘ってくれてるんだし、行きましょうか。どうせ暇だし。あたし達」
などと、気軽に言うシロナだが……ついでに誘われている俺の肩身がどれだけ狭いことか。
とはいえ、シロナの言う通りどうせ暇だし――俺は頷いた。
「よかった! あ……自己紹介がまだだったね! 僕はアッシュ。こっちは僕のパーティーメンバーで……ヘレナとセロリだ」
アッシュと名乗った美男子が言うと、二人とも前に出る。
「うちがヘレナよ。よろしく〜」
軽そうな調子のウィザードだった。藤色の長い髪をしている。
「私がセロリ。よろしく」
ヘレナとは対照的で、セロリはとても堅そうな雰囲気のレンジャーだ。右眼には黒バラの装飾が施された眼帯をつけ、綺麗な黒髪を肩口で切り揃えている。
身長は少々低めで、俺よりも頭が二個分小さい。
「なにか」
俺が不躾な視線で見ていたからか、セロリがそう言った。俺は首を横に振る。
「いや、別に」
「そうですか」
俺には興味がないようで、セロリはすぐに視線を外した。
「よし、じゃあ早速クエストに行こうか。こう見えても僕はDランクの冒険者だからね。僕達と一緒なら、君達もDランクのクエストに行けるから。大丈夫! 僕が一緒だから、Dランクのクエストなんて余裕さ!」
「きゃーアッシュ頼りなる〜」
ヘレナがアッシュに抱きついて、イチャコラし出す。
しかし、シロナにご執心なアッシュはヘレナを相手にせず、シロナに「どのクエストがいいかな?」と話しかけていた。
これにはヘレナもはたから見て分かるくらい不機嫌になる。
「なんか面倒臭いことになりそうだなあ……」
「全くです……」
セロリが隣で同感したため、思わず驚く。どうやら、こいつは別にアッシュの顔に吊られてパーティーに入ったわけではなさそうだ。
セロリは呆れた眼差しをアッシュとヘレナに向ける。
「これであなた方が、三回目です」
「どういう意味だ?」
「新しいパーティーメンバーが……です。過去に男女関係で四人が脱けました」
「そりゃあ前途多難だな」
「……それよりも、いいのですか? あなたのパーティーメンバーがアッシュに取られますよ?」
俺とシロナは仮にもお付き合いしている間柄。シロナが他の男と親しげにしているのを容認できるかと言われると、俺としてはちょっとだけモヤモヤしないこともない。
とはいえ、シロナの性格上……この手の男には靡かなそうだから、あまり心配はしていない。
俺が肩を竦めると、セロリは察した様子で口を閉ざし
た。
それから暫くして、クエストを受注したアッシュが戻ってきた。
「じゃあ行こうか!」
こうして俺はアッシュのパーティーに、仮にだが入ることになった。