九話 盾使い、どさくさに紛れる
今日も疲労困憊なので短めです。
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ダンジョンの天井がアストレアによって崩れ――生き埋めになった俺とシロナ。
「ッぶねえ……」
俺は盾で崩落してきた瓦礫を防ぎ……とりあえず、生きている。シロナは俺の下で目を丸くさせている。
見れば分かるが、一応確認する。
「おい、無事か?」
「え……あ、ええ……無事だけど……。ぐ、グレイは大丈夫なの?」
「見りゃあ分かるだろ。余裕だっての」
体を覆える盾のおかげで、瓦礫で押し潰されることはなかった。さすが、世界最強の武器。
ふと、いつもやかましいシロナが大人しいことに気が付く。見ると、シロナの顔が真っ赤だった。というか、俺がシロナの上には覆い被さっているかたちだからか、顔が近い。
シロナは口をもごもごと言い出し難そうに口を開く。
「ね、ねえ……その……あ、あんたの手……あ、あたしの胸を……」
「は? 胸?」
言われて視線を下げると、俺の右手がシロナの豊満な胸を鷲掴みにしていた。確かめるために、数回揉んでみる。
「あ……んっ!? ちょ、なに揉んでんのよ!?」
「いや、折角だから揉んでおこうかと」
「ちょ……や、やめ……んん……やめなさいよ!」
「いで」
怒ったシロナが涙目で俺の頬を引っ張った。
これ以上はまずいと判断し、手を離す。と、そこで少し気を抜いた瞬間――盾の上に積み重なっている瓦礫の重みで、俺の体勢が僅かに崩れかかる。
「おっとと……っぶねえ。まだ生き埋めになる可能性はあんな」
「あ、あんた大丈夫なの?」
「こんくらい問題ねえっての……ちょっと待ってろ」
俺はシロナに一言断りを入れ、全身の筋肉を始動。全ての力を盾に集約させ――刹那、盾の上に積み重なっていた瓦礫を吹き飛ばした。
瓦礫は一帯に飛び散り、俺とシロナはようやく起き上がれた。
周囲は瓦礫に埋め尽くされており、出入り口は塞がれてしまっている。
「あんた……とんでもないわね」
「まあな」
瓦礫が数トン乗っかった程度、全く問題にならない。
積もった瓦礫の上に立ち、周囲を確認。だが、全て瓦礫に埋もれている景色しか見えない。
そういえば、あの美少女吸血鬼のアストレアはどこへ行ったのだろう。生き埋めになってしまっただろうか。
「んー……どうしようかしらね。あたしの剣で出口を塞いでる瓦礫を斬ってみようかしら」
「やめとけ。下手にやって、また生き埋めになったらどうすんだ」
勝手な行動をしそうなシロナの首根っこを掴み、大人しくさせておく。
さて、どうやって抜け出したものか。
ふと、視界でなにかが動いた。暗くて見え難いが――人の足のようなものが、瓦礫から生えているのが見える。
その足は、バタバタと動いており――なんとなく瓦礫に埋まってる人物が誰か分かった。
「なあ、シロナ」
「ええ……多分、アストレアね」
シロナも気付いていたのか、呆れた溜息を吐いた後、二人でアストレアのところに近寄る。
『もごごご!』
「なあ、どうする?」
「この子ぶっ倒せば、ダンジョンクリアよね?」
「この状態でやるつもりかよ……容赦ねえ……」
いくらなんでも可哀想だ。いや、どちらにせよ討伐はするのだが……体裁とか、外聞の問題である。
心優しい俺は、頭を掻きながらアストレアを助け出すために綺麗な両足を掴んだ。
「ちょ……まさか引っ張り上げる気?」
「こいつ倒しても、どのみちこっから出れなきゃ意味ねえだろ? 一応、ダンジョンのボスなら抜け道とか知ってるかもしれねえし」
「そう……優しいのね」
「そんなじゃねえっての」
言いながら、引っ張り上げようと視線を落とす。と、アストレアのパンツが視界に飛び込んできた。
ほう……黒か。
「よっこらせっと……」
「んぎゃ!?」
アストレアを瓦礫から引っ張り出す。
引っ張り出されたアストレアは、間抜けな悲鳴を上げ、見事に助け出されるのであった。