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最強の武器は、絶対に盾だろ!  作者: 青春詭弁
第一章 盾使い、冒険者になる
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十話 盾使い、ぶっ飛ばす



「ふ……ふははは! さすが妾! あまりのパワーにダンジョンをぶっ壊してしまったようじゃな!」

「なに言ってんのよ。あんた自分でやっておいて生き埋めになりかけてたじゃない」

「な、なんだと!? 口の減らない奴だ……。妾の魔法を弾き飛ばしたくらいで調子に乗るでない!」

「そっちこそ!」


 シロナとアストレアが口喧嘩をしている。面倒だなあ……。

 二人は瓦礫の山の上に立ち、額を突き合わせる。


「妾を誰と心得ている! 妾は魔王軍の幹部が一人! 吸血姫アストレア様だぞ!」

「はあ? 魔王軍の幹部がFランクのダンジョンなんかにいるわけないじゃない! 馬鹿なの?」


 魔王軍と言うと……人間の国々と敵対してる魔族の王――魔王率いる軍隊のことだったはず。

 魔王軍の幹部は、魔王直属の配下であり、指折りの実力者揃いと聞く。


「なーんで魔王軍の幹部なんざが、こんなところにいるんだ?」

「ちょ……まさかグレイ? 本当の本気でこのチビ吸血鬼が魔王軍の幹部だなんて信じてるわけ?」

「ち、チビ吸血鬼……!?」


 アストレアが額に青筋を浮かべる。

 俺は頭を掻いた。


「Fランクダンジョンにしちゃあ、色々とイレギュラーがあったろ? ここよりランクの高いモンスターが出たりとかな」

「まあ、それは……でも、それだけで決めつけるの?」

「別に。つーか、こいつが魔王軍の幹部だろうがなんだろうが、ダンジョンのボスなら倒さねえとだかんな」


 肩を竦めて言うと、眉をピクピクと動かすアストレアが口を挟む。


「おいおい、貴様ら……黙って聞いていればなんだ? 妾を愚弄し過ぎだ!」


 堪忍袋の緒が切れたのか、アストレアが俺の頭を鷲掴みにする。そのまま細い片腕で俺を持ち上げ、頭蓋を砕かんばかりの握力で握り潰してくる。


「このまま貴様の頭……握り潰してやる」

「ちょ……グレイを離しなさい!」


 シロナは腰から剣を引き抜き、アストレアに向かって振るう。アストレアは凄まじい反応速度で、シロナの神速に等しい振り下ろしを躱す――が、わずかに剣先が頬を掠めて、アストレアの顔色が変わる。アストレアはすぐ様、身を翻してシロナの腹部に強烈な蹴りを叩き込む。


「くっ……!?」


 咄嗟に、己の両腕を十字に固めてガードしたシロナだったが……アストレアの膂力によって体が地面を離れ、数十メートル後方に吹っ飛ぶ。

 滑るように地面へ着地したシロナは、地面に膝をついた。


「嘘でしょ……あの吸血鬼、本当に強いじゃないの……!」

「だから言っているであろう! 妾は魔王軍の幹部である! そもそも、貴様らなど取るに足らない存在だと知れ。ふははは!」


 二人が会話している間もアイアンクローをされている俺。

 俺は、自分の頭を鷲掴みにしているアストレアの手首を掴む。


「ほう? 抵抗するか人間。その根性だけは褒めやろう……しかし、この妾から逃れることはっ!?」


 アストレアが言い終える前に、掴んだ手首を起点に腹筋で下半身を持ち上げて、脚をアストレアの腕に絡ませる。そして、重心を高くすることでアストレアのバランスが崩れ――勢いそのまま、アストレアの頭を瓦礫に思い切り叩きつける。


「んぎゃ!?」


 アストレアは再び奇妙な悲鳴を上げて、瓦礫の中に首まで減り込んだ。

 その衝撃か、アストレアの拘束から解放され、自由の身になった俺は盾を構える。


「おいシロナ。かかりが甘い。すぐに抜け出して、襲いかかってくるぞ!」

「わ、分かってるわよ……! でもちょっと待ってちょうだい……さっきので左腕の骨折れたかも……!」

「気合いで乗り切れ」


 冷たく言い放つと、シロナが歯を食いしばりながら剣を構えた。

 そのタイミングで、案の定、瓦礫の中から抜け出したアストレアが鬼の形相で襲いかかってくる……!


「もう許さん! 絶対に殺す!」


 アストレアは目に留まらぬ速さで肉迫する距離まで迫る。シロナは接近するアストレアに反応――剣先をチラつかせて牽制する。

 シロナの剣を恐れたか、アストレアは後ろに飛び退き距離を取った。


「あらあら、自称魔王軍の幹部さんが後ろに下がっちゃってまあ……」

「ち、違うわ! 貴様らなど、どんな手でも倒せるが……妾は油断しない吸血鬼! この妾の魔法で消し炭にしてくれるわ!」


 そう言って、体から魔力を迸らせる。


「あいつ、さっきシロナの剣先が掠ってビビってんな」

「腰抜けって奴ね!」

「違うと言っているだろう! これでも喰らうがいい! 『ファイアーボール』!」


 アストレアが叫ぶと同時に、彼女の背後に巨大な火球がいくつも生成され、ものすごい速度で飛翔――俺とシロナに迫る。

 また下手に対処すると、今度こそ生き埋めになりかねない。そう判断した俺は、シロナを背に庇い、火球を盾で受け止める。火球が盾に衝突すると同時に爆発――全身に走った衝撃の全てを地面へと逃す。

 そうやって盾で火球を五発受け止めると、アストレアが驚愕の表情を浮かべた。


「ば、馬鹿な……!? そんな粗末な盾ごときに……ありえない! 何者なのだ! 貴様ら……!?」


 言いながら、アストレアは再び火球を飛ばす。

 それを俺が盾で塞ぎ、裏からシロナが飛び出す。


「はあああ!」

「くっ……人間の分際で!」


 シロナの剣が上下左右からアストレアを襲う。それを紙一重で躱すアストレアだが――全て躱せず、擦り傷が増えていく。

 接近戦は分が悪いことを悟ったのか、再び距離を取るアストレア。それを許さず、シロナが間合いを詰めて攻め続ける。


「観念しなさい!」

「うるさいわ!」


 魔王軍幹部の意地か……攻撃の間隙を抜い、アストレアの回し蹴りがシロナの側頭部を直撃。シロナは吹き飛び、壁に激突する。


「ぐっ……!」


 受け身を取れたようで、派手にぶつかったがシロナはまだ生きていた。


「おい、大丈夫かよ?」

「ぜ、全然余裕よ……! あたしはSランク冒険者……ひいしては最強の剣士になる女よ! こ、こんなところでくたばってたまるもんですかっ……!」

「そりゃあ頼もしいな」


 とはいえ、もはやシロナは戦えないだろう。強がってはいるが、膝が笑っている。


「ふんっ! 勝負を付けてやる! 『ファイアーボール』!」


 シロナが戦闘不能となり、勝利を確信したアストレアが火球を放つ。

 …………ここだ!

 先ほど、何発も攻撃を受けて火球の速度、威力は覚えた。タイミングは完璧に把握している。

 俺は火球を盾で受けると同時に――火球をアストレアに跳ね返した……!


「へ? んぎゃあ!?」


 自分が放った火球に呑まれ――爆発。

 アストレアは数十メートル後方の壁まで吹き飛び、激突。衝撃で脆くなっていた壁の上部が崩れ落ち、アストレアは瓦礫の中に埋まった。

 瓦礫から再び引き上げると、目を回して気絶していたので、今度は暴れられないようにロープで拘束しておいた。





「なあ、おまえダンジョンのボスなら抜け道知ってるだろ? 言え」

「…………」


 縄で縛り上げ、動けなくなっているアストレアに問いかけるとそっぽを向かれた。

 困った。

 戦闘終了後、応急処置を済ませたが……早めにシロナを治療してやらないと怪我が酷い。

 そのシロナはというと、怪我の具合が悪く地面に横たわっている。


「ふん……確かに、妾は抜け道を知っている。だが、それを教えるとでも?」

「お前、俺に負けたよな? つまりは、敗者ってわけだな」

「うぐっ……あ、あれは油断してただけで……」

「だけど、負けは負けだろ? 誇り高いなんちゃって魔王軍の幹部様は、負けたのに言い訳するのか?」


 とりあえず、煽ってみると――これが思いの外効いたらしい。

 アストレアは奥歯を噛み締め、断腸の想いで口を開く。


「ぎょ、玉座の下! それ以外は教えん!」

「玉座の下か……」


 俺はすぐに玉座を調べる。どうやら、玉座が動かせるらしく、動かしてみると階段があった。

 俺は背中に盾を背負っているので、仕方なくお姫様抱っこでシロナを抱えあげた。


「じゃあなアストレア!」

「え? ……罠だとは思わないのか? というか、妾このまま?」

「罠とかそんなこと考えられるほど頭良くなさそうだからな」

「なっ……き、貴様……覚えていろよ!?」

「忘れた」


 ギャーギャーと喚くアストレアを背に、シロナを抱えて階段を急いで下りた。





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