プロローグ
辺境の村に住む七歳だった俺――グレイは見てしまった。
狩をしている大人達が持っているそう……盾を!
襲いかかるモンスターの牙や爪を盾で防ぎ!
時には盾で殴りつけ、剣で刺す!
それを茂みの陰から見ていた俺は、こう思った。
「あれは世界最強の武器だ!」
……と。
以来、俺は盾に魅了され、盾に取り憑かれ、盾と共に己を鍛えた。
始めの頃は、鍋の蓋を盾として、盾というものの理解を深めた。周りの大人達から微笑ましい目を向けられたが、気にしなかった。
数年が経って、俺も大人達と一緒に狩に行くことになった。そこで、盾以外の武器を渡されたが、俺は猛烈に拒否した。
「盾があればいい! 盾が最強!」
大人達は困った顔をしていたが、知ったこっちゃない。俺は盾だけでいい。
しかし、現実はそう甘くない。
実際、狩で俺は役に立てなかった。原因は、攻撃力だ。
盾は身を守れるし、殴って物理攻撃にも使える。だが、剣と違って盾は打撃による攻撃だ。つまり、使用者の力に攻撃力が依存する。
当時、非力な子供の俺では、どうやったってモンスターにダメージを与えるのは難しい。
だから、考えた。盾で戦うには、超人的な肉体が必要だ。ならば、やることは一つ……!
「うおおりゃああああ!」
俺はひたすらに体を鍛えた。
盾を振り回しても疲れないスタミナ。モンスターを倒せる腕力。盾を持ったまま素早く動ける俊敏性。
それら全てを手に入れるために、とにかく体を鍛えに鍛えた。
そうして、再び数年経ったある日の狩。
俺は盾を用い、単独でモンスターを狩ることに成功する。そこからの成長は、自分でも凄まじいと思う。
ただ、盾を振り回すのではなく、敵の急所に――的確に攻撃を当てる練習を行ったり、基礎練習を続けたりと――俺はおよそ十年を盾にだけ費やした。
結果、今では村一番の盾使いと呼ばれている。
「っと……」
俺は自分の体を覆える大きさの盾を構えて、ブルイノシシの突進を受け止める。
ブルイノシシは、頭にツノを生やしたモンスターで、突進攻撃しかしてこない。獲物としては狩易く、村ではよく振舞われている食料だ。
俺は突進を受け止めた後、盾を持ち上げてブルイノシシの首に盾の先端を振り下ろす。
ブルイノシシに尖った先端がクリーンヒットし絶命。その場で倒れ、ピクリとも動かなくなる。
俺は倒したブルイノシシを肩に担ぎながら、
「んー……俺は、このままでいいのかね」
盾に魅了されてはや十年。
この辺境の村で一番の盾使いと呼ばれて……割とチヤホヤされている。
実際、村の誰よりも強い自信はある。盾は最強の武器だと信じている……。しかし、物足りない。そう、物足りない……!
「村一番じゃあなくて……世界で一番になりてえなあ……」
世界で一番の盾使いになって、世界最強の武器が盾であることを――世界に知らしめるのも悪くない。
「よし、決めた! 俺はこの田舎村から出て、世界一の盾使いになってやる! そんでもって、盾が最強の武器だって世界に知らしめてやらあ!!」
そうと決まれば早速、行動に移すことにする。
村に帰って、村長や馴染みのある奴らに声をかけて村を出る旨を告げる。
「ほう……ならば、宴じゃな! グレイの門出を今宵は盛大に祝うのじゃ!」
「「おお!!」」
いや、別に宴とかいらねえんだけど……。
張り切る村長の呼びかけに村人達が反応し、結局夜はどんちゃん騒ぎ。
最終的には主役の俺を差し置いて、みんなで酒を飲んでワイワイしていた。この野郎。
そういう俺も、楽しんだけど。
宴が終わった翌日の朝、俺は村人総出の送り出しで村を出た。
「絶対に戻って来いよグレイ!」
「待ってるわよ〜!」
「元気にやるのじゃぞー!」
俺は送り出しの言葉を受けて手を挙げた。
今まで俺を育ててくれてありがとな……。
漢グレイ――必ず世界最強の盾使いになって帰ってくるぜ!
そうやって、意気揚々と駆け出した俺は――少し湿った斜面で滑り、そのまま転がり落ちた――!
※
村の人間に聞いた話だが、王都の方では冒険者という職業があるという。
冒険者は、平たく言えば何でも屋だという。主な仕事はモンスターの討伐やダンジョン探索。薬草採取などの簡単な依頼をこなして報酬を受け取り、生計を立てているそう。
もしも、王都で仕事するのなら冒険者がいいと推された。なんでも冒険者にはランクというのがあって、F〜Sまである。
ランクは実力で定められ、新人はFランク。ベテランがBランク以上。そして、トップがSランク。
このSランクというのが重要で、このランクは冒険者の中でも最強の称号なのだそう。
つまりだ……手っ取り早く、お金も稼げて盾が最強の武器であることを証明するのなら、冒険者がいい! というわけだ。
「で、なにお前ら?」
王都に向かっていた道中のこと。
俺はいかにも山賊っぽい連中に絡まれていた。
「へへ、金目のもんを出しな!」
「さもないと命はねえぜ!」
うわあ……村に住んでいた頃も、時折山賊が襲ってきたことがあった。全員纏めて、盾の錆にしたけど。
いや、盾の錆ってなんだよ……。
俺は右手に装備している盾を指でコツコツと鳴らす。
「さーてと、まあちょうどいいわ。村から出る時に路銀を忘れて宿代どうすっか考えてたところなんだわ」
「はあ? お前なに言って……」
「お頭、こいつちょっとやばいんじゃ……」
異変を感じたらしい山賊。しかし、もう遅い……!
「はっはっはっ! 金目のもんを出しな山賊ども! さもないとてめえらの命はねえ!」
それから数分後。
合わせて三人の山賊を締め上げて、有り金全部と売れそうな物品を奪い取った。
山賊を倒した後も、モンスターに襲われるなど戦闘が何度かあったが、無事に王都へ到着した。
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やる気が……出ます!