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05 暗殺者は気まぐれで人助けをする。過程は悪い事だが。

「募金活動にご協力お願いしまーす!」

「お願いしまーす!」

「暮らしで困っている方の支援をお願いしまーす!」

「お願いしまーす!」


 レンガ造りの建物が軒を連ねる街に、ボランティア活動をする人々の声が響く。

 ここは旧市街。ハーデイベルク市の観光スポットであり、買い物で来る客が多く行き交う所だ。


 ボランティアは今言っているように、募金活動をしている。難民や貧困層、そういった人々を助けるためにお金を集めているのだ。

 そんな人々に交じって、何故かカリンもいた。遠い目をして、覇気がない。まるで死人のようだ。


「……お願いしまーす……お願いしまーす」


 彼女は募金箱を手に、ロボットのように同じ言葉を繰り返している。


 どうしてこんな事になったのか。それは少し時間を遡る。



 ◆◆◆



「お姉ちゃん、これでいい?」


 ハナは鉄パイプをカリンに見せた。彼女は受け取ると、ジッと見つめ、重さを確かめ、そしてからハナに返した。


「いや、もっと長い方がいいな。あと2、3cm長いとベストなんだけど」

「分かったぁ」


 ハナは鉄パイプを持って向こうへ行った。カリンは視線をフライパンへと戻す。


「厚みはいいんだけどな……もう少し浅いのは無いかな? カネならジジイからたっぷり貰ったから、高くてもいいんだけどよ」


 彼女は顎を手で触りながら呟く。


 カリン達は買い物をしにホームセンターに来ていた。

 といっても、生活用品を買うためではない。『武器』を買うためだ。


 通常、暗殺者は必ず何かしらの武器を携帯している。しかし、カリンは一度辞めた身、今は丸腰だ。一応、丸腰なりの戦い方はあるのだが、やはり心細い。

 武器が無くても、魔法で戦う事もできる。だが、魔法は有限であり、使い過ぎれば体調を悪くするリスクがある以上、なるべく節約しておきたい。だから武器がいる。


 ホームセンターを選んだ理由は、元から殺しのために作られた物よりも、安くて強力な物が手に入るからだ。

 例えばフライパン。元は焼いたり炒めたりする道具だが、見方を変えれば金属の塊である。撲殺するのにちょうどいい重さであり、ちょっとした盾としても使える。近接戦闘ではとても役に立つ。

 また、武器を作るための素材を買う事もできる。鉄パイプを例にすれば、魔法で変形させる事で剣を作り出せる。既製品を買うために闇の店を探し回るよりも時間短縮になり、こだわる事もできる。メリットだらけだ。


「んー。自分で作った方がいいかなぁ……既製品だと、どうも痒い所に手が届かないっていうか……」

「そりゃあ、まあ、人を傷つけるためのフライパンなんて売っていませんよ……あ、これなんかどうです?」


 スヴェンはそう言ってフライパンの一つを取った。カリンはそれを奪うように手にする。


「お、いいじゃんコレ。アンタ、意外といい目してるな」


 カリンは買い物かごに入れると、スヴェンの肩を叩いた。本当は頭を撫でたいのだが、身長差の関係で撫でにくい。


 買い物に付き添っているのはハナだけではない。スヴェンもヴィマラもだ。

 友達の姉という事で手伝ってくれているようだが、どうもそれだけではないらしい。


「あの……やっぱり止めません? その……人殺しなんて……」


 スヴェンは小さな声で聞いてきた。


「あ?」

「やっぱり僕は反対です。ハナのお姉さんであるアナタに、そんな事させたくありません」

「うるせぇな」


 意見してくる彼をうるさく思ったカリンは、少し怖い顔をしてみせた。

 彼はすぐに怯えた。脚は震え、尻尾はクルンと内側に巻かれる。しかし、目だけは真っ直ぐ彼女を見つめていた。

 カリンが暗殺者である事を彼は知っている。さっきバルドゥイーンがバラしたからだ。それでも意見が言えるのだから、彼の意思はかなり強いのだろう。


「だから、さっき言っただろ。アタシは殺ししか知らない。そんなアタシにこの街を救える、人に親切にできるチャンスがやってきたんだ。だから、やるんだ。それに、アタシが助けたから、アンタ達は助かったんだ。そこはちゃんと分かってる?」

「それは感謝してますけど……でも、ハナは……」

「ハナは許してくれた。『自分がなりたかったヒーローになれるなら、凄く嬉しい』ってな」

「そんな……」


 スヴェンはショックを受けたように(うつむ)いた。

 その気持ちをカリンは理解できないわけではない。カタギからしてみれば、友達が殺しを容認するなんて嫌なのだろう。

 しかし、これはハナのためだけではない。この街のためだ。バルドゥイーンにやらせるわけにはいかない。


 最低最悪の魔法使い。それがバルドゥイーンの二つ名だ。それはただ単に不死身だからというわけではない。

 魔法とは精神の力だ。精神力が高い程、その力は強くなる。そして彼は頭のネジが飛んでいる。いわゆるサイコパスだ。だから、魔法の力は非常に強力であり、『歩く最終兵器』とまで呼ばれている。

 『最低最悪』とはそこだ。文字通り不死身なだけでなく、この世のあらゆる物を破壊するだけの力がある。もし、今回の一件を彼がやればどうなるか。地図からハーデイベルク市が消える、それは間違いない。

 それを阻止するためにもカリンが何とかしなくてはならないのである。


 カリンはスヴェンを励まそうと手を伸ばした。すると、ヴィマラが駆け足でこっちに来るのが見えた。


「すいませーん。砥石ってこれでいいですか?」


 彼女はカリンのそばまで来ると、息を切らしながら訊ねてきた。

 パッケージを受け取って、印刷された写真を見る。直方体の石、昔ながらの砥石だ。


「ああ、これこれ。魔法で剣を作る事はできても、切れ味はどうしてもなまくらになっちまうからな。こいつでしっかり研がねぇと」


 カリンは笑顔で買い物かごに入れる。


「あの、スヴェンさん?」


 彼の様子を見たヴィマラは話しかけた。


「うん、ゴメン……ダメだった」

「そう……ですか……」


 スヴェンの返事を聞き、ヴィマラも俯く。彼女もカリンが殺しをするのを止めさせようと考えていた。それがうまくいかず、ガッカリしたのだろう。


「……カリンさん。正義の父、イナーム神にかけて、そんな事ばかりしていると天罰が下りますよ」


 しばらくの沈黙の後、ヴィマラは口を開いた。


「天罰……ね。覚悟はできてるよ。アタシには殺ししかないって分かった時から、ろくな死に方しないんだろうなって。硫酸たっぷりのプールに落とされようが、生きたまま皮を剥がされようが、手足をもぎ取られてレイプされようがな。仕方ねぇよ」


 カリンはため息をついた。


「そんな……」


 その言葉を聞いたヴィマラは、とても悲しそうな顔をした。そして少し考え込むと、再び口を開いた。


「じゃあ、少しでも良い死に方ができるように、ボランティアをしましょう!」

「へ?」


 突拍子もない話に、カリンは目を丸くする。


「私達、今、貧困で困っている人のためにボランティア活動をしているんです。一緒にやりましょう?」

「あ、いいね、それ」


 スヴェンは嬉しそうに賛成した。


「ちょうど、これから募金活動をしようってグループで計画していたところなんです。やりましょう? ね?」


 スヴェンとヴィマラは、カリンの返事を聞かず、手を掴んで引っ張り始めた。


「え? いや! ちょっと!」


 いきなりの事に抵抗する事ができないカリン。そのまま二人に連れて行かれる。


「せめて会計させて! というか、ハナ! 助けてくれ!」


 カリンはハナを呼んだ。



 ◆◆◆



 時間は戻って現在。カリンは相変わらず、死んだ目をして募金活動を行なっていた。


「募金活動にご協力お願いしまーす!」

「お願いしまーす!」

「暮らしで困っている方の支援をお願いしまーす!」

「お願いしまーす!」


 ボランティアの人々は声を出す。しかし、どうも集まりが悪い。ほとんどの人が目の前を素通りしていくのだ。


「……たくよ、こんな偽善活動して何になるってんだ」


 カリンは舌打ちしながら呟く。


「偽善じゃありません。慈善です!」


 隣にいたヴィマラはすぐに訂正した。


「どっちでもいいよ。……というか、何でこんな事を始めようなんて思ったんだ?」

「イナーム教の教えにあるんです。『貧しい人には分け与えなさい』って」

「教え……ね。じゃあ、アンタの意思で始めたわけじゃないんだな?」

「いいえ。その教えに共感したんです。だって人は一人では生きていけません。寄り添い合って始めて生きていけるのですから」

「寄り添う……か。本当にそんな世の中になればいいのにな」


 ヴィマラの言葉に思うところがあり、ついポロリとそんな言葉が出た。


「……カリンさん?」

「いや、昔から思ってた事があってよ。家族とそうじゃないのってどんな違いがあるのかなってな」

「はい?」

「家族って言ってもよ、血のつながりだけじゃないんだ。暗殺ギルドじゃさ、仲間同士を『兄弟』とか『姉妹』って呼ぶんだ。ま、家族なわけだ。アタシはハナとママ以外は疎遠だったけどさ、それでもみんなは明るく接してくれた。今思えば、アタシって恵まれてたのかもしれねぇな……」

「……そうだったんですか」


 ヴィマラは興味を持ったのか、ジッとカリンを見つめる。


「で、だ。家族が家族な理由って考えたんだ。そしたら、同じような考え方をしているからじゃないかって思ったんだ。だから、もし、誰もが同じような考え方をしていたら、みんな家族になれるんじゃねぇかなって思ってよ」

「……そうでしょうか?」


 ヴィマラは首を横に振った。


「私は違うと思います。お互いの違いを認め合う事が大事なんじゃないかって思うんです」

「違いを認め合う……そういえば、毒殺が得意な奴と銃殺が得意な奴がいたけど、どっちが上だとかでケンカした事が無かったな。そういう事か?」

「いえ……それは違う気が……」

「違うか。でも、なんとなく分かるぞ。どっちがいいとか決めないで、どちらも受け入れるって事だろ?」

「まあ、そういう事でしょうか?」

「なるほど。みんな違ってみんな良い……うん、いい事だ」


 カリンは自分が言った事に頷いた。


「じゃあ、決めた。アタシは違いを認めねぇ奴をブチ殺す。で、認める奴しかいねぇ世界を作るんだ」

「それは極論ですよ……」

「そうか? みんなが違いを認めれば、誰も人を悪く考えなくなるんじゃねぇか? そしたら人を殺そうと考える奴もいなくなる。アタシも、もう誰も殺さずに済む。どうだ? アンタが望んだ通りになるぞ」

「確かにそうですけど……何か違うような……」


 ヴィマラはとても困った顔をした。そんな彼女を無視して、カリンは前を向き、再び舌打ちをする。


「しっかし、ブチ殺すといえば、さっきから素通りしてく奴らだな。こっちが一生懸命に頼んでるのに全然相手にしねぇ。ケチくせぇ。先にこいつらから殺してやろうか?」

「止めてください! ……でも、このままだと、明後日の炊き出しは中止しないといけません……皆さん、お腹を空かしているのに……」


 ヴィマラはションボリとした。それを見てカリンは同情する。


 飢えの苦しみをカリンはよく知っているつもりであった。

 修行中、彼女は何度も断食をさせられた。暗殺が一日で済むとは限らない。目標が出てくるまでじっと、何日も待ち続けなくてはならない事だってあるからだ。

 三日から七日間、水の一滴も口にできなかった。地獄のような苦しみ。あまりのつらさに、死にたいと何度思ったか分からない。自分の腕がごちそうに見えた時だってある。

 だから、食事はとても大事だと思っている。それができない事がどれほど不幸であるかもだ。


 炊き出しを必要としている奴が普段どれだけ食べているか、それは分からない。しかし、満足に食えなくてつらい思いをしているのは分かる。

 この苦しみを知っているなら、誰だって協力したくなるだろう。それをしないという事はきっと知らないのだ。そう考えて、カリンは腹が立ってきた。奴らばかりが幸せな思いをしているのが我慢できない、何か罰を与えたいと思った。


「……ちょっと待ってろ。アタシが何とかするから」


 そう言ってカリンはグループから離れた。そして、お金を持ってそうな人を見つけ、そばに寄った。


「すいません。募金活動に協力してください」


 カリンは話しかけた。相手はいかにも成金なマダムだ。


「何ざます? あたくしはそういうのに興味がないざます。どきなさい」

「そうですか。ご協力、どうも(・・・・・・・)。」


 カリンはその場から離れた。その手には、装飾だらけの嫌味たらしい何かが握られている。財布だ。盗んだのである。


 スリは暗殺者にとって必須スキルだ。施錠された扉等を開くため、必要な物資を現地調達するため。そういった場面で必要となる。

 もちろんカリンにもそのスキルが備わっていた。それもスリで食っている人以上の技術がある。このくらい楽勝であった。


 財布ごと募金箱に入れる。とても軽かった箱が一気に重くなった。カリンは悪い笑みを浮かべると、次の獲物を狙う。

 誰でもいいわけではない。お金を持っている奴だけを狙う。金持ちだったり、旅行者だったり、自分ばかりが裕福な思いをしている者だけだ。


 次々と盗む。どんどんと募金箱は重くなる。あっという間に箱の中は九割くらい満たされた。

 これでたくさんの人が飢えをしのげる。そうカリンが安心した時、遠くの方から叫び声が聞こえた。


「泥棒ー!」


 まさか気づかれたか。不安になったカリンは声がした方を向く。すると、自分の事ではないと分かった。

 一人の少年が走ってくる。薄汚れた白猫だ。その手には財布、どうやらそれを盗んだのがバレたらしい。


「どけー!」


 彼はぶつかる勢いで迫ってきた。カリンは避ける。ただし、片足はそのままでだ。案の定、彼は足につまづいて転ぶ。

 その時、カリンは彼の財布も盗んだ。そして募金箱から適当な財布を一つ取り出し、それと入れ替える。


「捕まえたぞ! このガキ!」


 倒れた少年の元に狼の男が駆け寄った。そして少年の服を掴むと、無理矢理立たせる。この男が被害者らしい。


「俺の財布はどこだ! 返せ!」

「財布の事言ってんのか? 知らねぇよ! いつの間にか無くなったんだ!」


 両肩を掴んで激しく揺さぶる男、それに対し少年は少し怯えた様子で答えた。そんな二人にカリンは、わざとらしく声をかける。


「おい、どうした?」

「どうしたもこうしたもあるか! こいつが俺の財布を盗みやがった!」

「財布? 落ちてた(・・・・)けど、アンタのか?」


 カリンは何食わぬ顔で手にした財布を男に見せた。当然、彼は首を横に振る。


「いや、違うな」

「じゃあ、人違いだ。アンタの財布を盗んだのはソイツじゃない」


 見せた財布をしまいながら、カリンは言う。


「そんなはずは無い! 俺は見たんだ! このガキが俺のポケットに手を突っ込んでいるのを!」

「見間違いじゃねぇのか? ソイツは囮で別の奴がやったとか」

「それだ! おい、ガキ! お前の仲間はどこに行った!」

「だから財布は知らないって! オイラが聞きたいよ!」


 少年は混乱した様子で答えた。


「まあまあ、落ち着けよ。ソイツ、言葉が通じてねぇみたいだぞ。何言っているかも分からねぇ(・・・・・)し、正直に答えたくれたところで無駄さ。で、アンタはどうしてもカネを取り戻したい。だったら、答えは一つだ」


 カリンはそう言って、募金箱の中から財布を一つ取り出し、中のお金を出した。


「さっき、親切な人が寄付(・・)してくれた。カネが無くて困った人のためにな。アンタもそうだろ? だからやるよ」

「何?」

「えっと、5000ユーリか。足りるか?」

「ご、5000……だと?」


 男はお金を凝視したまま、唸るように言った。

 自動販売機で缶ジュースが2ユーリで売られている。高いと言われているそれが2500本も買えるくらいなのだから、なかなかの大金である。


「もっと欲しいなら言ってくれ。ただし、その子を許してくれたらばの話だけどよ」

「……いや、これで十分だ。いいだろう、今日は勘弁してやる」


 男はお金を受け取ると、少年を放した。


「後の事はアタシに任せといてくれ。アンタはもう忘れてどっかに行った方がいい」

「ああ、そうする」


 男はそのまま去って行った。それを見届けてから、カリンは少年に話しかけた。


「次はもっと上手くやれ。もっとカネを持っていて、マヌケな奴にしときな」

「え? 姉ちゃん、ラマビア語ができるのか?」


 少年は目を丸くして彼女を見た。言葉が通じるのが意外だったらしい。


「ああ。できるし、分かる。昔、色んな国の言葉を習ったからな。ほら、アンタの獲物だ」


 カリンは答えると少年から盗んだ財布を取り出し、差し出した。彼はそれを引ったくるように取る。


「……姉ちゃんも泥棒?」

「いや。でも、まあ、似たようなもんだ。……にしても、この辺でスリなんて止めときな。盗賊ギルドの縄張りだからよ」

「盗賊ギルド?」

「泥棒同士の集まりさ。仲間内でルールを作って、協力して仕事をしているのさ。ほら、あのマークが見えるか? あれが縄張りの印だ」


 カリンは建物の一ヶ所を指差した。そこには、目の形のマークが彫られている。


「縄張りで勝手に盗んでたらシメられるぞ。さっさと仲間になった方がいい。アタシみたいに盗みの上手い奴を探しな。『アヴァの推薦だ』と言えば、すぐに仲間になれるはずだ」

「アヴァって名前なんだ……教えてくれたのには感謝するよ。でも、なんでオイラにそこまで?」


 少年は首を傾げる。


友達(・・)が言ってたんだ。『貧しい人には分け与えろ』ってね。難民なんだろ? ラマビア語しか話せないって聞いてるからな。で、難民なんだから、もちろん貧しいに決まってる。でも、ただ与えるだけじゃダメだ。自分で稼がねぇとな。だから、今回だけは味方してやるし、働き口を紹介してやった」

「今回だけ?」

「ああ。次、目立った悪さをしたら、殺しちまうぞ。ついでに盗賊ギルドの連中にも伝えとけ」

「こ、殺すって……」


 『殺す』という言葉に、少年は尻尾を太くした。


「姉ちゃんはこう見えて暗殺者だ。悪い子は、お『死』置きよ」

「暗殺者……」


 カリンが悪い笑顔をしてみせると、少年から唾を飲み込む音が聞こえた。


「盗賊ギルドの連中と一緒にコソコソ盗んでいる間は見逃してやるからよ。ほら、行った行った」

「……ありがとう」


 少年は小さな声で礼を言うと、去って行った。カリンはそれを微笑んで見送る。


「……へ、親切にするって気持ちいいな。ボランティア(・・・・・・)にはまる気持ちも分かるよ……なんか、本当にヒーローになれる気がしてきた」


 彼女は独り言を言った。


「よし。このカネ届けたら、買い物の続きだ。ホームセンターだけじゃなく、スーパーにも用ができたからな。しっかりと殺しの準備をして、アタシの手でこの街に幸せをブチ撒けてやるよ」


 彼女は大きく伸びをすると、ヴィマラ達の元へと戻っていった。

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